現在、ドイツ・ベルリンを拠点に世界のアートシーンで活躍している長尾洋さん。国際的なアートフェアやイベントに多数参加し、最近はメディアの露出が増えてきています。独特でありながら強烈にメッセージを発信するその作風が注目されているなか、勢力的に活動している長尾さんに迫るべく、grils Artalk編集部は直接ご本人にインタビューしてきました!
girls Atalk編集部 (以下:G):
それではご自身のルーツから話を進めていきたいと思います。家庭環境を教えてください。
長尾洋さん:
母、姉、妹と女家族の中で育って、女性誌などの女性に関するもので溢れていました。雑誌やテレビを見ながらこの人「綺麗だね!」「かわいいね!」みたいな…それこそ、お姉ちゃんのバービー人形で遊んでいたりしたので、家ではあまり男の子っぽい遊びをしていなかったかもしれませんね。もちろんサッカーなどのスポーツとかはしていましたけど(笑)
G:
そうなんですね(笑)
長尾洋さん:
バービー人形とガンダムとかで遊んだり…その他でいうと幼少期は横浜に住んでいて、父親の地元の鎌倉、葉山、逗子など、普段から自然の中でよく遊んでいました。海に行って釣りしたりだとか、山に登ったりだとか、それと通っていた横浜の幼稚園が宝島幼稚園と言って、なかなかこの教育方針が面白くて…年齢で学年を分けたりしないんですよ!
G:
とても面白い教育方針ですね!今やそのようなタイプは珍しいように感じます。
長尾洋さん:
そうなんです。みんな年齢・性別もごちゃまぜで…園内に子供しか通れない通路を作ったり、廃材の木と道具があって、遊ぶためのおもちゃをまず作るところからスタートしたり、ほとんど教えられたこととかなく、ずっと遊び倒していましたね。さらにそこでは、スタジオジブリのアニメ作品『風の谷のナウシカ』を見せられたり、かと思えば…マイケルジャクソンの『スリラー』やクラフトワークのテクノ音楽のPVを放送しているMTVの音楽番組を大きなホールでひたすらみんなで見たりしましたね…
G:
そういうの物事が作品に影響が出ているということでしょうか?
長尾洋さん:
そうですね。僕のインスピレーションっていつもごちゃ混ぜなんですよ。絵も好きですけど、物を拾ったり、収集癖があって…よく落ち葉や木を拾って帰っていました。そういった別々の素材を一つにまとめたいという考え方そのものに僕のルーツが隠されているのではないかと最近はよく思います。
長尾洋さんのルーツについて注意深く聞いていたら、幼少期の暮らしや出来事を聞いているうちに、お話からご本人が制作する作品への繋がりが理解できました!
G:
でも、どうしてコラージュの技法なのでしょうか?
長尾洋さん:
それには理由があって…僕は主にファッション雑誌からコラージュ素材を集めて使っていますが、美や欲求などを一番強く発信しているものが詰まったメディアだと思っています。広告に使用されている写真はとても綺麗で、美しいモデルやジュエリー、ラグジュアリーなものなど、人間の欲求を掻き立たせる要素がたくさん存在しています。そして、僕たちはそれらにいつも翻弄されています…そういったものを一度抽出して、また再構築していく。カウンターパンチのようなものであると考えています!それは時に美しかったり、奇妙だったり、いろんな側面を持った、まさに人間の写し鏡だと思っています。そうやってコラージュという技法に強く興味をもちました。
G:
なるほど…展覧会で展示されている去年制作した大きな作品は、今回は原画ではなく印刷をしたプリントなので、そのコラージュの様子がわかる本物が見たかったです…残念。。。すごく細かいですよね!
長尾洋さん:
これらの大作は、120,130ぐらいコラージュのパーツがあります。大きいものは300ぐらいものパーツがあります。
去年完成した後に一つずつ数えてみました(笑)
G:
制作過程を踏まえてどれくらいの期間がかかるものなのでしょうか?
長尾洋さん:
こちらの作品は一昨年の冬に日本から制作はスタートしたんですけど…下書きから始めて、アクリル絵具やマーカーで背景を塗るところまで大体2,3週間ぐらいかかり、それから下地にしていたパネルから用紙を剥がしてロールにしてベルリンに持ち帰りました。ベルリンで同じサイズのパネルを作って用紙をもう一度貼り直し、そこからコラージュの作業が2,3週間。一通り、塗る作業とコラージュが終わったら、もう一度その上からアクリル絵具で塗ったり、マーカーを引きなおしたりするんですよ!その作業が1,2週間…他の作業もしつつなので、明確にはお答えしにくいですが、だいたい大作2点で2か月ぐらいはかかっていますね。
G:
作品を比べていると価格が抑えられている作品があるのですが、それはどうしてなのでしょうか?
長尾洋さん:
はい2点だけわりと低価格な作品があります。それはスペインのアートフェスティバルのためにスペイン人のアーティスト(Roberto Rodriguez Redondo)とコラボレーションしたものなんですが、自分があまりにも忙しくて関わりきれなかったので価格帯もそのアーティストに任せたんです。
実際、スペインの物価の面で価格を抑えないと「なかなか売れないかもね。」と言われたことも、作品の価格を抑えた理由の一つになっています。
アートフェスティバルなので記念というか、普段のものではないので、安いと思ってくれたらそれでいいし…コラボしたのもスペインだし、発表したのもスペインだったし、他国のアーティストも参加しているのですが、インフォメーションもスペイン語で、スペインのローカルな人たちに向けてフォーカスしていたのでそういった意味では特別な作品になっています。
G:
国の物価に合わせたり、国の特色に合わせて、作品をつくっているんですか?
長尾洋さん:
物価の違いはある程度は価格に反映させています。それとギャラリーとの売れたときの分配もありますね。僕はまだまだ自分の価格を自由に設定できるようなレベルではないですが、先程、話題に上がっていたコラボ作品にしてもメールだけで細かく打ち合わせたり、交渉したりしています。
G:
そうなんですか?!
長尾洋さん:
はい、そのアーティストとは当日フェスティバルの会場で会うまで全く会ったことはありませんでした(笑) なので、メールを使用してのコミュニケーションが重要ですね。価格帯の話もそうなんですが、国の住宅事情も考えて作る作品の大きさを変えたりもします。なので…今回の展覧会は名古屋時代に制作していたものや、香港での個展に合わせて制作した、わりと小型の作品を中心に集めて展示しています。
100以上ものパーツを組み合わせる繊細なコラージュ作品は、様々な表情を見せる私たちの合わせ鏡なのだと思いました。その話を聞いて再び作品に向き合ってみると、言葉にはできない感情が湧いてきます。
G:
初期の作品と現在の作品を見比べると、作風が異なる印象を受けますが、やはり、ご自身の中でスタンスが変化したということなのでしょうか?
長尾洋さん:
そうですね。2012年にベルリンに行くまで、名古屋でグラフィックデザインの仕事をしていて、デザインやイラストレーション寄りで、大きな作品を描くとか、いわゆるアート作品を作るというよりかは…どちらかというとデザインや広告などで使われることを期待していました。特にその頃は東京を意識して活動していましたね。2009年にメールで連絡を取って、直接伊藤桂司さんのオフィスに名古屋から足を運び、本人に会いに行ったりもしました(笑)
G:
伊藤さんですか!!
長尾洋さん:
はい。今のオフィスへ引っ越される前に作品を持ってお邪魔してきました。以前から2005年の愛知万博のポスターを手がけていたことは知っていたいので、そのことを話すとその原画を出してきてくれたりしてとても興奮しました。
当時はそういう方向で活動していたのですが、結局何か仕事に結びついたりとかは一切なく、それとは別に海外の人のほうが自分の活動をネットを介して見てくれていて、しかもアートとして捉えてくれていることから次第に自分もアートを意識するようになっていきましたね。
そこから2008年から2011年までに香港やドイツ、スイス、フランス、イギリスでの作品展やアートフェスティバルの参加を経て、2012年にドイツに行きました。かと言って、ネットワークやコネクションとかもほどんのなかったのでとりあえず日本を出ただけという感じでした。
G:
すごいですよね!飛び込む勇気がすごいです!
長尾洋さん:
日本でやっていたグラフィックデザイナーの仕事もなかなか楽な仕事ではなく…一方、自分の中ではアーティストとしての活動が盛り上がってきたんです!それに何かのタイミングで必ず日本は出たかったので…こういう時期かな。と思って、また、何かしらそこで見つけるんだろうな。と感じました。とは言っても、初めの一年はキツかったですね。「デザインの仕事やりますよ。」って、言って仕事をした方が楽なんじゃないのかな?とか思ったり…
G:
ドイツではギャラリーを回られたりしたんですか?
長尾洋さん:
それこそギャラリーを回るということ始めは自体もよくわからなくて…兎に角、手を動かして作っていましたね。僕が日本を離れたときに作品制作の依頼が1つ2つ来てそれをこなしたり、日本からのデザインの仕事を小遣い稼ぎでやったりしましたが、ほとんど貯金を切り崩して生活していましたので、ずっとマイナスでした(笑)
そんなこんなで1年目はぼんやり過ごしていました。日本での30年もの暮らしがあるので…ベルリンでの1年目は外国での暮らしを作り上げることに奮闘していました。
G:
そこからどのように変わっていったのでしょうか?
長尾洋さん:
本当に特に大きな収穫もなかったので、最初の一年がたったときにはもう日本に戻ってこようかな。と思っていたんです。でも僕、何故かベルリンからの日本への往復チケットを購入していたんです!
G:
結構、おちゃめですね(笑)
長尾洋さん:
片道と往復の値段が大きく変わらなかったんですよ(笑)それで、日本が真夏の時期はベルリンに逃げて、冬は日本で過ごすということしていた頃に、友達や知人つながりで少し仕事の依頼もあったりして…
G:
すごいですね。
長尾洋さん:
僕は自分のことをフォローしてくれてる人、周りの人にも結構躊躇なく思ったことを話んですが…「名古屋で燻っている状態より、ベルリンでモヤモヤしながらも、作品とつくっている時のもののほうが、何か伝わるものがあるんだよ。」「まだ活動しきれていないけれど、手だけは動かして何かやっている。」という言葉に、自分のやっていることを受け止めてくれて、どこかで自分の姿勢を見てくれているのなら、もうちょっと頑張ろうかな。って思えたりだとか、ベルリンでの友人から仕事をもらったりとか…見ている人は見てくれているんだな。と、迷いながらも見えてきて、もう一度トライしようと思ったんです。…でも、その時も何故か往復チケットを購入して帰ってきたんですけどね(笑) それで、戻ったのが個展を開催した去年なんですよ!
ドイツ・ベルリンに単身で行く勇気だけでなく、往復チケットを買ってしまうお茶目な一面が垣間見れました。
G:
なるほど…。
長尾洋さん:
個展では何を伝えたいのかを明確にするために新作のストーリーも考えてどれだけ作品に引き込むか、どうやって広くいろんな人に来てもらえるかをよく考えました。
G:
そのストーリーはどんなストーリーなんですか?
長尾洋さん:
それは、今でも同じように意識していることなのですが…人間と自然や動物との関わりをテーマにしていて、例えばこの馬のいる作品だと馬具がないとか、人間が全てコントロールせずに、如何にして自然や動物に歩み寄れるか、そういった”調和”を考えることがこれからの鍵だと思ったんです。
それは…僕がベルリンを訪れたのが2012年で2011年には大震災で原発の問題などが起こり、それまでみなさんが常識だとおもっていたものが壊れてしまったりとか、物事がもう今までと同じようにマネージメントできる状態ではないのではないか、それこそ…Facebookなどで動物やペットの投稿にいいね!がいっぱいついたり、都会の人達がキャンプに行ったりフェスに行ったりするのは、現代の人間が本能的に自然や生き物とのバランスを取ろうとしているからなんだろなと思っています。
片や、ヨーロッパで2番目に大きくドイツの首都であるベルリンは自然に溢れていて…街の25%が川や緑問いうルールがあって、至るところに大きな公園があって、人口の規模に対して車の割合は低く、あまり無駄なものは持たない思考だったり、そういうシンプルな考え方がベルリンのいいとことだと思っていて、公園にピクニックに行くとか、わざわざ遠くまで行って外食しないとか、大人も子供も近場で楽しむ方法を見つけるとか…それまでの日本での生活から考えるとベルリンの人の感覚の方が何歩か先に進んでいるように感じました。
そういったベルリンと日本の違いも見え、さらに元々僕たち人類が持つ共通の問題を意識して、そういった要素を取り入れてみることにしました。
G:
人間とトラが歩み寄っている作品とかもその要素が反映されているということでしょうか?
長尾洋さん:
そうですね。猛獣だけど、僕らも彼らも地球の一部、もっと歩み寄らねばという想いがあります。しかし人間の方がよっぽど猛獣で、とても恐ろしい生き物ですけどね。スポーツハンティングとかは断固反対です。
長尾洋さん:
その他にも、黄色の背景の作品は食べ物に関してのメッセージがあるんですが…右手いっぱいにすでに果物を持っているのに、左手でまだ欲張って食べようとしている…なので、食べきれないチェリーが一つ落ちているんです。欲張ると全部落っことしちゃうよ!全部失っちゃうよ!っということの啓示ですね。
そういったコンセプトを込めて個展を去年、2014年の5月に開催したんですけど、作品はぜんぜん売れなかったんですが…10点しか展示しなかったのにもかかわらず、たくさんの来場者が会場に足を運んでくれて、1つの作品をずーっと眺めて見たりだとか、延々と話をしたりと、長い人で会場に1時間ぐらい居てくれたりだとか…その時にストーリーやコンセプト、自分の想いを込めて作った作品が、見てくれている人たちにもシッカリ伝わったな。という感触があったんです!
皆が喜んでくれたのもそうですが、自分自身にも達成感があり、前に進めたな。と思って…それから、思想や哲学をしっかり組み立て、メッセージをもたせつつ、しかし残酷さを突きつけたり、ショックを与えるような、ネガティブのものではなく、いろんなものを乗り超えられる、逞しさやバイタリティー、喜びや幸福感を反映させた、ポジティブな作品のほうが、今僕らが抱えている問題に対してより強く意思をもつことができるのかなと思ったんです。
現在、世界が置かれている状況はとても深刻ですし、多くの人が行動を起こさないと、世の中全体が破綻するのではないかというところに直面していると思うんですよ…
G:
作品は原点回帰みたいなことですか?
長尾洋さん:
そうですね。自分が作ったものの方向性を深く考えた時があったんです。
果たして作品を作って何になるんだろうな…とか、アーティストってなんなんだろうな…とか、この現代社会や世界に対して自分がいったい何ができるのかを深く考えた時に、作品を通して今僕らが抱えている問題を深く考える機会を作り出せたら、それは社会につながりのあることだと思いました!
個展やその後のアートイベントに参加した時も、見てくれた人からは作品に込められたそういった想いを直に感じ取ってもらえて、「この作品はHAPPYな作品だよね!」と言ってくれたりして、「僕のメッセージすごい伝わっているじゃん!」と思って…そしたら、自分にしかできないアーティストとしてのミッションがあるんじゃないかと意識しました。そんな去年から現在にかけて、さらに意欲的に制作に取り組んでいます!
G:
お話を聞いていて…前回は人間と動物の調和とありましたが、次の作品のコンセプトとかって既に決まっているのでしょうか?
長尾洋さん:
僕、動物は好きですからね…それは変わらず用いるかもしれませんね。
そもそも僕はアートを学んでないんですよ…大学もグラフィックデザイン科でしたし、ビジュアルコミュニケーションというものですよね。
これからも作品のユニークさだったり、クオリティやインパクトは作り続けることで鍛錬していきますが、やはり実際に経験したことや感じたこと、思想がしっかり作品に組み込まれていないと、けっして見てくれてた人を感動させることはできないと思うんです!
突き詰めたその先、誰も辿り着いていないようなところまでは日々訓練していかないといけないのですが…それと同時にその作品はいったい何なのか、何を伝えたいのか、みたいなことをしっかり考えないと、小手先のテクニックとユーモアだけの作品になってしまうと思っています。…作品の中にそういった核になる部分を固めていくといいますか、分析したりだとか、リサーチして、知識や情報を持って、それを的確に強く発信することができるビジュアルであるべきだと考えています。
今のところ2次元の平面作品が主ですが、今後もしかしたら3次元の立体作品になるかもしれません。
自身が目指すアーティストとしての確立だけでなく、生み出される作品の意図や経緯も含めて成長していく決意。
…ゆっくり話してくださる長尾さんの優しい瞳には、静かな青い炎が宿っていたように感じました。
G:
楽しみです。今後の展開を教えてください。
長尾洋さん:
来年1月半ばに一旦ベルリンに戻るんですが…そこからすぐメキシコに行くんです。自分自身で立ち上げたアートプロジェクトの一環として。今年の夏くらいから、先ほどお話ししたように、僕は何を作りたいのか、その作品は一体なんなのか?という制作の骨組みを一度見直そうと必死に考えていました。
そのなかで去年、一昨年と、アートフェスティバル(SEAWALLS 2014年, FIAP 2015年)のためにメキシコを訪れたんですが、現地の人たちが色彩に対してとても敏感で、色使いをとても気にしていたり、色に関しての反応がすごく強いんですよね!
それに、メキシコの人たちはとても明るいし、人懐っこいし、経済面では日本やドイツにくらべて貧しいはずなのに…彼らには心があるんですよね。賃金も安いし生活に不便なことも多いと思います。お金こそ持っていないけれど、ハートはある…それはどうして何だろう?と疑問に感じて、きっとそこには家庭での教えや文化、習慣とメキシコならではの色彩感覚とも何か強いコネクションがあると思い、そこにすごく興味を持ちました。今回はその僕の現地での体験や調査を素材、インスピレーションにした作品を制作します。
G:
今回はどれくらいの期間滞在するんですか?
長尾洋さん:
いまのところ2ヶ月ぐらい考えています。今回は片道チケットですよ(笑)今年2月にカンクンで開催されたパブリックアートフェスティバル(FIAP)で知り合ったデザイン学校の副校長先生のところに滞在するつもりです。「ウチに泊まって、制作したらいいじゃん。」って、言われたんですよね。20人以上ものアーティストがいる中で僕に
声をかけてくれたの何かの縁だなと思ったんです。僕もこれはチャンスだ!と思いましたね。始めにメキシコの伝統的な文化が残る街を訪れてのリサーチをしていこうと思います。
G:
メキシコ人って遅刻してくるらしいですね。
長尾洋さん:
かなりルーズです。僕らも規律を守り、社会、組織の一員となっています。でも彼らはそのバランスがちょっと違っているんですよ。アフリカもそうみたいですね…例えば天候が悪いと会社を休んだり、彼らにとっては自然を脅威と捉えていて、そこまでリスクを冒してまで会社に行くことだと思っていないんです。他には道端で困っている人を助けていたのでその日は会社には行けませんでした。とか…
G:
価値観が違いますね!
長尾洋さん:
そんな彼らと僕らを比較した時にどちらがより人間らしいか?
どちらがより心が豊かでゆとりがあるのか?そんな疑問がふとよぎりました。
そんな心の豊かさをメキシコ人はどのように生み出しているのか…もちろん全国民がそうだとは思いませんが‥色彩感覚のルーツを調べて、自分の中で消化して、先進国の人達に向けて自分のメッセージを込めた作品を発表したいと思っています。それは先進国の中の日本人もである自分の使命だとも捉えているからです。それこそ途上国は僕らのような国になりたいと思っているわけですから…
G:
それが果たしていいことだとは限らないですもんね。
長尾洋さん:
そういうことです!今すぐやめなさいということではなくてバランスを考えることだとおもうんですよね。
僕らは人間として発達していかなくてはならないんですが、軌道修正のようなことを考えていくことが、これから大切になっていくのではないかと思うんです。ありとあらゆるもに人間のエゴイズムがありますが、それを今一度考える機会になれば嬉しいです。世の中のこの仕組みがもう少し違う形に進化してくれたらなあと思うんですよね。そういった思想や風潮を僕らが生み出さないといけないんじゃないかなと思います。結果的に正しかったかどうかより、まずは思考をめぐらさないといけないなと、そういったものをアーティストとして作品を通して伝えていくこと。これからの…来年からのミッションだなぁ。と思い、取り組んで行こうと思っています。ぼんやりと生きていけるほど悠長な状況ではないと思っています。
本当に頑張って欲しいと思いました…長尾さんが手がける作品から世界の意識的な軌道修正がはじまり、世の中を少しずつ豊かにしていくことができたら、どんなに素晴らしいことなのでしょうか。
長尾洋さん:
はい、ありがとうございます!
普段からあまりたくさんの数の作品は作れないんで、その中核になる作品をまずは制作することを目標にしています。
それらをもとにまたベルリンで個展をやるかもませんし、もしかしたら日本でやるかもしれませんし…
G:
ベルリンですか。
長尾洋さん:
いや、場所は明確ではなくて…ベルリンも離れようかなと思っているんです。自分の求めていることとやっていることの接点の多いところに行こうと考えています。ドイツは経済大国なんですがわりとのんびりしていて、あまり必死な感じがないんですよ。でもこれは逆にいいことなんですが、スウェーデンもそうなんですけど…どんどん労働時間を減らそうとしていて、アディダスなどの大手企業は管理職以外は夕方5時以降にメールに対して返信しなくてもいいという決まりがあったりと…
G:
え?!
長尾洋さん:
返信するとメールのラリーが続いて帰れなくなってしまうからなんですが、その他の企業でも週5の勤務を週4で1日6時間働く契約ができるとか、実際収入は減ってしまうんですけど、家族や一人の時間を大切にするなど、それって資本主義を止めているわけでなく、スピードを緩めることになっています。緩めることで考える余裕、選択する自由がみたいなものが生み出されることが大切なんだろうなあと思ってます。
G:
ぱたっと仕事とが止む…外国でいうシエスタみたいですね。
長尾洋さん:
そして、先ほどの話にもあった通り…ルーズで陽気で、ゆったりとしたメキシコ人たちは絶対に悪いお手本ではないと思っています。その人が会社に来なかったことで致命的な損失につながる理由にはならないと思うんです。
G:
なるほど。
長尾洋さん:
それから、ドイツはシックやモノトーンな色合いのものが多く、あまりカラフルなものが受けいれられてない感じがします。もちろん若い世代にはウケるんですけど、金額的にアート作品を購入できないので…なので、来年は機会をうかがってベルリンから出ようと思っています。
やはり根幹をしっかり作った上での表現を続けていかないと、小手先のことをやっていても誰も振り向いてくれないし、いいな。と思って安易に模倣したり、売れるためだけの金額設定はしたくないと考えています。僕自身がどのように社会と関わるか…自身の承認願望もありますが、メッセージを発信するための発言力を持つには、実績や経験を積まないといけないし、そこから先がなかなか見えてこないと思うんです。
来年から始動する自身のアートプロジェクトの検討を祈りつつ、ご自身が思い描いているビジョンを話ていただきました。
G:
今後がとても楽しみですね…それでは、先ずはメキシコプロジェクト。他のビジョンはありますか?
長尾洋さん:
その次はニューヨークやロサンゼルスはアートの本場なので、まだまだ先の話ですがタイミングを見て渡米しようと考えていています。アートの市場がアメリカだけで世界の1/3くらいあるんです。そこに居ないと制作できないわけではないんですけど、その場に身を投じて勝負を挑んで加速させ、もっと世間の人たちに僕の作っているものを吸い上げてもらうには、やはり競争率の激しいところに身を投じなければと思いました。もちろん表現だけでなく、アートのビジネスに関してもです。
G:
となると…これから、もっと作風も変化していくかもしれませんね。
どんな風に変わっていくのか今からワクワクしています。
コラージュも変わるかもしれないんですか?
長尾洋さん:
コラージュも変わるかもしれませんね(笑)
進みながら、考えながら、あまり何か一つのことに囚われすぎないようにと思っています。
G:
最後にgA読者に対してのメッセージをください。
長尾洋さん:
僕らの住む日本、特に都会には何でもあると思うんです。それこそ物や情報がたくさん溢れています。
そして日々のサイクルが早いと、知らないうちに見失うものもけっこうあると思います。
僕自身もそうですが、皆さんがこの日々のスピードに飲み込まれず、幸せや喜びを見つけながら過ごせているのかなあと疑問を抱くことがあります。こうやって色んなところに足を運び様々な人と触れあっていると、東京というか都会の人に、とても無機質な印象を受けることがあります。そして、そういった無機質さ、人間的な温かみの薄れが何か今後の未来の脅威になるのではないかと思っています。
「愛とは?」「人とは?」「幸せとは?」と考えて欲しいです。
普段のその無機質な世界から出るといろんなものが見えてくると思います。今、この大きな世界は小さくなりつつあるので、まずは普段の生活圏から出て、色んなところに行って、実際に様々な人に触れあって経験してみてください。
それがきっとみなさんの価値観を広げ、その後の大きな財産にもつながるとおもいます。
そしてそれを感じた時にその人の心がきっと豊かで温かなものになっていると思います。
そうやって僕ら一人一人が変化することで、必ずこの世界は良くなると信じています。
そんな未来のために僕は作品を作り続けます。そして皆さんにも何ができるかを考えてもらうことができたらとても光栄なことです。なぜならそのきっかけを持ってもらう事が僕のアーティストとしての使命だと思っているからです。
今日はインタビューありがとうございました。
文 / 新麻記子 写真 / 新井まる
【アーティストプロフィール】
長尾洋 / Yoh Nagao
Photography © Patricia Schichl
愛知県出身名古屋造形大学卒、2012 年よりドイツ・ベルリンを拠点に活動。
様々な国際的なコンペティションで作品がセレクションされ活躍の舞台が本格的に世界へ と開かれる。
世界各地のアートフェアやイベントに多数参加。メディアに登場する機会が 多くなるにつれ、
独特かつ強烈にメッセージを発する長尾の作風がますます注目も集める ようになる。
非常に精力的に活躍している長尾は現在もっとも注目すべき新進気鋭の日本人アーティス トとして
認知されてきています。