超入門クラシックサロンレポート
秋の夜長をクラシックで遊ぶ ~クラシック演奏会の思ひ出~
先日、初台のオペラシティのコンサートホールへ東京フィルハーモニー交響楽団の
演奏を聞きに行きました。
実はこのコンサートは、東京フィルハーモニー交響楽団とGirls Artalkのコラボ企画
「girls Artalk主宰新井まると学ぶ コンサート付き! 超入門クラシックサロン」
と題された全三回に亘る企画の最後を締めくくるものでもありました。
この企画は、クラシック初心者のgirlsを対象としたプログラムで
そのうち最初の二回は東京フィルハーモニー交響楽団 広報渉外部長 松田 亜有子さん
による講義を受けて日常に浸透したクラシック音楽やその歴史そして
実際にコンサートで観賞する演目についての予備知識を学ぶことが出来ました。
講義を通して、クラシックに対する素朴な疑問が解消され、さらにはオーケストラの起源などその構成要素についての詳細を知れば知るほど実際に演奏を聴いてみたい気持ちが高まり、当日はリラックスした気分でコンサートに臨めました。
振り返れば、今まで、クラシック観賞は受け身な姿勢で行くことが多く、
演目や作者について事前にしっかりと調べてから会場へいくことが
あまりなかったため予備知識をもってから臨むこと自体がとても新鮮でした。
考えてみると、北京ダッグのように土中に埋まったまま、口をあけているだけで、
美しいものや珍しいものが味わえる、と考えるのは少し傲慢です。
自ら新しい世界に飛び込む勇気と少しの知識、そして心強い仲間の後押しが
あればこそクラシックの扉は開かれるのではないでしょうか。
今回の演奏会では私にとっていくつもの「初めて」がありました。
オペラシティのギャラリーへは何度か訪問していますが、
東京フィルの現在の本拠地ともいえるコンサートホールへ入るのは「初めて」。
ピアノの演奏をコンサートで聞いたことはありますが
若干20歳のチョ・ソンジンという
痺れるほど瑞々しく才気あふれる演者の演奏は「初めて」。
プレトニョフという、魔法のような指揮を情熱的に時には紳士らしく行う
魅力的な指揮者の演奏を聴くのももちろん「初めて」。
そして、スクリャービンという、興味深い経歴や思想を持った独創的な
作曲家の交響曲を集中して聞くのも「初めて」。
このようないくつもの「初めて」、を体験する興奮と生の臨場感溢れる
演奏の音の力に五感を揺さぶられました。そのせいか、演奏はあっと言う間に
過ぎ去ったように感じました。
演奏会の演目は、ロシアのミハイル・プレトニョフ指揮による、
ショパンのピアノ協奏曲第1番とスクリャービンの交響曲第1番でした。
前半のショパンは、チョ・ソンジンの軽やかなピアノに魅了され、会場に
散見した明日のソンジンを目指す若き観賞者たちも、
その清涼感溢れる演奏に集中して聞き入っていました。
ソンジンが演奏したショパンのピアノ協奏曲は、
ショパンがワルシャワに滞在していた1827年-1831年ごろに作曲されたもの
と言われ、当時政治的に迫害されていた母国へ対する
愛国心とプライドに溢れた曲と評されています
テンポの良い第三章の旋律を聞くうちに
以前ポーランドへ旅行した際に、冬のワルシャワの公園で
雪化粧をしたショパン像を見た思い出が胸をよぎりました。
言うまでもなく、ポーランドの人にとってショパンは英雄であり
その名を冠した国民的ドリンク ヴォッカも愛飲されています。
ヴォッカとともに食したポーランド風餃子とロシアンサラダの味が
舌に蘇り、演奏中おなかが鳴ってしまいました。
ソンジンの指は縦横無尽に鍵盤を走りぬけ、まるで重力を感じさせません。
その音はまるで、口に含むだけで溶けてしまう色鮮やかなマカロンのようでした。
続いて休憩を挟んで演奏された、スクリャービンの交響曲第1番は
あまり演奏される機会が多くない演目とのことです。
ラフマニノフと同時期モスクワ音楽院で学び、後にニーチェや神秘思想に傾倒した
という時代の先端行く存在だった彼が作曲したこの交響曲は壮大であり
実に6つものセクションから構成されています。特に終結部は、
混成合唱が入り幽遠な雰囲気から一転、重厚でドラマチックなエンディングでした。
スクリャービンがこの曲を作曲したのは1899年ごろ。
お江戸では、そのころ鹿鳴館が数年前に完成し、大日本帝国憲法が発布された年
(明治32年)で明治政府が成熟を迎えていた時代でした。
クラシック初心者にとって演奏時間の長く構成の複雑な交響曲はややハードルが
高いと思われましたが、途中パンフレットで曲の構成を確認したり
ロシア語で歌われる歌の歌詞などを参照することで
飽きることなく観賞することができました。
特に終結部にて、オーケストラをバックに
歌われたメゾソプラノの小山由美さんとテノールの福井敬さんの滑らかで
情熱的な歌声はクライマックスを印象的に彩っていました。
あれだけの人数の奏でる楽器に負けずとも劣らない楽器のような声に魅了されるとともに、
芸術を称える歌詞を合唱団と繰り返すくだりは会場全体が一体となり
高揚感に包まれていたように思います。
どちらの演目も、プレトニョフがメランコリックかつ力強い指揮で東京フィルハーモニーを見事に率いており、その懐の深い力量に素人ながら魅了されました。
演奏後は、新井さんや他の参加メンバーと興奮と感激の言葉をひとしきり語った後、
それぞれ帰路につきましたが、その道すがら演奏会での
非日常体験を反芻し翌日も夢見心地でおりました。
また近いうちに、脳細胞の活性化とリフレッシュを兼ねて、今度は新たな友人も誘い
次のクラシックの扉を開けてみたいと思います。
文:ソウダミオ
撮影:上野隆文、荒田仁史