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クールでアングラな渋谷系クラシックの夜 『爆クラ!<第74夜>「野宮真貴と渋谷系なクラシックを考えてみる」』レポート

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2018年11月6日

クールでアングラな渋谷系クラシックの夜 『爆クラ!<第74夜>「野宮真貴と渋谷系なクラシックを考えて


 

クールでアングラな渋谷系クラシックの夜 『爆クラ!<第74夜>「野宮真貴と渋谷系なクラシックを考えてみる」』レポート

 

 

 

クラシック音楽を大音量で楽しみつつ、クラシック音楽の新しい聴き方を提案し続けている「爆クラ」。評論・エッセイを主として、コメンテーターやディレクター、プランナー、プロデューサーなど、特定の肩書きに収まらずに活躍する湯山玲子を主催者とするこの企画は、ゲストを招いて毎回異なるテーマでトークし、内容に沿ったクラシック音楽を流して鑑賞しながら曲の歴史や背景などを語るというものだ。

 

 

 

2018年10月18日(木)第74夜のゲストはピチカート・ファイヴ三代目のヴォーカリスト、野宮真貴。野宮の柔らかく透き通った声と少し無機質な印象を与える歌唱はピチカート・ファイヴの都会的な曲とぴったりマッチ。ツイギーのように華奢な体にファッショナブルな服を纏い、洗練とかわいらしさを併せ持つ彼女は90年代のおしゃれの象徴となった。

 

 

 

フォトセッションにて。野宮の赤い衣装と湯山の黒い衣装は事前に合わせたものだとのこと。二人とも自分に似合うものを着用し、とてもファッショナブルだった。

 

 

 

「渋谷系なクラシック」をテーマに据える今回は、まずは冒頭で「渋谷系」について湯山が言及した。まだインターネットがない、もしくは浸透していなかった90年代は、アンダーグラウンドに属するマイナーなカルチャーに関する情報は、人脈を通して入手するしかなかった。この時代はCDと共にレコードの店が多くつくられ、レアな盤を収集することがステータスだった。渋谷のレコード店に通い、さまざまなジャンルの音楽を聞いたミュージシャンが、後に渋谷系と呼ばれる音楽を育てることとなる。

 

 

 

 

渋谷系は、Afternoon Teaをはじめとするカフェと同時に発展する。そして渋谷系の参考資料としてカジヒデキの「甘い恋人」の映像が紹介された。念入りに服を選び髪型を整え、カフェでチーズタルトを食べる、草食男子の走りのような青年たちは、今という瞬間をゆるやかに肯定しながら日常を楽しんでいるように見える。恐らく渋谷系というジャンルは、音楽に留まらず、カフェやファッションなどの要素を巻き込み、エッジの効いたおしゃれで居心地のよいカルチャー全般として伝播していったのだろう。

 

 

 

 

トーク前半は「遊戯性」「エキゾチズム」という2つのキーワードで進行。「遊戯性」では、バート・バカラックやヨハン・シュトラウス、ドビュッシーなど、旋律が跳躍する曲や教会旋法の一種であるドリア旋法で作曲された音楽が紹介された。

 

 

 

 

また、ピチカート・ファイヴの「悲しい歌」の映像も流れた。当時の野宮のメイクや、ストッキングにチェックのボックスプリーツのスカートを合わせ、トリコロールカラーを取り入れたファッションは、フランスの女優アンナ・カリーナや、アンナ・カリーナをミューズとした映画監督・ジャン=リュック・ゴダールの採用したファッションにインスパイアされたものだ。そしてアンナ・カリーナや野宮のファッションはオリーブ少女を生み、渋谷系のアイコンともなっていった。

 

 

 

 

「エキゾチズム」に関しては、ピチカート・ファイヴの「Me Japanese Boy」の映像が紹介された。「Me Japanese Boy」は海外の人でも歌えるように歌詞がローマ字表記になっている。この曲はバート・バカラックのカバーだが、バカラック本人が曲を聞き、ピアノで弾いてくれたというエピソードを野宮が披露。また、ピチカート・ファイヴの「magic carpet ride」の映像も登場した。「magic carpet ride」はシタールでアレンジされ、エキゾチックな仕上がりになっている。

 

 

 

 

またYMOの「FIRECRACKER」も取り上げられた。YMOは世界で聴かれるための戦略として、エキゾチズムやダンスミュージックを取り入れ、歌を取り去ることで言語の制約をなくす方針を取ったという。対して野宮は、ピチカート・ファイヴには「戦略はなかった」という。そもそも海外でやりたいという気持ちがあったわけではなく、流れとして海外で受け入れられたということだ。戦略なしにも関わらずピチカート・ファイヴはヨーロッパにとってのオルタナティブとなり、時代の最先端の音楽としてヴェネチア・ビエンナーレのオープニングにも招待された。

 

 

 

 

トーク後半では「明るさ」がキーワードになった。湯山によれば、モーツァルトの「クラリネット協奏曲」は「ピチカート感」があるという。野宮は、震災直後はピチカート・ファイヴの曲は聴けないと言われたことがあると語った。悲しみなどの負の感情を共有するのではなく、根底に肯定感や明るさが漂うピチカート・ファイヴの曲は平和な時のための曲なのだ。

 

 

 

 

そして明るい曲としてピチカート・ファイヴの「HAPPY BIRTHDAY P’PARCO」や、アレンジがクールな曲として「大都会交響楽」が流れると、野宮が「大都会交響楽」を歌うというサプライズが起こり、会場は大いに盛り上がった。クラシックは口ずさむことができることを軽視し、構成を重視するが、湯山は今回のトークの裏テーマは「野宮さんでクラシックをつくりたい」だという。そしてビゼーのカルメン「ハバネラ」を野宮に歌ってもらうという野望を語った。

 

 

 

 

フォトセッションにて。二人はこれまでに何度も仕事で一緒になっており、また同じ年の生まれだという。

 

 

 

 

この日紹介された曲と映像:

前半

カジヒデキ「 甘い恋人 」(映像)
バート・バカラック「プロミセス・プロミセス」
リヒャルト・シュトラウス「英雄の生涯」
ドビュッシー「ベルガマスク組曲」メヌエット
ピチカート・ファイヴ「悲しい歌」(映像)
サミュエル・バーバー「カプリコーン協奏曲」
ピチカート・ファイヴ「Me Japanese Boy」(映像)
ピチカート・ファイヴ「Magic Carpet Ride」(映像)
YMO「FIRECRACKER]
Popcorn「Tap Moi La!」(映像)
モーリス・ラヴェル「マ・メール・ロワ」
プッチーニ「トゥーランドット」

後半

野宮真貴「東京は夜の七時」(映像)
モーツァルト「クラリネット協奏曲」
ピチカート・ファイヴ「HAPPY BIRTHDAY P’PARCO」
ピチカート・ファイヴ「大都会交響楽」
レナード・バーンスタイン「キャンディード」
ビゼー「カルメン」より「ハバネラ」
ピチカート・ファイヴ「HAPPY SAD」

 

 

 

この日の「爆クラ!特別ドリンク」は野宮のニューリリース「東京は夜の7時」にかけた特別ドリンク「代官山は夜の7時」を提供。

 

 

 

テキスト:中野昭子

写真  :中野昭子・鈴木佳恵

 

 

 

 

 

【ゲストプロフィール】

野宮真貴(のみやまき)

ピチカート・ファイヴ3代目ヴォーカリストとして、90年代に一世を風靡した「渋谷系」ムーブメントを国内外で巻き起こし、音楽・ファッションアイコンとなる。 2010年に「AMPP 認定メディカル・フィトテラピスト(植物療法士)」の資格を取得。2018年はデビュー37周年を迎え、音楽活動に加え、ファッションやヘルス&ビューティーのプロデュース、エッセイストなど多方面で活躍している。1031日には近年行なっている音楽プロジェクト「渋谷系を歌う」のベスト盤「野宮真貴 ソングブック」をリリース。また112日より東名阪のビルボードライブツアーを予定している。
www.missmakinomiya.com

 

 

 

 

【主宰・ナビゲータープロフィール】

湯山玲子(ゆやまれいこ)

著述家、プロデューサー。現場主義をモットーに、クラブカルチャー、映画、音楽、食、ファッション等、博覧強記にセンスが加わった独特の視点にはファンが多い。 NHK『ごごナマ』、MXテレビ『ばらいろダンディー』レギュラー、TBS『情報7daysニュースキャスター』などにコメンテーターとしても出演。著作に『女ひとり寿司』(幻冬舍文庫)、 『クラブカルチャー ! 』(毎日新聞出版局)、『女装する女』(新潮新書)、『四十路越え ! 』(角川文庫 )、上野千鶴子との対談集「快楽上等 ! 3.11 以降の生き方」(幻冬舎)。『文化系女子という生き方』(大和書房)、『男をこじらせる前に』(角川文庫)等。日本大学藝術学部文芸学科非常勤講師。(有)ホウ71取締役。クラシック音楽の新しい聴き方を提案する爆クラ! 主宰。父は作曲家の湯山昭。

 

 

 

 

【場×クラシック音楽 爆クラアースダイバー】

 

瀬戸内海・水島臨海工業地帯の工場夜景と瀬戸内海のサンセットを体感する船の音楽会

 

【日時】2018年12月1日(土曜日)

・瀬戸内海サンセット篇クルーズ     16:30~17:50

・漆黒の闇と工場夜景篇 クルーズ       18:30~19:50

・ラウンジパーティ「昭和歌謡とクラシックに溺れる夜」                                          

                                                                             18:00~22:00

 

【会場】

(クルージング)笑う遊覧船「はつひ丸」(鷲羽山下電ホテル前ビーチ乗船場)

(ラウンジバーティー)鷲羽山下電ホテル(岡山県倉敷市大畠1666-2)

 

【参加費】

クルーズ(パーティー参加費を含む) 7,500円/一便(税込)

                  ※料金は一運行あたりのものです。

ラウンジパーティー         前売り 2,000円(税込)当日 2,300円(税込)当日

 

【申し込み方法】

・瀬戸内海サンセット篇クルーズ 

https://t.livepocket.jp/e/bakuclasunsetcruise1201

・漆黒の闇と工場夜景篇 クルーズ

https://t.livepocket.jp/e/bakuclanightcruise1201

・ラウンジパーティ「昭和歌謡とクラシックに溺れる夜」 

https://t.livepocket.jp/e/bakuclaparty1201

 

 

 

 

 

 



Writer

中野 昭子

中野 昭子 - Akiko Nakano -

美術・ITライター兼エンジニア。

アートの中でも特に現代アート、写真、建築が好き。

休日は古書店か図書館か美術館か映画館にいます。

面白そうなものをどんどん発信していく予定。