世界を代表する海外アーティストから、注目株の日本人若手アーティストまで!
BODY/PLAY/POLITICS —カラダが語りだす、世界に隠された物語—
現在、横浜美術館では「BODY/PLAY/POLITICS —カラダが語りだす、世界に隠された物語-」という、人間が直面している様々な課題や出来事、個人や集団の物語を身体を通して表現した展覧会を開催しています。
歴史を通じて作り上げられてきた身体が生み出すイメージの数々に、それぞれの角度から切り込んでいく現代美術作家たちの作品。本展覧会は6名からなるグループ展ですが、1人1人充分に空間を取った、個展の集合体のような構成になっています。
見どころと作家の声をお伝えする前に…意味もバラバラな3つのワードからなるタイトルや本展覧会構想の原点について、本展覧会を担当している主任学芸員の木村絵理子さんから説明していただきました。
「BODYは”身体”と同時に”集団”という意味もあり、”集団的な身体”という意味になります。
PLAYは”遊ぶ”という意味のほかに”演じる”という意味もあります。
”集団的な身体”が”役割を演じる”時には何が生まれるのか?
それがPOLITICSという”政治性”につながるのではないかと思い、
それぞれの単語を本展覧会のタイトルとして選びました。」
また続けて…
「もともと、個人的な興味でもあったのですが、”今の日本を考え直してみたい”という想いが
キッカケでした。
日本だけでなく世界中でも言われているところですが…例えば、保守化が進んでいるという
ことや、言論の自由が危ぶまれていること。
『様々なことが窮屈になってきている』と語られることが多くなってきているという思いを抱
き、それは一体なぜなのだろうか?という疑問が浮かび上がりました。
また、2007年に企画した『GOTH』という展覧会では、個人のパーソナルな体をモチーフ
にしていました。
その個人という体の枠を広げ、現代社会において象徴の中における”集団的な身体”というも
のを考えた時に、歴史がどのように”身体”を引き受けているのか?ということにフォーカス
を当て、6名のアーティストを選んでいます。
冒頭にあった”今の日本を考え直してみたい”ということで、参加アーティストを日本に限定
するのではなく、日本を相対的な目線で考えるキッカケが生まれると良いと考え、国外アー
ティストの協力を得ました。」
と、あります。
この言葉を頭に入れながら6名からなる現代美術作家たちの作品をご紹介しましょう。
エスカレーターを上がったところにある展示室の入り口と室内に展示されていたのは、ロンドンに生まれ、ナイジェリアのラゴスで育ったインカ・ショニバレ MBEの作品。
インカ・ショニバレ MBE《ハイビスカスの下に座る少年》2015年
アフリカの国々でヨーロッパ植民地から独立する際、アフリカ更紗を纏うことが個性の象徴になった一方で、アフリカ更紗の多くがヨーロッパで大量生産された輸入品であったという皮肉な事実に注目したそうです。
ヨーロッパとアフリカとの間にある複雑な関係性を示唆する素材として、ロンドンで購入したヨーロッパ製のアフリカ更紗を作品に使用しています。
少年たちの頭部にはイギリスの植民地だったところを赤く染めた地球儀。英国式の教育や文化の影響を受けた彼の自画像だと感じました。
インカ・ショニバレ MBE《蝶を駆るイベジ(双子の神)》2015年
室内にあるシアターでは《さようなら、過ぎ去った日々よ》が上映されており、鮮やかなろうけつ染めしたアフリカ更紗のドレスを纏った黒人オペラ歌手が、『椿姫』のヒロインであるヴィオレッタに扮し、アリアの同じ一節を繰り返し歌い続けています。
わずかに異なる場面が何度も出てくる構成は、繰り返される人類の歴史を示唆しているようでした。
インカ・ショニバレ MBE《さようなら、過ぎ去った日々よ》2011年
続いて登場するのは、出品アーテイストの紅一点イー・イランさん。
本展覧会の展示室では東南アジアの民間伝承でよく知られている女性の幽霊であるポンティアナックをモチーフにした、《ポンティアナックを思いながら:曇り空でも私の心は晴れ模様》という映像インスタレーションを発表しています。
イランさんは作品の中で現代の若者の姿を通して、女性たちの暴力的な経験の象徴として、ポンティアナックを蘇らせています。
女性たちの視点から繰り広げられる赤裸々なガールズトークには、彼氏や夫との関係性だけでなく、セックスや自分の身体や出産のことや、女性の身体、役割、意味を持たせようとすることへの違和感について、幅広い社会状況について意見を求めようとしています。
実際に耳を傾けていると…詩人であるワニ・アルディの詩の朗詠やマレー語の民謡《ウリック・マヤン》に紛れて、次々と口から零れ落ちてくるのは飼い猫などのたわいもない話にはじまり、ベットタイムでの出来事など20、30代女性が抱えている問題が浮き彫りに!
顔が長い髪に覆われているので匿名性はあるものの、国境を越えて女性の悩みは変わらないと感じました。
イー・イラン《ポンティアナックを思いながら:曇り空でも私の心は晴れ模様》2016年
次の展示室に足を踏み入れると…
球体状に組み合わさった3台の扇風機が炎を吹き上げながら回り続けている、2016年制作のビデオ・インスタレーション《炎(扇風機)》を制作したのは、チェンマイを拠点に活動しているアピチャッポン・ウィーラセタクンさん。
そんな彼はカンヌ映画祭パルム・ドール(最高賞)の受賞で一躍脚光を浴び、映画監督としてもその名を馳せ、熱い注目を浴びている存在なんです。
本作品は相反するエネルギーが抵抗した状態を示す抽象的なイメージだそうで、魅惑的なものと脅威が共存する自身の国家に対する暗い印象を反映しています。
アピチャッポン・ウィーラセタクン《炎(扇風機)》2016年
そして、展示室を抜けるとそこにはウダム・チャン・グエンによる2作品、現代社会における兵士の隊列を映像として生み出した《機動隊のワルツ》と、正面エントランスまで侵食している《ヘビの尻尾》が展示されていました。
どちらもベトナム・ホーチミン市民の足を象徴するバイクが使用されています。
そこには科学技術や経済など、人間の発展に対する要求に対し、神から下される毒や戒めが、イメージとして共有されています。
その表裏一体の関係はホーチミンのみならず、広く世界に共有されるのではないでしょうか。
ウダム・チャン・グエン《ヘビの尻尾》2015年
上記で紹介させていただいた世界の現代アートシーンを牽引する海外アーティストの4名に加えて、日本からは今注目を集めている若手アーティストの石川竜一さんと田村友一郎さんが参加しています。
会期中には、石川竜一さんは自身がメンバーに名を連ねるアーティスト・コレクティブ「野性派」によるライブパフォーマンスの実施だけでなく、閉館後の美術館にて参加者だけが展覧会を独占できるプログラム「夜の美術館でアートクルーズ」では石川竜一さんと田村友一郎さんが登場します。
2015年に第40回木村伊兵衛写真賞、日本写真協会賞新人賞を続けて受賞するという衝撃的なデビューを飾った石川竜一さん。
本展覧会では彼が撮りつづけてきた沖縄だけでなく県外を含む日本各地で出会った人々のポートレートを発表しています。
ふとした瞬間にその佇まいや表情から溢れてくるその人の人生。社会の中で生きることへの不器用さが見え隠れしています。
石川竜一《portraits2013-2016》2013年-2016年
《portraits2013-2016》の後には緑の壁の《小さいおじさん》と赤い壁の《グッピー》へとつづきます。
被写体となった小さいおじさんとグッピーは、石川さんがかつて道端で声をかけて、その後も付き合いが続いた人たちです。
第二次世界大戦後の沖縄で波乱万丈の人生を送った男性と独自のファンタジックな世界観の中で生きている女性。
強さと弱さを併せ持つ2人の取材を通して見えてきたそれぞれの人生を写真と自筆の文章で綴っています。
石川竜一《グッピー》2011年-2016年
本展覧会を締めくくるのは、日本の戦後史と身体をめぐる田村友一郎さんの作品です。
近代ボディビルディングの歴史に着目し、新作の映像インスタレーションを発表しています。
19世紀のプロイセン王国で誕生した近代ボディビルディングは、ヨーロッパからアメリカへと伝来、戦後GHQ占領下の横浜から日本にもたらされ、近代における新たな身体感を作り上げてきました。
米兵によって持ち込まれた鍛えられた身体と、その生成をめぐる物語を取り上げています。
田村友一郎《裏切りの海》2016年
作品を進行させるのは壮年の男性と若者の間で交わされる断片的な歴史的情報の会話。
そして、港町のバーを模した空間にあるのは3台のビリヤード台。
それぞれ、戦中、終戦直後、戦後という3つの自制が重なりあう横浜の地図と、ミルク、リアーチェの戦士像と2009年に起きたバラバラ殺人事件のイメージが散りばめられています。
床などには戦士ともボディビルダーとも重式コンクリート製の断片化した彫像がありました。また、画面には彫像が壊されて海から拾い上げられるプロセスを捉えた映像が流れています。
田村友一郎《裏切りの海》2016年
筋肉から身体へ…作品から世界の構造も、歴史の因果も、すべては小さな断片が繋がり合うことで描かれた創作物になるのだと語りかけられているようでした。
あなたも横浜を起点とした肉体をめぐる物語を紐解いてみてはいかがでしょうか。
田村友一郎《裏切りの海》2016年
※ボディビルダーの参加は内覧会の当日のみです。
自分のバックグラウンドである祖国と自分を構築してきた国家との違い。女性であることのジレンマ。
創造と破壊。科学や経済になど人間の発展に対する要求への神の啓示。日本の今。
小さな断片がつながり合うことで描かれている歴史の因果と世界の構造。
ヨーロッパとアフリカ、東南アジア、そして日本。
本展覧会に出品している6名の現代美術作家は、詩的な、時にユーモアに溢れる表現です。
ここで今一度、冒頭にご紹介した木村絵理子さんの言葉を振り返ってみましょう。
私たちは”個の身体”を持ちながらも”集団の身体”なのです。
その”集団の身体”が影響をもたらし、同時に及ぼされるものは、社会であり、政治であり、歴史です。
残念ながらいくら足掻いたところでそれらとは切っても切れるものではなく、私たちの生まれや育ちだけでなく生活の一部となって密接に関係しています。
様々なことが規制されて窮屈になってきている現代社会において、これからの未来を考えるキッカケを与えてくれる展覧会。
あなたも6名の現代美術作家が手がけた作品から未来と今に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。
また、会期中にはライブ・パフォーマンスやダンスのワークショップなどでも構成され、年明けの『横浜ダンスコレクション2017』とも連携して美術とダンスの両面から、身体が生み出す可能性を掘り下げるプログラムも企画されています。そちらも合わせて楽しんでみてはいかがでしょう。
文・写真:新麻記子
【情報】
BODY/PLAY/POLITICS —カラダが語りだす、世界に隠された物語-
会期:2016年 10月1日(土)~12月14日(水)
開館時間:10時~18時 (入館は17時30分まで)
※10月28日(金)は20時30分まで(入館は20時まで)
休館日: 木曜日(ただし11月3日[木・祝]は無料開館)、11月4日(金)
料金:一般 1,500円 大学・高校生 ¥1,000 中学生 ¥600
65歳以上 ¥1,400(要証明書、美術館券売所でのみ対応)
http://yokohama.art.museum/special/2016/bodyplaypolitics/
【パートナー・プロジェクト】
横浜ダンスコレクション2017 『BODY/PLAY/POLITICS』
会期:2017年1月26日(木)~2月19日(日)
会場:横浜赤レンガ倉庫1号館 及び 屋外広場、横浜にぎわい座 のげシャーレ、急な坂スタジオ ほか
お問合せ:横浜赤レンガ倉庫1号館 TEL:045-211-1515
http://www.yokohama-dance-collection-r.jp/jp/