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禁じ手?封じ手?「もちつもたれつ」コミュニケーション型アートの未来とは

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2021年1月20日

禁じ手?封じ手?「もちつもたれつ」コミュニケーション型アートの未来とは


禁じ手?封じ手?「もちつもたれつ」コミュニケーション型アートの未来とは

 

 

「もちつもたれつ」をキーワードに人のつながりや地域との関係性を構築するワークショップ等の活動を続けている美術家ユニット「KOSUGE1-16」。代表作品のひとつである「どんどこ!巨大紙相撲」は親子から絶大な人気を誇る参加型プログラムですが、コロナの影響から初のオンライン開催が決まりました。アートの捉え方や、隅田川と葛飾北斎をテーマにしたアートプロジェクト「隅田川 森羅万象 墨に夢(通称すみゆめ)」の企画として開催する意味などについて代表の土谷享さんにお話を伺います。

 

ーーKOSUGE1-16さんはどんなアートユニットですか。これまでの活動を教えて下さい。

 

僕も美術大学を出ていますが、作品をつくることは、個人の表現で湧き出てくるものがアート……という先入観がある。そんな教育を受けてきました。

そういう、芸術は爆発!的なものじゃなくて、環境を選ぶ、環境が表現させるということもあると思うんです。僕の場合はそういうアート活動なら続けていけるなと思っていました。

 

そうして、今の妻でありユニットのパートナーの車田と一緒に暮らしながら制作をしていくのですが、「葛飾区小菅1-16 」という最初に住んだところがそのままユニット名になっています。

東京のいわゆる下町で、当時周りに住んでるのはおじいちゃん、おばあちゃんばかり。

東京大空襲の時に荒川の向こう側から避難してきてそのまま住んでいる人たちが多くて、僕たちが住んでいた家も焼け野原になった跡の廃材でできた平屋だったんです。

 

2001年に開催した自宅を使ったアートプロジェクト。その名も「OPEN HOUSE」

 

格安物件だったので、住みはじめたわけですが(笑)汚いし、隣の音も聞こえるし嫌だなぁと最初は思ってました。そのうち仕事で帰りが遅くなった時に、ポストにおかずやポテトチップスなどご近所の人たちからのお裾分けが入っていて。そのうち段々と、これはSさん、これはYさんからだ…とか、わかるようになっていきました。

「もちつもたれつ」みたいなことって、僕も当時すっかり忘れていたなぁと。自分だけでいきてるんじゃなくて、環境によって生かされている。

お風呂もなかったから銭湯に通っていたんですけど銭湯コミュニティからも学ぶことが多かったし、大好きになった銭湯で結婚記念写真も撮ったんです。そんな感じで、地域にどっぷりになりまして、はじめは嫌だったけれど却って大好きな場所になった。

そういう、「もちつもたれつ」ということを小菅1-16から世界に輸出できないかなぁと思ったのがはじまりです。

 

ということで、フルコースの料理を作って、これがアートだ!みたいな見せ方はやってなくて、人とのつながりとか、地域のなかに入って、リサーチがそのまま作品になっていったりとか。アートと全く関係ない人たちと創発的なプロジェクトをやったりだとか……そういうことを20年近くやってきています。

 

ーー今回のどんどこ!巨大紙相撲は、どんなところが「アート」なのでしょうか。

 

2004年、ちょうどアテネオリンピックが開催されていた年に、東京都現代美術館の教育普及プログラムで

「MOTオリンピック」というワークショップをやったんです。

 

子供たちが勝手に考えた競技で競い合うという内容だったのですが、その時に参加してくれた子どもたちのためにKOSUGE1-16が作ったプログラムが巨大紙相撲だったんです。

 

相撲の世界はスポーツと乖離しているという気づきがあって、そこから新たな関心が生まれました。

いわゆる近代スポーツのアスリートは自分から切磋琢磨してフィールドに立っていますよね。相撲の場合は違って、中学生くらいから身体が大きい子の噂を聞きつけて親方が訪ねて、養子縁組になって……みたいに、自分の意思だけではなくて周りに支えられながら関取になっていくわけです。

 

美術のおもしろいもう一つの側面は、自分が作ったものがひとり歩きすることだと思っているんです。

どんどこ!巨大紙相撲は、相撲の関取が土俵の上に立っているプロセスが、アート作品が展覧会会場にあるのと似ているなと思ったんです。

 

モダニズム的なアートはアートだけで成立する純粋なアートに向かった歴史がありますが、アートはアートの文脈のものだけじゃないと思うんです。例えば、たまたま参加したワークショプ(=巡業)に、その巡業会場の親方(リーダー)の考えが入ってきたり、参加者と一体感が出てきたり……そういう余計なものがくっついてくる。そのほうが、作品の強度が上がるという体験をみんなで共有したいなと。

作って戦うだけじゃなくて、タニマチがいたり、地区ごとに巡業したり、グループで作ったりという理由はそういうところにあると思います。 

 

2019年に両国で行われたどんどこ!巨大紙相撲の様子。子どもたちが自慢の力士を運んでいる。

 

ーー地域とのつながりについて。「タニマチ」のシステムや具体的なエピソードについて教えて下さい。

 

すみだの場合は、個人や事業者さんから募っています。

もっと小さな地域でやる場合は、学校のコミュニティや公民館に作った力士を持っていって、応援をお願いすることもあります。

 

商店街のお肉屋さんやお魚屋さんに、力士の名前や部屋の名前をつけてもらうこともあります。12年前、巣鴨で開催したとき魚新(うおしん)」というお魚屋さんが名付けた部屋名は「魚新部屋」。提案された力士名は「鯛の里」。魚屋さんそのものでしたね(笑)。 

 

力士のデザインや、名前にもその時代が反映されていて面白いんですよ。

ピカチュウ、どらえもんは毎年人気がありますが、今年は鬼滅の刃や、アマビエなんかもあります。ちなみに昨年のすみゆめでの優勝力士は「目玉宇宙人」という浮世離れした名前でした。

 

昔、安土桃山時代頃の、庶民が文芸活動なんかを自分たちのものとして庶民化していくプロセスのなかで、「風流」とか「ばさら」とかありましたよね。高尚な芸術というよりも、そういうものに近いと思うんです。その時代その時代の世相が反映されている、それの令和バージョンなのかな。

 

どんどこ!巨大紙相撲 にしすがも場所 商店街への出稽古ワークショップの様子(2007年、にしすがも創造舎)

力士づくりの様子

 

ーー紙相撲を墨田区でやる意味とは?

 

葛飾に住んでたときも、すみだのコミュニティと近かったし、僕の多くの作品が「made in sumida」なので、ホーム的な気持ちもあります。実は墨田区で「どんどこ!巨大紙相撲」を大規模に開催出来たのは、2019年の「すみゆめ」が初めてだったので、一緒に色々やってきた人たちにとっても、待ちに待った感があったんじゃないかな。街の中でどんどこ!巨大紙相撲に取り組みたい人も多かったからね。

 

両国国技館で観客全員が相撲を真剣に見ているかというとそうじゃなくて、本気の人は砂かぶり席、枡席の人は花より団子的に飲み食いメインだったりする(笑)。

相撲そのものがスポーツというよりは、「場」として成り立っているんじゃないかと思うんです。相撲における「場所」という考え方が、僕が取り組んできたアートと近い振る舞い方をもっている文化だと思っています。

 

そういう意味で、墨田区という下町が持っているコミュニティ力を紙相撲の中で生かしていきたい、という期待は大きいですね。

 

また、墨田区では新しいコミュニティをつくるというよりも、既存のコミュニティがたくさんあるので、そういう人達が一つの部屋のような感じで参加してくれているのかも。

墨田区全体で、それぞれの地区がひとつに集まる機会は、実はあまりないと思うんです。だから、いままでない繋ぎ方、再編集ができているのではないかと思います。

 

ーー今年初の試み、電子どんどこ!について教えてください。

 

今回は、巡業(ワークショップ)の参加者が一堂に会するのではなく、リアルの会場ではスタッフ達が巡業で製作された力士を土俵に立たせ、参加者はスマホやPCなどのデバイスを使ってリモート参戦する形式で実施することになったんです。それを「電子どんどこ!」って呼んでいます。

 

やっぱり、人が集まるから楽しいとか、人と人が密に寄り添うから場が生まれると一方的に思ってきた部分もあると思うんですね。でも今その部分が問われている。

じゃあ、こういう時にはどういう集まり方ができるのかとか、どんなコミュニティが作れるのかというのは新しいチャレンジで。これまでの巨大紙相撲のコンセプトを引き継ぎながら電子でやるのは、自分としてもすごいハードルの高い挑戦だと思っています。

 

リアルと比較すると満足いくようなシチュエーションではないんですよね。でも、苦しいのに、楽しい、というマゾ的な状況の中にいる(笑)。そういうところからアートを生み出すエネルギーが生まれることもある。それがアーティストの性(さが)なのかもしれないですね。

 

時代的にも、スマホやPCなどデジタルが生活に馴染んでいるので、今電子化するというのはタイミング的にはよかったんじゃないかなと。

そう簡単に答えを出しちゃうと面白くないし、そういうところをゴリゴリ模索していくのが文化活動の面白いところでもあると思います。

 

電子どんどこ!巡業配信中の土谷さん

 

1994年に出版された「サラエボ旅行案内」という本がありまして。当時ものすごく危険な状況にあったサラエボをユーモアでミシュランガイド的に仕立てた本なのですが、その中で「危機の意識が高まるにつれて、芸術の生産性が上がる」ということが書かれていて、若い頃にとても影響を受けたんです。

 

今は日常のなかにコロナが入ってきちゃっていて、生殺しともいえるような状況ですよね。

そんな状況だからこそ、意識的に芸術活動の生産力を上げていけるチャンスなのかと捉えていて、今回は素晴らしい機会をいただけたと思っています。

 

これは価値があるものだよ、と最初から押し付ける作品ではないんですよ。

はじめての試みなので盛大な放送事故になるかもしれないし、そういう部分が現代アートの面白さだと思います。はじめから美味しいとわかっているものが食べたいならアマゾンプライムでいいじゃないですか(笑)。

最適化された環境に身を置くのか、そうじゃないのか…僕はそうじゃない側です。

 

ーー新しい試み、参加者の集まり具合などはいかがですか。

 

それが、昨年の参加者のママさんたちの口コミの影響もあったようで、チラシを撒いた瞬間にすべての巡業の枠が埋まってしまったんですよ。

高知県でも同時に開催しているんですが、こちらも町内の各家庭に情報が届くように回覧板に入れてもらってチラシをまわしたらすぐ埋まっちゃった。チラシの裏面を娘の漢字練習に使っています(笑)。

 

コロナ禍で規模も縮小した事もありキャンセル待ちもでたり、今年はコロナでイベント事がなかったので、みんな飢えているのかもしれませんね。なんとタニマチさんは参加チームよりたくさん集まりました(笑)

 

ーー普段の高知県でのご家族との暮らしについても伺いたいです。

 

ひょんなことから約5年前に高知県に移住しましたが、半径5キロ以内にコンビニもない、自販機しかない田舎なんです。文化的にもかなりおおらかな地域で「もちつもたれつ」が自然とおこなわれているところ。物々交換だったり、貨幣じゃない経済活動がありますね。

 

ご近所さんからは野菜や果物のお裾分けをよくいただきます。2−3日留守にしてると、家の前が野菜とかでいっぱいになっていたりするんですよ。そういう意味では、もたれっぱなしです。

 

桑の実を食べすぎると口が真っ黒に!

 

自然も豊富で、散歩していると自然に食べられるものが実って、ジョギングの途中で見つけた桑の実を採ってジャムにしています。

 

ずっと人と一緒に作品をつくることをやってきましたが、高知に来てその意味がよりクリアーになってきたような感覚があります。やっぱり困難な時代になってもいろんな人や環境とコミュニケートしていくことが僕のできるアートだと思っています。そのための方法はまだまだ無限にある様に思います。

 

文=新井まる

 

<土谷さんからのメッセージ>

 

 

【イベント情報】

どんどこ!巨大紙相撲 北斎すみゆめ場所

 

日時:令和3年2月7日(日)13:30〜17:00(予定)

会場:すみゆめYouTubeチャンネルで配信 https://sumiyume.jp/event/dondoko2020/

 

主催:「隅田川 森羅万象 墨に夢」実行委員会、墨田区

特別協賛:YKK株式会社

協賛:株式会社東京鋲兼

助成:公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京

メディア・パートナー:J-WAVE 81.3FM

 

【Profile】

©Hikaru Saito

KOSUGE1-16 

土谷享と車田智志乃の美術家ユニットとして 2001 年から活動。現在は代表の土谷享がコンセプトを引き継いで活動中。高知県佐川町が活動拠点。ある土地や人々の関係に内在されているハビトゥス(共通の年輪の ような存在)の形骸化に注目し、生き生きとしたかたちで再機能させる試みを行っている。 巨大な遊具やスポーツ器具を主に木製で、人力で動くよう制作し、プロジェクトを通じて参 加者同士あるいは作品と参加者の間に「もちつもたれつ」という関係をつくりだす。 

 

出典

「サラエボ旅行案内 ―史上初の戦場都市ガイド」©1994 FAMA

 



Writer

【代表】新井 まる

【代表】新井 まる - MARU ARAI -

話したくなるアートマガジン「ARTalk(アートーク)」代表

株式会社maru styling office 代表取締役

 

イラストレーターの両親のもと幼いころからアートに触れ、強い関心を持って育つ。大学時代からバックパッカーで世界約50カ国を巡り、美術館やアートスポットなどにも足を運ぶ旅好き。新卒採用で広告代理店に就職し3年間勤務の後、アパレルEC部門の販促に約1年間携わる。人の心が豊かになることがしたいという想いから、独立。2013年にアートをカジュアルに楽しめるwebマガジン「girls Artalk」を立ち上げる。現在は「ARTalk(アートーク)」と改名し、ジェンダーニュートラルなメディアとして運営中。メディア運営に加え、アートを切り口にした企画・PR、コンサルティングなどを通じて、豊かな社会をめざして活動中。

好きなものは、自然と餃子と音楽と旅。

 

●Instagram: @marumaruc   

話したくなるアートマガジンARTalk(アートーク)」