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次世代の奇才現る!?マルセル・デュシャン賞2016

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2017年1月24日

次世代の奇才現る!?マルセル・デュシャン賞2016


次世代の奇才現る!?マルセル・デュシャン賞2016

 

20世紀を代表する芸術家でありながら、現代美術の先駆者として知られるフランス人芸術家、マルセル・デュシャン。マルセル・デュシャン賞は、フランス現代美術国際化推進会(ADIAF)というアートコレクターの団体によって2000年に設立されました。フランスで活躍する若手アーティストが対象です。現在フランスのパリにあるポンピドゥー・センターでは、1名の受賞者と3名のファイナリストによる展示が開催中。

今回のコラムでは、アーティストと作品について紹介していきます♪

 

 

Prix Marcel Duchamp 2016 ©Adagp, Paris 2016 Centre Pompidou

 

 

私がこの賞を知ったきっかけは、2011年3月26日〜8月28日に森美術館で見た「フレンチ・ウィンドウ展:デュシャン賞にみるフランス現代美術の最前線という展覧会です。日本でも企画展が行われ注目されましたが、まだ日本での認知度が低いようです。

 

【マルセル・デュシャン賞のねらい】

 

・フランスで活動しているアーティストたちを激奨するため

・新しい形式の芸術に目を向けるため

・私たちの確信をひっくり返すような作品を示すため

・世界を解読する手助けのため
2000年に結成されたフランス現代美術国際化推進会(ADIAF)とマルセル・デュシャン賞の働きかけは威信を獲得し、現在国際的な舞台において主要な現代美術の賞として位置付けられるようになりました。

 

また今年から展示会場として新たに選ばれたポンピドゥー・センターは、常に新しい関心と共に「見ること」や「理解すること」を引き起こす必要性を意識している場です。フランスのアートシーンの極端な多様性による自発性を促進させようとしています。また、来場者に対してフランスの創造的な芸術の豊かさを伝えることをミッションの一部にしています。今まで以上に、様々な愛好家とコレクターからサポートの下、私たちに現代アートに対する好奇心を掻立ててくれるでしょう。

 

7名の国際的な審査員によって選ばれた4名のアーティストは、現代の政治や経済の問題、または人類学の争点に直面し、それらをそれぞれの手法で浄化させようとしました。彼らはその経験を、みなさんに展覧会という形を通して提案しています。この展示はアーティスト達がまるで傷ついた社会のための「治療師」として間接的に振る舞うことを可能にしています。

 

【ファイナリスト3名】

Barthélémy Toguo

1967年カメルーン生まれ、フランス・グルノーブル美術大学を卒業し、現在はパリとカメルーンで活動しています。

 

このアーティストは研修者の助けを借りて、アフリカで広く蔓延しているSIDA(エイズ)やエボラ出血熱についてのインスタレーション作品を製作しました。科学的な問題の中に彼らの探求を定着させようと心がけ、アートと科学の間の関係を築きました。

 

 

Barthélémy Toguo vues de l’exposition Prix Marcel Duchamp 2016 ©Adagp, Paris 2016 Centre

 

 

Pompidou, Georges Meguerditchian

インスタレーションで一際目をひく高さ2mある壺は、水の象徴です。水は浄化や洗礼のために使われることがありますが、現代では汚染水が問題視されています。このように水の両義的な関係を意味しています。

 

 

Barthélémy Toguo Vaincre le virus!, 2016 ©Adagp, Paris 2016Courtesy Galerie Lelong & Bandjoun Station

 

壺にはアーティストの自画像とウィルスの詩的なビジョンが描かれています

 

 

Barthélémy Toguo Vaincre le virus!, 2016 ©Adagp, Paris 2016Courtesy Galerie Lelong & Bandjoun Station

 

 

 

Ulla von Brandenburg Born

1974年ドイツ生まれ、パリで活動しているアーティストです。インスタレーションでは、パフォーマンス映像と建築的要素が対立し合います。映像とインスタレーションのおかげで、来場者はまるでダンサーとして作品と向かい合うことができます。

 

 

Ulla von Brandenburg vues de l’exposition Prix Marcel Duchamp 2016 ©Adagp, Paris 2016 Centre Pompidou, GeorgesMeguerditchian

 

パフォーマンスの映像は共感覚や抽象的な力を思わせるような内容でした。白で統一された階段は白い箱のメトニミー(あるものを表すのに、それと深い関係のあるもので置き換える方法。換喩。)で、「汚れのない場所」とみなされます。映像に登場する様々な色は、社会的な意味や交流の意図のように作用します。例えば、黄色は歴史的に物語的な縁起物や物神として表れています。

 

 

Ulla von Brandenburg, It Has a Golden Sun and an Elderly Grey Moon, 2016 ©Adagp, Paris 2016 Martin Argyroglo

Ulla von Brandenburg, It Has a Golden Sun and an Elderly Grey Moon, 2016 ©Adagp, Paris 2016 Martin Argyroglo

 

 

 

Yto Barrada

1971年フランス生まれ、現在はニューヨークで製作活動をしているアーティスト。

このアーティストは、ある動物行動学者(Thérèse Rivière)の悲劇について探究することを選びました。Thérèse Rivièreは第一次世界大戦から第二次世界大戦の間のフランス人動物行動学者です。アーティストが注目したのは、この動物学者が収容される前までに報告された北アフリカの写真や書類一式です。

 

 

Yto Barrada vues de l’exposition Prix Marcel Duchamp 2016 ©Adagp, Paris 2016

Centre Pompidou, Georges Meguerditchian

 

 

この空間は発見物(花、ゲーム、子供の絵)や魔法のレシピがパズルのように詩的に構成されています。インスタレーションは伝記の探求から離れ、アーティストは動物行動学者の憂鬱、動物学の分類と文化の捕まえどころがないこととの間の隔たりをくまなく探しました。 この忘れられた「隔たり」は、アートを通して治癒されるアクションとして作用します

 

 

Yto Barrada vues de l’exposition Prix Marcel Duchamp 2016 ©Adagp, Paris 2016

Centre Pompidou

 

 

【2016年度マルセル・デュシャン賞 受賞者】

Kader Attia

1970年フランス生まれ、現在はパリとベルリンで活動しているアーティストです。
このアーティストは自分自身を失い、元に戻るまでのプロセスを彷彿とさせるための分析の場所として、映像とオブジェと彫刻を混ぜたインスタレーションを提案しました。

 

 

Kader Attia vues de l’exposition Prix Marcel Duchamp 2016 ©Adagp, Paris 2016 Centre Pompidou, Georges Meguerditchian

 

 

ビデオは、外科医、神経科医、精神分析学者の切断手術の結果として生じた幻影肢(欠落しても手足がまだ体に接続されている感じを持っていること)の現象についてのインタビューで構成されています。

 

 

 

Kader Attia, Extraits du film-essai« Réfléchir la Mémoire », 2016 ©Adagp, Paris 2016 Galleria Continua, Galerie Nagel Draxler, Lehmann Maupin, et Galerie Krinzinger

 

 

奴隷、植民地化、共産主義、組織的大量虐殺といった、近現代史の亡霊についての研究や個人的な切断手術の調査は、心の奥の傷と集団の負傷、物質的な症状と非物質的な症状の問題にまで広がりました。

 

 

Prix Marcel Duchamp 2016 ©Adagp, Paris 2016 Centre Pompidou

 

 

 

【7名の審査員】

① Iwona BLAZWICK (イギリス), ロンドンのホワイトチャペルギャラリーのディレクター

② Bernard BLISTÈNE (フランス), パリの国立近代美術館、ポンピドゥー・センターのディレクター

③ Manuel BORJA-VILLEL (スペイン), マドリードのソフィア王妃芸術センターのディレクター

④ Alexandre de Coupigny (フランス), パリのコレクター

⑤ Laurent DUMAS  (フランス), パリのコレクター

⑥ Gilles FUCHS (フランス),コレクター, フランス現代美術国際化推進会(ADIAF)の会長

⑦ Akemi SHIRAHA (フランス/日本), マルセル・デュシャン賞教会の代表

パリの国立近代美術館、ポンピドゥー・センターのディレクター  Bernard BLISTÈNEは「このアーティストの意図や野望、そして様々なアプローチ方法や実践は、審査員を彼の作品が最も適していると納得させるものでした。」とインタビューで語りました。

 

 

Prix Marcel Duchamp 2016 ©Adagp, Paris 2016 Centre Pompidou

 

 

文 : 矢内 美春

写真提供 : ポンピドゥー・センター

 

【情報】

 

♡ポンピドゥー・センター

 「マルセル・デュシャン賞2016」

 2016年10月12日〜2017年1月30日

 https://www.centrepompidou.fr/en/(英語)

 

♡フランス現代美術国際化推進会 (ADIAF)

  http://www.adiaf.com/en/  (英語)

 

♡森美術館

 「フレンチ・ウィンドウ展:デュシャン賞にみるフランス現代美術の最前線

  2011年3月26日〜8月28日

  http://www.mori.art.museum/contents/french_window/index_static.html

 



Writer

矢内 美春

矢内 美春 -  Miharu Yanai  -

東京工芸大学芸術学部写真学科卒業後、渡仏。レンヌ美術学校(École européenne supérieure d’art de Bretagne)のアート科に編入し、写真・絵画・陶芸を用いて作品制作をする。同校にてDNAP(フランス国家造形芸術免状)を取得後は、IESA(Institut d’Études Supérieures des Arts)でアートマネージメントを学ぶ。東京(Misa Shin Gallery)やパリ(Galerie Taménaga)の画廊、アートフェア(ASIA NOW/パリフォト)で研修を受ける。

ガールズアートークを通して、アートに触れた時に感じる、恋するような気持ちをみなさんとシェアしていきたいです。