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波及するエネルギーを体感せよ! 『国立新美術館開館10周年 安藤忠雄展―挑戦―』

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2017年10月13日

波及するエネルギーを体感せよ! 『国立新美術館開館10周年 安藤忠雄展―挑戦―』


波及するエネルギーを体感せよ!

『国立新美術館開館10周年 安藤忠雄展挑戦

 

 

現在、開催中の国立新美術館10周年の展覧会は、とにかく豪華だ。
元プロボクサーでありながら、独学で建築を学んだ異色の経歴の持ち主、日本の誇る建築家・安藤忠雄氏(以下、安藤氏)が空間デザインまで手掛けた展覧会が始まった。

 

 

取材当日には、安藤氏自身によるトークが開催された。
筆者の前職時代に聞いた話も交えて、壮大な挑戦の軌跡と未来への展望を紹介する本展を、「体感」「”活かす”アイデア」「サービス精神」という3つの観点にフォーカスする共に、安藤氏の魅力に迫りたいと思う。

 

本展覧会を受けるにあたって、早速、壮絶なエピソードが炸裂した。

 

安藤氏:「病気をして体調も悪かったので少し悩みました。胃も膵臓も取るような手術が必要になった時、医師に”人間、膵臓全部とっても生きていられるものですかね?”と聞くと”夢と希望があれば生きていけます。”とおっしゃった。それならば本展覧会を引き受けようと思いました(笑)」

 

 

1.現地に赴いたかのような体感

 

 

本展覧会は、模型やスケッチ、ドローイングなど、計270点余りの設計資料で構成されている。

 

安藤氏:「今回はとにかく、体感して欲しい」

 

体感へのこだわりが顕著に表れているのが、展示室のバルコニーに造られた『光の教会』(大阪府,茨木市)だ。
本展では、なんと原寸大で再現されている。

 

 

安藤氏:「元々、光の教会には、十字架部分にガラスを貼りたくなかったんです。今回はその夢が叶った。人間、諦めちゃだめですね」

 

何故、『光の教会』のガラスを取ってしまいたいのか?その理由を別の機会でこう語っていた。

 

安藤氏:「私自身、ヨーロッパの教会で差しこむ光にひどく感動したのをよく覚えているのです。ガラスがなければ自然光がそのまま入ってくるでしょう。人の心に残るような建物を作りたいじゃないですか」

 

安藤氏は施主にまず、以下のように話すという。

 

安藤氏:「依頼が来るとき、私の建築は住みにくいですよ~、使いづらいですよ~とちゃんと言ってます。それでもいいというんですよ(笑)」

 

本来重要であるはずの建築の使い勝手。

しかし、続く考えを聞いてはっとさせられた。

 

安藤氏:「便利なことだけが良いわけじゃない。”自然との共存”というのは、寒い時は凍えたり、暑い時は汗が出たり…”生きている”って感じること」

 

安藤氏の手がける建築は、現代文明に慣れてしまった私たちに大切なことを教えてくれる。

 

 

更に注目して頂きたいのが、安藤氏が30年以上にわたって行った直島プロジェクトの現地の映像と、島の模型を見渡せるインスタレーションだ。

 

 

また、”買い取らされた家”というタイトルで紹介されている『大淀のアトリエ』の再現もあり、安藤ワールドに没入できる。

 

模型を鑑賞しながら解説を読むという従来の建築の展覧会とは、完全に一線を画しているのだ。

 

 

 

2.自然と建築物の共存、あくまで土地の魅力を活かすという姿勢

 

 

環境へのこだわりも安藤氏の大きなテーマである。自然を守ることはもちろん、安藤氏が得意なのは”自然の良いところを残し、かつ新しくすること”だ。

 

 

 

安藤氏:「人間は自然を壊し過ぎた。建築家のくせに言うのもなんですが、これ以上壊したくない」

 

古い建築物を大切にするヨーロッパからは、大規模なリニューアル等も依頼される。

安藤氏の元で働くボランティアの学生達が約半年をかけ制作した『プンタ・デッラ・ドガーナ』(イタリア)の模型も必見である。

 

また、旅先で描いたというスケッチ等、興味深い資料も展示されている。

 

 

安藤氏は建築をこう語る。

 

安藤氏:「建築というのは、その土地に行かないと見れないじゃないですか。その土地に行ってでも見たいような建築物にしないといけない」

 

その言葉通り、スケッチを見ると歴史や民族衣装、食べ物やその土地に暮らす人々も描かれており”その土地の良さ”をピックアップしているように見える。

 

その手腕を明確にしたのは直島プロジェクトだろう。

 

 

今では人口約2500人の島に年間70万人以上が訪れているという。直島には安藤氏の手がけた建物が7つあり、草間彌生氏のオブジェを筆頭に現代アート作品が最高のロケーションで配置され、さながら”アートの島”となっている。

以前は、製錬所跡地ということもあり荒廃した土地だったが、それが現在、美しい景色の中に現代アートが溶け込み観光地として人気は抜群だ。

 

中でも『地中美術館』は一度建てた美術館を、”自然の景観を壊さないように”との思いから名の通り地中に埋めている。

 

多くの人が訪れるようになると、そこに生きる人たちの暮らしも変わる。70歳近い高齢の住人も「こんなに観光客が来るならば、何かを始めよう」と飲食店や民宿経営を始めている。

安藤氏のエネルギーは波及していくのだ。

 

 

展示の中には『頭大仏殿』という大仏を頭以外コンクリートの壁中に隠し、雪が降ると”冬眠”しているかのようにしたという驚きアイデアのものも…!

安藤氏は”現地に行くだけの価値”をつくることが本当に得意だ。

 

 

3.類まれなるサービス精神

 

 

安藤氏は誰もが学ぶべきサービス精神の持ち主でにある。

施主にも、取材陣にも、常に今風の言葉で言うなら”神対応”を見せてくれるのだ。

本展覧会もセッション時間外でも進んで作品のガイドツアーをしたり、必ず質問を受け付けたりしている様子を目にした。

 

 

過去に依頼主にプレゼントしたお手製のパネルなども展示されていた。

例えばこの大仏と一緒にコラージュされているのは、大和ハウス工業株式会社の樋口代表取締役会長兼CEOだ。樋口会長と握手をした際にその温かさに驚き、大仏のようだと感じたのでこのデザインにしたらしい。

 

 

その他にも本人の肉声が豊富な音声ガイド、さらに”全てがこの展覧会限定”というミュージアムショップには沢山の直筆スケッチ、サイン入り商品が並ぶ。

安藤氏のサービス精神溢れる行動は、人々の心を掴みファンを増やしてくのだ。

 

 

隅々まで安藤氏のこだわりがつまった本展覧会を巡る中で、一貫した理念を知り、歩みを追体験できる。鑑賞者は、建築という文化の豊かさと、今後の可能性を再確認することだろう。

 

 

文 :山口 智子

写真:新井 まる

 

 

【開催概要】

国立新美術館開館10周年  安藤忠雄展挑戦

 

◆会 期◆
2017年9月27日(水)~12月18日(月)
毎週火曜日休館   

◆開館時間◆
10:00~18:00 金曜日・土曜日は20:00まで
※9月30日(土)、10月1日(日)は22:00まで
※入場は閉館の30分前まで  

◆会 場◆
国立新美術館 企画展示室1E+野外展示場  

◆主 催◆
国立新美術館、TBS、朝日新聞社

◆共 催◆
安藤忠雄建築展実行委員会

◆後 援◆
一般社団法人 東京建築士会、TBSラジオ

◆協 賛◆
株式会社サンケイビル、サントリーホールディングス株式会社、積水ハウス株式会社、積和不動産関西株式会社、大和ハウス工業株式会社、
森ビル株式会社、株式会社アマナ、株式会社イッセイ ミヤケ、伊藤工事株式会社、大阪商工信用金庫、株式会社叶 匠寿庵、臥龍山安養院、
捨分之壹、上海元祖夢世界置業有限公司、新華紅星国際広場、株式会社スーパーホテル、台灣南山人壽、株式会社ビギ、公益財団法人 福武財団、
文築国際、株式会社ベネッセホールディングス、株式会社間口、株式会社ロック・フィールド、Akio Nagasawa Gallery、Aurora Museum、
C.C. Kuo、Château la Coste、Genesis Beijing、IPU環太平洋大学、maiim、Richard Sachs、Wrightwood Gallery、Yoshii Gallery New York、
岩田地崎建設株式会社、株式会社大林組、鹿島建設株式会社、株式会社きんでん、清水建設株式会社、株式会社佐藤秀、大光電機株式会社、
株式会社竹中工務店、西松建設株式会社、株式会社乃村工藝社、株式会社長谷工コーポレーション、まこと建設株式会社、安藤忠雄建築研究所、
アトリエ安藤忠雄

◆協 力◆
アイカ工業株式会社、株式会社インターオフィス、株式会社カッシーナ・イクスシー、元旦ビューティ工業株式会社、前田建設工業株式会社、
株式会社ユニオン、株式会社LIXIL、TOTO株式会社、YKK株式会社、YKK AP株式会社

◆観覧料(税込)◆
当日
1500円(一般) 1200円(大学生) 800円(高校生)
前売/団体
1300円(一般) 1000円(大学生) 600円(高校生)
中学生以下および障害者手帳をご持参の方(付添の方1名を含む)は入場無料
11月3日(金・祝)、4日(土)、5日(日)は高校生無料観覧日(学生証の提示が必要)

 

展覧会ホームページ:http://www.tadao-ando.com/exhibition2017



Writer

山口 智子

山口 智子 - Tomoko Yamaguchi -

皆さんは毎日、”わくわく”していますか?

幼いころから書道・生け花を始めとする伝統文化を学び、高校では美術を専攻。時間が許す限り様々な”アート”に触れてきました。

そして気づいたのは、”モノ”をつくることも大好きだけれど、それ以上に”好きなモノを伝える”ことにやりがいを感じるということ。

現在、外資系IT企業に勤めながらもアートとの接点は持ち続けたいと考えています。

仕事も趣味も“わくわくすること”全てに突き動かされて走り続けています。

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