2月11日(木)より、恵比寿ガーデンプレイスを中心としたギャラリー、シネマ、イベントスペースで、第8回恵比寿映像
祭「動いている庭」が開幕しました。
本展覧会タイトルにもなっている「動いている庭」とは…
毎年植物が芽吹き、止まっているように見える“庭”が、敏感に自然の余波を受けて、少しずつ変容していく事例をもと
に、荒地において植物の生態系が移り変わっていく、「動いている庭」という庭の在り方を見出した、フランスの
思想家・庭師であるジル・クレマン氏。
人間や人間が取る行動そのものが世界の中心ではなく、自然が作り上げていく世界を中心とするという、彼の着想に
ヒントを得て今回の映像際のテーマは名付けられたものです。
ジル・クレマン氏のドキュメンタリー《動いている庭》より
Photo:Kenichi Kawazaki
まず、映像作品で必ず観て欲しいものはジル・クレマン氏のドキュメンタリー《動いている庭》です。
「動いている庭」に基づくの思想のプロセスが、ジル・クレマン氏ご本人から説明されているため、本展を理解する
手助けをしてくれます。 会期中には現代における庭の可能性について「庭と公共性」という観点から、様々な活動の
事例を含めながら考察するシンポジウムが開催されます。
その他には、大地をカンヴァスに見立てて大きな作品を制作する、アメリカの美術家たちを追った《トラブルメーカズ
ランドアートの話》。 貴重な映像資料やインタビュー映像からランドアートを再考するドキュメンタリー映像作品です。
そして、会場を沸かせてくれた映像作品は「躍動するアジアーDigiCon6 ASIA」よりウー・キョンミンさんの
《ジョニーエクスプレス》です。 2000年にスタートしたTBS主催によるアジア最大規模のショートフィルムDigiCon6
ASIA。 将来アジアの映像界を背負って立つであろう8ヶ国の才能を紹介している特別プログラムです。
レセプションで上映されたウー・キョンミンさんの《ジョニーエクスプレス》は、5分20秒の中に凝縮された何とも
言えないストーリーが魅力的です。
「第8回恵比寿映像祭…上映作品は時間に縛られるし、ちょっとな…」という心配している方々に朗報!
本展の見所は”映像”だけじゃないんです!
ジル・クレマン氏の「動いている庭」を基盤とした、展示作品も数多く紹介されているので、そちらもピックアップ
して紹介します。
恵比寿ガーデンプレイスセンター広場では《霧の庭”ルイジアナのために”》がオフサイト展示されています。
地形や気象の環境条件により風が気ままにうみだす大気の彫刻ともいえる「霧」をつかった作品を発表している
中谷芙二子氏。 こちらの作品は2台のダンプカーから20分おきに霧が発生するのでお楽しみに〜。
日仏会館ギャラリーではクワクボリョウタ氏による《風景と映像》が展示されています。
girls Artalkでも過去に紹介した21_21galleryでの展覧会や大地の芸術祭で作品を拝見しました今回テーマである
「動いている庭」に合わせた光と影の新作インスタレーションを発表しています。
ご本人の話によると俯瞰した情景の3人称的視点と、電車からの情景である1人称的視点の前作と比べ、今作では
電車を2台にすることによって視点が交錯し、2人称的視点が生まれるように工夫したそうです。
photo:Shizune Shiigi, Courtesy Tochigi Prefectural Museum of Fine Arts
都内を一望できる解放感溢れるスペース・STUDIO38にはこちらの作品が展示されています。
上田麻希氏の《匂いのための迷宮》は視覚ではなく嗅覚による香りのインスタレーションを展開しています。
天井から吊るされた複数の小瓶にはヒヤシンスなど三種類の花の香りが入っており、ひとつひとつ嗅ぎわけながら
同じ香りを辿っていくと前進するように配置されています。
まるで目には見えない庭を散策する気分が楽しめる作品なので遊び感覚で体験してみてください!
香りには記憶を呼び起こす作用があるので、自分が思い起こしたイメージと、ビルから見える素晴らしい景色を
重ねてみてはいかがでしょうか。
そして、同じフロアにはメディアアーティストの藤木淳氏による《マテリアライゼーション・キャストシリーズ》が
展示されています。
平面の二次元と立体の三次元、何が”現実”で何が”仮想”なのか、問いかけられているような感覚になりました。
ソースコードやアニメーション、クロノロジーマップを用いて、システムの構造やプロセス、環境の存在を浮かび
上がらせています。 本作では、プログラミングによる表現に加えて3Dプリンターの造形もあります。
そして、庭を散策するように構成された会場であるザ・ガーデンホールでは数多くの作品が出展されています。
その中から抜粋して気になった作品をお届けします。
鈴木ヒラク氏の展示作品を紹介します。
《GENGA #001-#1000 (video)》は、1000枚のドローイングをおさめた作品集「GENGA」が、モーフィングに
よってつながれてく映像作品です。
鈴木氏曰く、タイトルである「GENGA」は言語「GENGO」と銀河「GINGA」の言葉を掛け合わせたもので、日常の
中で発見したものを写真を現像するようにドローイングで書き溜めたものの集積だと仰っていました。
描かれている画を見ていると…平面作品でありながら立体作品にも見えたり、ものによっては象形文字のように
見えました。
スケッチ、落書き、下書き、など線によって描き出されるドローイングは二次元的表現ではありますが、平面で
ありながらも時間や空間といった三次元へと拡張していく不思議な感覚を味わえた作品でした。
本展最終日にはご本人が参加されるラウンジトークも予定されています。
ニューヨーク出身のアーティストたちの共同作業によって実現した《ウォー・ピクルス・プロジェクト》。
ピクルスの瓶には自費出版のパンク雑誌や政治誌のスタイルで制作されたラベルが貼られています。
ピクルスも戦争も資本主義でできたものというメッセージが込められている作品です。
銅金裕司氏の《シルトの岸辺あるいは動く庭》という作品は、容器に入った岩絵の具の中にアリジゴクという昆虫が
入っています。
すり鉢は浅すぎると獲物に逃げられ、深すぎると砂が落ちてくるという、せめぎ合いの中で発揮される造形力。
アリジゴクによって刻一刻と描かれるドローイングはまさに自然の芸術です。
こちらはクリス・チョン・チャン・フイによる《固有種》シリーズという作品。
ある特定の条件が揃った環境下でしか存在しない固有種の植物をモチーフとした機械仕掛けの原寸大植物模型。
これは生まれ育った土地から移住を強いられた、固有の文化や尊厳を失う先住民の宿命とともに、複製メディア
により可能となる固有文化の流通を重ねています。
佐々木有美+ドリタ氏が手がけた最先端の技術を使って虫の足音を聴ける《Bug’s Beat》。
ヒラクワガタ、ダンゴムシの他に、小麦粉にわいてしまう害虫であるゴミムシダマシの足音に耳を澄ましていると、
自分の存在が虫の大きさまで小さくなったような不思議な感覚を味わえる作品です。
目に見えている当たり前の世界を問いかけられているような気がしました。
会期中は虫のコンディションによって入れ替わるので何度でも足を運んでみてください。 初日17:45からのラウンジ
トークもお見逃しなく〜。
その他にも会場には複数の映像作品が出展されており、「動いている庭」をテーマに様々な表現に触れられます。
会期中には地域連携プログラムとして恵比寿近隣のギャラリーや文化施設で特別プログラムが実施されるほか、
ザ・ガーデンホールではガイドツアーやシンポジウム、そしてアーティストを招いてのラウンジトークが展開
されます。 恵比寿の街を散策しながら新たな「庭」を探しに行ってみましょう。
文 / 新麻記子 写真 / 新井まる
【情報】
第8回恵比寿映像祭「動いている庭」
期間:2月11日(木・祝)〜2月20日(土)《10日間》
会場:恵比寿 ザ・ガーデンホール、ザ・ガーデンルーム、日仏会館ホール・ギャラリー、STUDIO38、
恵比寿ガーデンプレイス センター広場ほか
時間:10:00〜20:00 ※最終日は18:00まで
入場無料 ※上映、ライヴ、レクチャーなど、定員制のものは一部有料。
HP:http://www.yebizo.com