gAサイトにてイベントレポートとして掲載させていただいた、東京ファッションWeek ロリータLIVE ARTインスタレーション『Les Filles de Marie Antoinette マリーアントワネットの娘達』。
集合写真
モードのモダンクラシックを理解している本格派デザイナーがロリータファッションを手がける経緯やその
隠された意図に大変興味が湧き、プロジェクトの監修・デザイナーをつとめる袴着淳一さんにインタビュー
を申し込みました!
左:袴着さん
gA編集部 (以下:gA):
長年、カルバンクライン、フェラガモ、グッチ、ダナキャランなどの海外有名ブランドで活躍してきた
本格化デザイナーの袴着さん。どうしてロリータファッションを手がけるようになったのか教えてください。
袴着淳一さん:
海外で活躍しているデザイナーとして現在の日本のファッションを外から見ていた時に、海外で日本に今一番興味を
持たれている服は”ロリータ”であることに気づいたんです。それは日本が40年間、ファッションデザインとしてでは
なくサブカルチャーとして培ってきたものです。
gA:
なるほど。海外の場合はファッションという観点ではなく、文化自体に強い関心を寄せているんですね。
でも、それだけではない気がするのですが…
袴着淳一さん:
そうですね…ここで日本ファッションデザイン界のお話しをしましょう!
海外が日本のファッションデザインに一番興味を持った時代が1980年代です。
それはまさしくコムデギャルソン、山本耀司、三宅一生が海外で認められていた時です。その革新的なデザイン
が世界に「日本のデザインはこれである!」と強烈なイメージを植え付けました。それから30年経った今でも、
その3人を超えるデザイナーが出現していないのが、日本ファッションデザイン界の現状です。
gA:
30年間ですか…少し寂しいですね。
そのデザインの空洞化の中でロリータファッションが世界に注目されているのはどうしてなのでしょうか?
袴着淳一さん:
僕は意外性と強いインパクトであると思います。モード発祥地であるヨーロッパではもう20世紀初頭に消滅
してしまったデザインとスタイルが、この極東のアジアである日本がコスチュームとしてではなく、若者に
モダンな服として活用されている現象です。それと現代の服がTシャツに代表されるように簡易化が進むなかで、
ロリータファッションは世界全体のトレンドとは全く逆である、装飾性の高い服であることがポイントになって
いると考えられます。
フリルがいっぱい♪
gA:
なるほど…先日開催された東京ファッションWeek ロリータLIVE ARTインスタレーション
『Les Filles de Marie Antoinette マリーアントワネットの娘達』のイベントについてお尋ねします。
“お茶会をアート”として位置づけているとのことですが、それは一体どういうことなのでしょうか?
袴着淳一さん:
今回の主旨はサブカルチャーとして位置されているロリータがアートまたはモードと融合することが
出来るのかということです。ロリータを一番象徴している物事が”お茶会”という儀式だと気づきました。
そこで行われる儀式を自分なりに理解して、予めその儀式に使用する様々な道具(服、帽子、付け爪、
ウィッグなど)を置いておいて、彼女達自身ですべての決断を行ってもらおうと思いました。そうする
ことで彼女達が活動的にアートを想像する立場に回って、作家の僕が彼女達のクリエーションを傍観
しながらその最終創造物をカメラマンとして記録を残すという受け身の立場に回りました。彼女達は
自分がアートの題材の中で自分自身がアートになっていく事など思ってもいないなかで、自然に変身を
楽しんでいるだけなのですが、それを見ている人達にはその変貌自体が革新的なアートであることなんです。
彼女達が創り出したイメージは僕がどう考えてもアイデアとして出てこない、僕にも予測の出来ない姿でした。
袴着さんが驚いたコーディネート。
gA:
だからイベント名に”ロリータLIVE ARTインスタレーション”というように表記されているんですね!でも、
自分でも予測ができない作品っで面白いですけど…最終形態が見えないからこそいい意味でも、悪い意味
でもドキドキしちゃいますね!(笑) 私個人、今回のインスタレーション作品を目の当たりしたのですが…
彼女たちのアクションが自然にアートに結びついているところがポイントだと思いました!クリエーションに
対して無意識であり、夢中であることに私は感動したんです…それこそが本来のアート制作の原点である
“楽しむ”に繋がっていると考えられるからです。そんなブランドの発足に至った経緯について教えてください。
袴着淳一さん:
それはですね…僕は福岡市の西南学院高等学校卒業後に18歳でシアトルへ単身渡米し、その後30年間
ニューヨーク、フィレンツェ、ミラノ、パリなどを渡り歩き、現在も南仏のムジャンに住んでいます。
今まで自由奔放に生きさせてくれた両親も、2年前に父が他界して母一人を九州に残すことになりました。
その母への一番の親孝行は仕事を通して、一緒にいられる時間を作ることにあると気づきました。
そこで母のパターンメイキングと縫製技術と、僕のデザイン力とディレクション力を組合わせれば
一緒に何かができると直感したんです!
gA:
お母様と二人三脚で挑んでいるプロジェクトなんですね!
そんなブランドコンセプトのアイディアはどこから生まれたんでしょうか?
袴着淳一さん:
コンセプトは、1970年に原宿でロリータの前進となったブランド『MILK(ミルク)』が誕生し、
そのすぐ後に『ベルサイユの薔薇』が刊行されたという事実が、僕の頭の中で結びついた時に
アイディアが自然と出てきました。
gA:
それでは、何故コンセプトが「マリーアントワネットが現在の原宿に生まれ変わったら」なんでしょうか?
袴着淳一さん:
今執筆している物語を書きはじめた時に、もしマリーアントワネットが生まれ変わったら、
一番自然に感じれるところはロリータの町・原宿しかあり得ない!という発想から、
本格的に面白い物語が僕の頭の中に出来上がってしまいました。
マリーアントワネットのストーリーを反映させた洋服。
gA:
その物語、早く読んでみたいです!続いて…洋服をデザインする際に心がけていることを教えてください。
袴着淳一さん:
僕がデザインをする際に一番大切にしていることは、どれだけその作品自体が自分に感動をくれるかです。
人間には色々な感動の動きがあって、その心の動きが僕が作り上げようとするものと同一であるかどうかです。
もしその作品が僕の心を動かすことが出来るのであれば、僕以外の誰かの心を動かす事が出来ると思って制作
しています。だからまずは僕の心を動かすことなんです。
gA:
そうですよね…様々な物事に対して言えることですけど、自分の心が納得していないものを
他人に強要することなんかできないですから。また、少数生産にこだわるのはなぜですか?
袴着淳一さん:
これは現実的に自分で1つ1つサインをしてバックナンバーを手描きで書いていきますから、大量生産では
無理な事です。そのために僕が人間的に書ける範囲での生産となればやはり少数生産という事しか不可能に
なってきます。そのことに加えて、今のファッションビジネスで主流であるユニクロやH&Mの大量生産化の
考えには大きな疑問を持っています。それは個人個人の個性を単一化する事でもあるし、有限な自然資源の
浪費であるとも感じているからです。
お洋服のタグ。
gA:
なるほど。作り手である袴着さんが自らサインをしているんですね!洋服を購入したら見てみなくっちゃ!
ここで…少しプライベートの側面にも触れていきたいと思います。休日はどのように過ごされているのか教えて
ください。
袴着淳一さん:
休日は実際にはあるようでないですね。僕にとってデザインもアートも作家活動も写真も趣味の延長になって
しまっているので、何時から何時までが仕事ということがなくなってしまいました。インスピレーションが
強い時はいつまでもやっていますし、全然のらない時は何もしていません。その点自然に生きているという
のが一番なのかもしれません。 でも旅行は必ず年に何度か行くようにしています!
今年もウイーンにファミリーで5日ほど、バルセロナに4日ほど、屋久島に1週間ほど、パリに5日ほど行ってきました。
gA:
…それでは趣味が仕事の延長線上になっているので、今はもう他の趣味はない状態なのでしょうか?
袴着淳一さん:
そうですね…実際、趣味が仕事になってしまったようなものだと思います。
絵画が小さい時から好きで描いていたのが今もアーティストになって続けていますし、
本を読むのが好きで書き始めたら本を出版する事になって今でも3冊目を書いています。
写真鑑賞が大好きなのですが、それも今は自分自身でアートの一環として撮るようになりました。
あー!まだ、趣味が仕事になっていないものは映画鑑賞と毎日のジョギングとウェイトトレーニングが
ありますよ!(笑)
gA:
この先、映画鑑賞は仕事になりそうな予感がします。
映画監督になるか…はたまた、作品に対しての評論家かコラムニストになるかも…(笑)
好きな映画作品を教えてください。
袴着淳一さん:
映画は僕のオールタイムフェーバリットはピアースの「Boys don’t cry」、ベニニ
の「La vita e bella/ Life is beautiful」、フェリー二の「 Le notti di cabiria」です。
小説を書きはじめた理由は 映画製作にも携わっていきたくて、映画のシナリオを
書いていたのが長くなって小説になったというのが正解です。だから、僕が執筆
した「最後のデリバリー」では、皆様から「まるで映画作品を見ているような描写
が頭の中でイメージされる」と言われます。
確かに僕の頭の中にあるシーンをひとつひとつ文字として表現しているだけですからね。
袴着さんの著書作『最後のデリバリー』
gA:
なるほど…この先、映画鑑賞は脚本家になりそうですね!(笑)
好きなアーティストや触発されたアーティストはいますか?
袴着淳一さん:
僕が感動するアーティストは常に官能的な女性を描いている人達です。グスタフ クリムト。
タマラ レンピーカ、WHウォーターハウス、マーク ライデン、喜多川歌麿、荒木経惟です。
gA:
常に官能的な女性を描いている人達ですか…喜多川歌麿…荒木経惟…。
袴着淳一さん:
そうです!
僕のリサーチでは歴史上最もピュアな日本女性の美しさは江戸時代末期までであったと推測されます。
そして、官能的な独特な美しさを捕らえることのできたアーティストが”歌麿”であると確信しています。
もし、彼が現世に生きていて日本の美をキャプチャーしようとすれば、多分ロリータの女の子達を描い
ていると思うんですよね。ロリータの女性像には今まで古典的な日本の美からかけ離れてはいるものの、
独自の美的感覚を包有していると考えられていますからね。
gA:
なるほど…そこでアートとの関係性が繋がっていくんですね。
袴着淳一さん:
そうです!僕がモダン歌麿になることが出来ればプロジェクトは大成功です!
その上で、この美的感覚がどこから来たのか、どの歴史的な物事でその美は作り上げられたのかをリサーチし、
今後その美はどこに向かっているのかを知ることが大切だと思います。
gA:
それでは、今後のプロジェクトの展開を教えてください。
袴着淳一さん:
まずはこのプロジェクトを1年間東京、大阪、そして福岡で活動的に行い、近い将来に美術館や
アートフェスティバルにてお茶会インスタレーションをおこないたいです。そして3年以内には
パリとロンドンにこのプロジェクトを紹介する予定で動いています。
gA:
素敵ですね!『大地の芸術祭』などの地方の特色を生かした芸術祭で、地元の人と交流しながら
お茶会インスタレーションをしてほしいです。今後が楽しみなプロジェクト…目が離せませんね!
最後にgirls Artalkの読者に向けてメッセージをお願いいたします。
袴着淳一さん:
僕はアートと個人または集合体の創造であると思っていますから、20代、30代のアート好きな
女性にはどんどん自分の中に内在する様々な思いを、素直に多方面で表現していただきたいとです。
それが服を着る事であったり、メイクであったり日常的なものから、絵を描いたり、写真を撮ったり、
何でも構いません。それを自分に正直に表現する事によって、自分の知らなかった自分に出会うという
現象が起こりはじめます。その新しい自分をそのまま受け止めて、アクセプトする事に於いて初めて自分
に素直になることが出来る。そうすると少しずつ自分が好きになる。
今まで自分でイヤだと思っていた性格もそれは自分の個性の一つであるということに気づきます。
よって、アートは自分を良く知るセラピーだと思います。
日常埋もれてしまっている素晴らしい自分自身の再発見してください!
アメリカのシアトルに留学した時は獣医になるつもりでいたという袴着さん。
勉学に挫折してカウンセリングを受け…幼い時に好きだったことを思い出し、それまで
受けていたクラスを編入して、学校まで転校したという経緯をインタビューを通して知りました。
「祖に帰る」ことは、「素に還る」ことだとも思います。何かに迷った時、何かを始めたい時、
だけど…自分自身が分からなくなった時は、幼い頃の記憶をたどってみてはいかがでしょうか。
これから展開される、袴着淳一さんによる『Les Filles de Marie Antoinette マリーアントワネットの娘達』
のプロジェクトをgirls Artalk編集部は応援していきたいと思います!
文 / 新麻記子
【アーティスト情報】
袴着淳一(Hakamaki Junichi)
【ブランド情報】
『Les filles de Marie Antoinette / マリーアントワネットの娘達』
HP:http://www.f-marie-antoinette.com
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