東京からたったの1時間半で、アートと自然を同時に楽しめる芸術祭が開催されていることをみなさんは知っていますか?
「いちはらアート×ミックス」は、市原市南部の美しい里山や廃校を舞台にした現代アートの祭典です。菜の花と緑に包まれた素敵な場所が、都会の喧騒をすっかり忘れさせてくれます
3年前に初めて訪れてから、「いちはらアート×ミックス」に魅せられたライターが芸術祭の見所をお伝えします。
「いちはらアート×ミックス」は、市原市を舞台に、廃校となった4つの小学校と小湊鐵道の駅周辺、市原湖畔美術館を中心に、31組のアーティストの作品やイベントを開催しています。
そのなかの月崎エリア・里見・内田エリアを中心にご紹介します。
小湊鐵道から眺める里山風景
芸術祭では、多くの地元の方々に愛されている地元のローカル線「小湊鐵道」が芸術祭の主要エリアを結びます。
小湊鐵道は赤とクリーム色が可愛らしいレトロな列車です。
12月下旬まで「里山トロッコ列車」が運行しています(指定日のみ)。窓ガラスのない車両から吹き抜ける風と美しい里山風景が、心地良い解放感へと導いてくれます。
取材に訪れたのは4月中旬。
車窓から眺める風景は、菜の花や桜などに彩られていました。のどかで穏やかな景色はまるで絵画作品のよう。
実はこの菜の花、「菜の花プレーヤーズ」と言われる芸術祭のボランティアの方々と、地元住民によって毎年植えられています。
たくさんのボランティアの方々の想いが、小さな花が集まって1つの花を咲かす菜の花のように、この美しい風景を作り上げているのです。
身近な自然の素晴らしさをあらためて気づかせてくれるのは、この芸術祭ならではの魅力かも知れません。
季節ごとに表情が変化する「森ラジオ ステーション×森遊会」
小湊鐵道の月崎駅に降りるとそこにあるのは、人を森へ導く駅「森ラジオ ステーション」。
木村崇人/森ラジオ ステーション×森遊会 撮影=Kuniaki Natori(kuppography)
森ラジオ ステーションは、かつて駅員さんが寝泊まりする詰所小屋として使われていた建物を森に見立てた作品です。60種類以上の野花や野草に覆われています。
木村崇人/森ラジオ ステーション×森遊会
近づいてみると可愛らしい小さな野花が。ひらひらと蝶も舞っていました。
木村崇人/森ラジオ ステーション×森遊会
内部には光の柱や森のライブ音が聞こえるラジオなど、森につながる装置が組み込まれています。
木村崇人/森ラジオ ステーション×森遊会
ラジオのチューナーに合わせると、聞こえるのは「あそうばらの森」などの自然の音です。
鳥のさえずり、風が木々を揺らす音…耳をすましているうちに、光の差し込む深い森が目に浮かび、まるで森に入り込んだような気持ちになります。浅かった呼吸が、いつの間にか森にいるような深い呼吸になっていることに気づきました。
この森ラジオ ステーションは、2014年より「森遊会」という地元の方々によって維持・管理されています。
アートが一過性のものだけでなく、地元の方々に愛される存在となっていることが分かります。
年代を重ね、育まれる作品。
3年前に比べると、より一層緑が濃くなり、草花の表情もとても豊かになっていました。
厳かさと、優しさと、懐かしさが入り混じったこの場所を、誰もが好きになることでしょう。
童心にかえるIAAES(旧 里見小学校)
2013年に閉校した旧里見小学校を、アート、農業、健康などの学びとして活用したのがIAAES。小学校の廊下や教室に踏み入れると、夢中で遊び学んでいた子どもの頃を思い出します。
IAAES(旧里見小学校)撮影=Kuniaki Natori(kuppography)
入り口では、菜の花プレーヤーズや地元の方々、ネイチャーガイド教頭の柳池さんによって作られた色とりどりの花が迎えます。
IAAES(旧里見小学校)
2階にあがると、人類最古の布と言われる羊毛フェルトのインスタレーション作品「Dear outside」が。 「中世の宇宙観」と呼ばれる図像を差し込んだ巨大なフェルトが展示されています。
渡辺泰子/Dear outside
厚みのある白いフェルトの質感や、差し込まれた黒のフェルトの鮮やかな線、何より堂々とした作品の佇まいが美しく、見飽きることがありません。
渡辺泰子/Dear outside
作品に使用されているフェルトは、渡辺泰子さんと地元のボランティアの方々によって作られました。ふわふわの状態の羊毛に、洗剤入りのお湯をかけてなじませ、手で押していくことでフェルト化していきます。
実は、私もボランティアとしてフェルト化する作業をお手伝いさせていただきました。
みんなで力を合わせて作ったフェルトには、地元の方々の想いがたくさんつまっています。
かつて教室だった空間を、豪華絢爛な「美術室」にした豊福亮さんの作品もオススメ。
壁や天井を圧倒的に埋め尽くす絵画は、いずれも20世紀後半の美術史家E.Hゴンブリッジの著書「美術の物語」に登場する世界の名画の模写たちです。
豊福 亮/美術室 撮影=Kuniaki Natori(kuppography)
想像力と技術を要する模写は、その制作過程も含めて美術教育の一環であるとの作者の狙いが込められたインスタレーションです。
かつて里見小学校に通った少年が、机に刻んだ市原の地図。そんないたずら心に着想を得た作品が角文平さんの「養老山水図」です。
小学校の机に落書きした経験は誰にでもあるはず。でも、その落書きが作品に生まれ変わるなんて誰が想像したでしょうか。
教室のなかで、学校の備品に埋もれるように机をならべて、少年が落書きした市原市全土の地形を彫刻として浮かび上がらせます。
角 文平/養老山水図
多くの人々の想いが1,300匹の蝶に「蝶々と内田のものがたり」
市内で唯一現存する旧小学校の木造校舎を活用した「内田未来楽校」。
内田未来楽校
会場には、床一面に広がるたくさんの蝶が。
なんと1つ1つの蝶が、旧内田小学校の卒業生や家族、市内の中学生などによる手作りです。
キジマ真紀/蝶々と内田のものがたり
古くから「再生の象徴」と言われる蝶。内田未来楽校は、これからも人々の心の拠り所であり続けるでしょう。
東京には「何でもある」という便利さがあります。しかし、あえて市原まで少し足を運ぶことで、そこにしかない体験を味わうことができます。豊かな里山風景、土地に根付いたアート作品、ボランティアの方々の温かいおもてなしの心…。
あなたなりの解釈を楽しみながら、ぜひ芸術祭を満喫してください。
【開催概要】
名称:いちはらアート×ミックス2017
会期:2017年4月8日(土)から5月14日(日)までの37日間
時間:10時~17時
会場:千葉県市原市南部地域[小湊鐵道上総牛久駅から養老渓谷駅一帯]
IAAES[旧里見小学校]、月出工舎[旧月出小学校]、内田未来楽校[旧内田小学校]、市原湖畔美術館、森ラジオ ステーション、いちはらクオードの森、旧白鳥小学校、白鳥公民館、アートハウスあそうばらの谷 他
主催:いちはらアート× ミックス実行委員会[会長 小出譲治(市原市長)]
http://ichihara-artmix.jp/
文・堀有希子
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