【前編】12月3日より公開!! ポップで刺激的な作風 『アズミ・ハルコは行方不明』
松居大悟監督インタビュー 〜本作品の制作や撮影について〜
国内外で高い評価を受ける30歳の若き才能を持つ松居大悟監督がメガフォンを取り、“女子高生、ハタチ、アラサー、”と三世代の女性たちの生き方を浮き彫りに描いた、山内マリコの同名小説『アズミ・ハルコは行方不明』を映画化した本作。
“行方不明の主人公”には『百万円と苦虫女』以来の単独主演になる蒼井優。そして、ハタチ世代を代表する女子・愛菜役には、NHK連続テレビ小説「とと姉ちゃん」で国民的女優になった高畑充希。その他にも若き才能が集結したことでも大きな話題になっています。
ポップで刺激的な作風でありながら、笑いと毒、スリルと愛に満ちた、これまでにないストーリーをつづった松居大悟監督に迫りました。
『アズミ・ハルコは行方不明』について
ー 作品制作について ー
girls Artalk編集部:
山内マリコさんの原作も読ませていただいたのですが、女性特有の同性同士の距離感や異性に対する恋愛観など、男性である松居監督が描くうえで気をつけた点などありましたか?
松居大悟監督:
知ったかぶりはしないようにしようと思いました…女性のことはわからないし。原作者、脚本家、プロデューサー、主演2人、編集マンも、いずれも女性が核にいて、その意見に振り回されながら、ひたすら聞く耳を持とうと心がけました。その方が正しいかなと思い…サンドバックみたいな気持ちで受け入れていました(笑)
girls Artalk編集部:
いいですね〜(笑) (girls Artalk編集部も女性ばかりなので)
松居大悟監督:
監督だから「違う!こうだ!」みたいなことをしたらこの作品が破綻すると思ったんです。女性の生き様を描くには、とにかく身近にいる女性の意見を聞いて創ろうというのはありました。多分、命を吹き込んでくれるのは僕じゃなくて、中にいる人たちだ!と思っていたので、そういう意味では不安で心配だったけど、女性側に立つというか…立たざるをえなかった(笑) また、出演している世代が、高校生、ハタチ、アラサー、アラフォーと違いますからね!登場人物と一緒に築き上げていきながら創っていた感じはありますね。
©森清 (C)幻冬舎文庫
girls Artalk編集部:
見まもるような立場でもあったわけですね。原作小説と比べるとさらに時間軸をミックスしていると感じました。そこにはどのような意図があるのでしょうか?
松居大悟監督:
小説を文字で読んだ時にはスッと読めたのですが…これを映像化したらハルコが居なくなったことが理屈で見えてしまうと思って。順番を追って描いていくとサラッとしすぎちゃうんですよね。
girls Artalk編集部:
そうですね、シンプルになりますね。
松居大悟監督:
そういう物語に見られたくないという想いがあって…「この人が行方不明になる物語なんです!」ということを伝えたいわけではなくて、「色んなことがあるけど…言葉、情報に囚われずに生きていこうぜ!」じゃないですけど…「見えない人同士が影響し合いながら生きていくんだよ。」という。
もう少しだけ前向きなものにしたいのと同時に、映画を感覚的に鑑賞してもらいたいと思い、時間軸を混ぜこぜにミックスしたんです。
girls Artalk編集部:
納得しました!映画作品のみに出てくる、劇場で女子高生集団女性ギャング団がアニメ映画を観ているカットも斬新でした。
松居大悟監督:
原作ではハーモニー・コリン監督の『スプリング・ブレーカーズ』を観ているんですけど、それは使えないからどうしようとなり、ジャパンアニメーションだ!と閃きました。個人的にひらのりょうさんのアニメがすごく好きで、アニメっぽくなくて疾走感があるんですよ!基本「っぽい」のがあまり好きじゃなくて…アニメっぽくしたくないからひらのりょうさんに依頼したり。その他にも、映画音楽っぽくしたくなかったので環ROYさんにお願いしたり。また、ストーリーも”こういう嫌なことが重なって居なくなりました。”って親切丁寧に描いちゃうと邦画っぽいな。って思いました。
girls Artalk編集部:
嗚呼、なんか分かる!
松居大悟監督:
『地方都市のヒリヒリした心のひだを描く』…みたいな。それって見たことあるし、簡単にそうなりうると思いました。原作を元に構築したら普通に暗くなっちゃうから…それをしっかりとポップで、元気に、邦画らしくないものにしよう!と思った過程で、原作の時系列をいつの間にか弄っていました。
girls Artalk編集部:
そう言われると感じたのですが、女子高生たちの服装が次第にピンクを多用するようになった背景にはそのような想いが隠されていたんですね。
松居大悟監督:
そうかも。普通の女子高生がピンクに纏うのは最強モードになったのを象徴しています!
girls Artalk編集部:
怖いもの知らずで、男性を恐れない。
松居大悟監督:
そう、笑っているこの場所が自分の居場所というわけです。
girls Artalk編集部:
なるほど。本作制作にあたり監督自ら暗くなってしまうような地方都市の現状を目の当たりにしたと思うのですがどのように感じられましたか?
松居大悟監督:
原作に目を通した時に「この人はどうして僕の風景を知っているんだろう。」と驚きました。作中にも出てきますが、国道沿いの風景とか、その風景の香りとか、普遍的なんだろうと思います。自分の祖父・祖母の実家にいく時の風景を思い出しました。後部座席からダッシュボードの景色とか…
girls Artalk編集部:
映画作品の中でも何度も出てきますもんね!
松居大悟監督:
「この景色を知っている、これはあなたの物語です。」って思って欲しいので、意識的にやっています。
ー撮影についてー
girls Artalk編集部:
撮影日数は何日ぐらいでお撮りになったのでしょうか?
松居大悟監督:
17日間ですね。
girls Artalk編集部:
かなりの場面カットが多いのに…すごいですね。
girls Artalk編集部:
今回、ダブルヒロインである蒼井優さんと高畑充希さんということもあり、それぞれの演技や画的な部分などどういうことを求められてられましたか?
松居大悟監督:
空気感を意識しましたね。女子高生たちは騒げば騒ぐほど良くて。愛菜たちは騒いでいるけど騒いでいることには意味がなく、それよりもSNSで気づいてもらえることが嬉しくて、そこに居場所があると思いながらも…無いような気もしていて。春子には居場所がなく、日々消えたいと思いながらも、消える方法なんてわからなくて。だけど、吉澤さんは生きていけばいいのよ。と諭す。世代の空気感を重視していたので画的なものではないんですよ。
画的には春子とキルロイが出会わないからこそシンクロさせたいと考え、キルロイが拡散されていく際に、春子に見られている気がすると思うような、画角的な部分を気をつけたり…春子が消えようと思った時コマ落としをして、愛菜も春子になりかけるからコマ落としをさせる…そういうくだらない技術的な部分ですね(笑)
girls Artalk編集部:
いや、いや、いや(笑)
私、印象に残っている場面が春子が消えようと思った時のシーンなんですよね。
松居大悟監督:
あそこはワンカットでやりたいと思っていました。電車合わせでワンカットで撮影し、結構ハードでようやくOK出して……でも、OKテイクをよく見てみたら…最後でぐるっと回った時に、照明の竿が写り込んじゃって、「マジで終わった…」と思いました。ワンカットだから代わりの画もないし、「でも、待てよ」と思い直し、春子の意識のようにプツプツ切れていったら面白いと思い、そのように工夫しました。
girls Artalk編集部:
すごいですね!
松居大悟監督:
出たとこ勝負なので、素材はもう変えられないから、それで色々工夫しました。今回、そのようなこと多かったですね。
girls Artalk編集部:
そうだったんですね…気になったのですが、キルロイのグラフィティアートはどうなったのでしょうか?
松居大悟監督:
場所にもよるのですが好意として残しているところもあるし…高架下はみんなで消したし、ポストは美術で作ったもの、後はビニールを貼って上からとか。
girls Artalk編集部:
あんなにいっぱい描いていて、最後どうしたんだろう?と疑問が湧いちゃって…
松居大悟監督:
神社とかも上にビニールをかぶせて、上から描いてもらったり…なので大丈夫です(笑)
girls Artalk編集部:
そのような工夫がされていたとは(笑)
石崎ひゅーいさんに以前インタビューした際には「現場が面白すぎて記憶にない。」って仰っていたり、高畑充希さんも東京国際映画祭のクロージングで「現場にとても恵まれて」とスピーチしていました。現場での雰囲気や、現場作りで気をつけていることがありましたら教えてください。
松居大悟監督:
“皆で物を作る”ということを念頭においています。世代が近いからというのもあるのですが…僕が事細かに内容を説明することに対して、皆が一生懸命に作ってくれるのはもちろんなのですが、それをしだすと可能性を狭めてしまうと危険性があると踏みました。今作では、各世代や、男女差があり、同性代の人が意見を出し合って作ることのほうが作品自体が豊かになると思いました。
【後編】は監督自身の”監督”に至った面白エピソードをはじめ、プライベートな一面を掘り下げています。
文:新麻記子
【情報】
12月3日(土)公開
監督:松居大悟
原作:山内マリコ『アズミ・ハルコは行方不明』(幻冬舎文庫)
キャスト:蒼井優、高畑充希、太賀、葉山奨之、石崎ひゅーい
【プロフィール】
1985年生まれ。福岡県出身。劇団ゴジゲン主宰、全作品の作・演出・出演を担う。
09年、NHK『ふたつのスピカ』で同局最年少のドラマ脚本家デビュー。12年、『アフロ田中』で長編映画初監督。その後、『自分の事ばかりで情けなくなるよ』『スイートプールサイド』など作品を発表し、『ワンダフルワールドエンド』でベルリン国際映画祭出品、『私たちのハァハァ』でTAMA映画賞最優秀新進監督賞受賞。ミュージックビデオ制作やコラム執筆など活動は多岐に渡る。
原作を手掛けた漫画『恋と罰』が連載中。
監督作品
『私たちのハァハァ』(15)監督/脚本
『ワンダフルワールドエンド』(14)監督/脚本
『スイートプールサイド』(13)監督/脚本
『自分の事ばかりで情けなくなるよ』(13)監督/脚本
『男子高校生の日常』(13)監督
『アフロ田中』(12)監督