いま注目すべき12人を見逃すな!
知れば知るほど面白い工芸の世界
神谷町にとてつもなくオシャレな美術館があるのをご存じでしょうか。
スタイリッシュな建物を入ると正面に、書家の篠田桃紅さんの作品がドーンとお出迎えしてくれるのは、現代陶芸専門の「菊池寛実記念 智美術館」です。
この智美術館で現在開催中の「工芸の現在」展が、すこぶる面白い!
陶芸だけでなく、幅広く工芸全般を取り上げていて、いま注目すべき12名の作家さんをまとめて見ることができる美味しいところどりの展示なのです。
1人の作家さんにつき約5点程度が展示されているのですが、作家さんが何を考えて、いままでどのような活動をしてきたかが分かるような5点が選ばれています。
作品は新作から近作で構成されていて、新作を制作した作家さんたちは、渾身の想いを込めてそれぞれがギリギリまで作業していたそうです。
(すごい……!)
それでは、ほんの一部ですが、作家さんと作品を、ご紹介します。
◆留守玲さん
見事第二回菊池寛実賞を受賞されたのは、鉄を使って作品を作る留守玲さん。
溶接と溶断を駆使してつくられたという作品は、鉄だけれど、なにか自然のもののような印象を受けます。
『ゴールデン・バグ』
バグ 虫、コンピュータウィルスなどのバグからとったタイトルの作品。
留守さんは最終的な形をイメージせずに作っていくスタイルで、それが虫が這うような動きと似ていることからもこのタイトルを選んだのだとか。鉄の色々な表情を探しながら作っていくので、今この鉄を溶かして出来た形が、現時点では似つかわしくなくても、そのうち良くなったりする。予想をしていなかった、良いエラーという意味もあるそうです。
◆中田博士さん
轆轤で形を引き上げていく手法でつくられる、つるりとした美しいフォルムが印象的な中田さんの作品。
真珠のような輝きを放つ、釉薬の美しさと、フォルムの美しさが相乗効果を生んでいるようです。
今までの作品は、轆轤で成形する特徴を生かしたふっくらとしたフォルムが多かったそうですが、今回新しい試みで生まれたのがこの作品。
器は、「口」の部分がとても大切だそうで、お花の蕾のようなこの形をつくるのは、難しくはあったけれど、とても楽しかったとご本人が語ってくださいました。
◆神谷麻穂さん
今回最年少30歳の神谷麻穂さんは、お花畑のイメージの8点1組の作品。
質感にこだわって制作をされているそうで、ボコボコした形は地面の表情。地面の土を型にとって、その形に作ったというユニークな制作方法を聞いてビックリしました。
作品は自分の頭の中のイメージを形にするものが多いという神谷さん。今回の作品はお花畑が広がる風景と、お花一輪ごとの両方をイメージしたそうで、見ていて春が待ち遠しくなってしまいました。
◆井口大輔さん
錆びたような土の色合いがとても魅力的な作家さん。
『焼く』ことに重きを置いて制作をされている方です。
焼くと一言で言っても、形をつくる、質感をつくる……など色々な目的や方法があるそうですが、井口さんの場合は土に負荷をかけて、窯の中の酸素を少なくしていくことで焼くことで、独特なカサついた質感が出来上がるのだそうです。
何となく土器っぽい懐かしさがありました。
◆川端健太郎さん
以前筆者が作品をひと目見て惚れ込んでしまった、まさに一目惚れをしたのが川端健太郎さんの作品です。
川端さんは磁土を使って手びねりの手法でつくるのですが、磁土は千切れやすいので、手びねりには向いていない素材なのだそうで、制作過程を想像してみると、気が遠くなるようです……。
一度見たら忘れられない強烈な印象の作品は磁器やガラス質など、複雑に素材や色や形が絡み合っていて、ずっと見ていても全く飽きません。
『女(スプーン)』
2メートル程の大きな作品。こちらも、手びねりで積み上げてつくられており、有機的で独特の世界観があります。
『女(スプーン)』というタイトルは、柄杓の始まりは、手ですくうことだったことからインスピレーションを得ているそうで、やさしく水をすくう女性のイメージなのだとか。
タイトルのせいか、同時にあやしくエロティックな感じもあるなぁと思っていたところ、
「土はエロティックなもので、それを抜きには作れない」とも仰っていました。
◆植松竹邑さん
69歳の竹工芸作家さん。
竹工芸は正直あまり今まで注目して見たことがなく、勝手に地味な印象を抱いていましたが(失礼でごめんなさい)、今回の作品を見て、竹の特性を生かして色々な表情を生み出していることに驚き俄然興味が湧いてきました。
『弦楽の響き』
弦をかき鳴らす様を表現した作品。
竹は熱を加えて形を変える。通常はガスバーナーを使うのだけれど、表情が硬くなりやすいそうで、植松さんはお湯を使って竹の形を創り出しているというので驚きです。
作家さんが、どうやって作っていくのか…のプロセスが想像出来るのが竹作品の見方で面白いポイントでもあります。
◆三嶋りつ惠さん
ペリエジュエとのコラボレーションが記憶に新しい三嶋りつ惠さんは、ベネチアを拠点に、活動されているベネチアングラスの作家さん。今回唯一自分の手で作らない、プロデューサー的立ち位置の作家さんです。
ベネチアにある工房で、職人さんと場所を時間で借りて、自分のアイディアを形にする、という制作方法をとっているそうで、
出来上がった作品をどう見せていくのか、というところまでご自身でプロデュースしているのだそう。
重い作品だと40㎏にもなる大きなガラスの塊を、吹きガラスの手法を用いて作品を作っているのですが、工房の方から、「うちの職人を殺す気か!」と言われるほど(笑)肉体的にも、精神的にも、職人さんに過酷な作業の上に成り立っているのだそうです。
飾る場所や光の具合によって違う表情が見える、瞬間性と空間性が魅力の作品です。
◆山本茜さん
截金ガラスの作家さん。截金ガラス、というのはなかなか珍しく、山本茜さんくらいしか取り組んでいる方がいないようです。
山本さんはもともとは、仏像などに、細く切った金箔を膠を使って装飾を施していくという截金の作家さんでしたが、截金愛がものすごいばかりに、装飾ではなく截金を主役にしたい!
という想いで截金を浮かせて見せるために、ガラスの技術を身につけて、截金とガラスを合体させて作品づくりをしています。
ガラスと截金が交互に重ねられた作品は、ガラスの中で模様が動いて立体的に見えたりして、とてもエンターテイメント性の高い作品です。
そして、山本さんは源氏物語の大のファンでもあり、なんと物語の中のシーンや人物の感情をテーマにした源氏物語シリーズを制作されています。
それも、54帖全てをコンプリートする!という、ミッションを掲げて、現在残り37個のところまで来たそうです。
2016年に完成した最新作「源氏物語シリーズ 第十帖 『賢木』余話(別れのお櫛)」は制作に3年かかったというので、死ぬまでにコンプリート出来るのか…?!
というレベルだそうで、まさにライフワークだなと感じました。
……さてさて、いかがでしたか?
工芸と聞くとなんとなーく古臭いとか、地味などのイメージを持ってしまいがちですが、この展示を見るともっと知りたい!と思えるはず。筆者も工芸の世界にハマってしまいそうです。
展示は2017/3/20までなので、お見逃しなく!
文・写真 : 新井まる
【展覧会概要】
『工芸の現在展』
会期:2016年12月17日(土)〜 2017年3月20日(月・祝)
会場:菊池寛実記念 智美術館
住所:東京都港区虎ノ門 4-1-35 西久保ビル
休館日:月曜日(ただし2017年3月20日は開)
開館時間:11:00〜18:00 _入館は17:30までになります
観覧料:一般1000円、大学生800円、小・中・高生500円
_未就学児は無料
_障害者手帳ご提示の方(介護者の必要な方は1名迄)は通常観覧料の半額となります。
_リピート割引:会期中2回目以降ご鑑賞の方は半券のご提示で300円割引いたします。(他の割引と併用はできません。)