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【後編】傑作映画とともに振り返る!第28回東京国際映画祭レポート

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2015年11月23日

【後編】傑作映画とともに振り返る!第28回東京国際映画祭レポート


前編では、日本のインディペンデント映画2作品を紹介した。

後編では現在映画の黄金期を迎えているフィリピン映画を
特集したCROSSCUT ASIA部門の中から『汝が子宮』を紹介する。

 

◇『汝が子宮』

舞台は、フィリピンのイスラム教文化が根強い離島。子宝に恵まれない妻は、
子を望む夫のために、第2夫人を迎えて子供を産んでもらおうと決意する。
しかし、漁で生計を立てる貧しい二人にとって第2夫人を迎えるための
持参金を準備することは容易ではない。なんとか金を工面し、
やっとの思いで若く美しき第2夫人を迎えるのだが・・・

 

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(c)CENTER STAGE PRODUCTIONS CO.

 

フィリピンのインディペンデント映画の雄である、ブリランテ・メンドーサ監督は、
三大映画祭(カンヌ・ベルリン・ヴェネツィア)全てで受賞経験を持つ。

ヴェネツィア映画祭Navicella Venezia Cinema Award賞を受賞した本作は、
まず冒頭のリアルな出産シーンが強烈なインパクトを持って観客をのめり込ませる。

子宮口から赤ん坊の頭が見え隠れし、取り上げるシーンは圧巻である。
漁の最中、突然海賊に襲われたり、サメの出現、幸せな結婚式の中での銃声。
突然の恐怖がスクリーンに広がり、都会で暮らす私たちが
もはやほとんど経験することのない生と死の生々しさがここにはある。

そして結婚式での新郎新婦の民族ダンスは求愛のようでもあり、
人間が本能に支配されている生き物であることを思い出させてくれる。

 

メンドーサ監督は物語を決めないままこの島に降り立ち、この島の文化から着想を得て本作を製作した。
リアリティを徹底的に追求した演出方法がメンドーサ監督の持ち味であるが、
本作では俳優に脚本を渡さずにシーン説明のみをして撮影を進行させていったのだという。
その意図は、暗記したセリフでのやりとりではないリアリティと化学反応を生み出すためにある。

 

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(c)CENTER STAGE PRODUCTIONS CO.

 

印象的なシーンは、仲睦まじい中年夫婦が大金を積んでやっと第2夫人と対面を果たすシーンである。
喜びも束の間、第2夫人となる若き女性が突きつけたのは、
「子供を産んだ時点で奥さん(ヒロイン)とは別れてもらう」という条件だった。
その一瞬の夫の愕然とする表情、第2夫人と夫とのやりとりを外から見守るヒロインのアップ。
各俳優の表情が目に焼き付き、実際にあのシーンがどのように演出されたのか、
メンドーサ監督に個別にお話しを伺った。

すると、「第2夫人にだけ、交換条件を言い渡す設定を教えていたんだよ。他の俳優には知らせてない。
だから、新しい妻から赤ん坊の誕生とともにヒロインと別れるよう言い渡された瞬間、夫役の
俳優は本気で驚いているんだ。あの顔は、本当の驚きそのものなんだ!」と笑顔で語って下さった。
また「イスラム圏では子供を産むことが大切にされていて、第2夫人を
迎えることは珍しいことではない」と文化的背景を教えて下さった。

しかし、愛する夫との幸せを求め、第2夫人を探し当てたヒロインが実際に直面した現実は悲しく、胸が痛む。
男と女、埋めても埋まらない距離が大きなドラマを生み出し、やはりやるせなく深い余韻を残す作品だった。

 

【予告】

 

東京国際映画祭、国際交流基金の企画で、『アジア三面鏡』というオムニバス映画が3人の監督により作られる。
その一人としてメンドーサ監督が決定している。
日本を舞台にオムニバスを撮影する可能性もあり、日本の
どのような部分に焦点をあて、作品を作り上げるのか、大変興味深い。

「また来年戻って来ます」という言葉の通り、2016年東京国際映画祭で公開予定となる。

 

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【第28回 東京国際映画祭記者会見レポート】 〜 あなたの好きなプログラムをみつけよう!〜
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◇東京国際映画祭を振り返る・・・

通算9本の映画を鑑賞した。紹介した映画のほかにも、ドキュメンタリー映画の
巨匠フレデリック・ワイズマン『ジャクソンハイツ』やコンペティション部門の
『スリー・オブ・アス』など、現時点で日本公開が決まっていない作品との出会いは貴重であった。

またジョン・ウー監督スペシャルトークイベントでは、『男たちの挽歌』の
制作秘話や香港とハリウッドの映画製作の違いなど直に話を聞ける喜びがあった。

 

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国内外の映画製作者との交流も大変刺激的だった。

このように映画鑑賞だけに飽き足らず、10日間はあっという間に過ぎ去った。

 

突撃インタビューを敢行することができたのも、ユーモアを交え
ながら監督と観客の繋ぎ役として活躍されていた通訳者の方々のおかげだ。

「映画祭という名のせっかくのお祭り。通訳者として楽しい
ムードで映画ファンとの橋渡しをしたい」と語られる姿が素敵だった。

こういう方の気概が映画祭の現場を生き生き盛り上げているのだと実感した。
語学が堪能でなくとも直に製作者の話を聞いてみたい映画ファンの強い味方でもある。

 

映画を見終え、喉が渇けば、ふらりと東京映画食堂でワインを飲み、食事をした。
東京映画食堂では普段なかなか足を運びにくい高級レストランが出店、手頃な価格で食事を楽しむことができた。
特にイタリア料理店の名店『イルギオットーネ』の屋台は料理のみならず、
店員さんの気持ちの良い接客と心遣いで映画の余韻とともに幸せな気持ちにさせてくれた。

映画を介した様々な新しい出会いと交流は、心の豊かさを与えてくれ、映画祭ならではの喜びをもたらしてくれる。
来年の東京国際映画祭はどんな賑わいを見せるのか。今から楽しみである。

 

◾️第28回東京国際映画祭 http://2015.tiff-jp.net/ja/

 

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文・写真:小川仁美