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写真家レイモン・ドゥパルドン特集! [前編] 写真展「DEPARDON / TOKYO 1964-2016」



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2017年9月29日

写真家レイモン・ドゥパルドン特集! [前編]  写真展「DEPARDON / TOKYO 1964-


 

写真家レイモン・ドゥパルドン特集! [前編]  写真展「DEPARDON / TOKYO 1964-2016



 

フランスを代表する写真家で映画監督のレイモン・ドゥパルドン。60年代に報道写真家として活動をスタートさせ、チャドやベトナムなどの紛争地帯を取材。優れた報道写真に与えられるロバート・キャパ賞を受賞し、現在は世界最高峰の写真家集団マグナム・フォトに所属している。「20世紀のあらゆる変革が起きた現場には必ず彼がいる」と言われるほど、世界の激動の瞬間をカメラに収め、映像と写真のフィールドで活躍してきた。

 

そんな彼の作品がこの秋から一挙公開中だ。日本初の写真展や自身を題材としたドキュメンタリー映画、そして日本で初出版となる写真集「さすらい」とドゥパルドンイヤーとなる今年、彼の来日の模様や作品について前編・後編に分けてお届けする。



 

 

 

 

 

10月1日までシャネル・ネクサス・ホールで開催されている写真展「DEPARDON / TOKYO 1964-2016」は、ドゥパルドンにとって日本初の個展となる。初来日は1964年。当時22歳で報道カメラマンとして、東京オリンピックの取材のためであった。以降、東京に愛着を感じ、度々来日しては写真を撮り続けている。

 

 


1964年当時のドゥパルドン 東京オリンピック記者席より

 

 

展示作品は、1964年の東京オリンピックと1985年から2008年までのモノクロ写真、そして2016年制作のカラー写真といずれも東京を被写体にした作品群で3部構成である。

 

 

シャネル・ネクサス・ホール写真展「DEPARDON / TOKYO 」1964-2016」予告

 

 

シャネル・ネクサス・ホールの空間デザインの美しさ


 

 

 

 

展示会場はオリンピックの輪から着想を得て、昔の競技場をイメージした構造となっている。なだらかなカーブを描いた壁が巡らされた場内は、まるで路地のよう。

 

 

DEPARDON / TOKYO 1964-2016」の構成

 

 

 

撮影年代ごとに壁が色分けされている。ピンク、白、黒と年代順に辿っていけば、1964年の東京オリンピックの熱気とそれ以降の東京の変貌を感じ取ることができるだろう。



 

 

 

 

特に印象深いのは1964年東京オリンピック当時の写真だ。




 

 

 

 

 


オリンピック競技の報道目的で来日したドゥパルドンだが、競技シーンのみならず、カメラはオリンピックに湧く人々の様子や表情も積極的に捉えている。その数、約2000点以上に及んだという。競技場を埋め尽くす大観衆やシートを敷いてお弁当を子どもと食べる母親のはにかんだ笑顔、和服姿の日本人女性、外国人選手と交流する日本人。物珍しさや好奇心いっぱいの人々の様子や表情。それは第二次世界大戦後の日本の復興を写し出している。

 

 

 

 

 

 

競技を一目見ようと沿道に押しかける人々、次の写真に進んでいくとマラソンランナーの姿、そしてこの年のマラソン金メダリスト、アベベの独走と続く。このような一連の作品の並びは人々の熱気溢れる視線の先を見つめているようで、当時の様子をストーリーのように追うことができる。

 

 

 

 

 

「驚いたのはアマチュア写真家の数で、背広にネクタイ姿の人がカメラを構えていた。アフリカ人が通ると当時の日本の人々は、皆ハッピーな雰囲気で見ていた。フランスでは厳しい視線で見られがちな彼らだが、東京では注目を集め、誇らしげに歩いていた」と当時を振り返るドゥパルドン氏。



 

 

 

 

 

1985年-2008年の作品

 

 

 

 

 


40年以上続いた今はなき有楽町駅近くのcafe de CIRO。あの高齢のマスターの不在や美味しいコーヒーを味わえない寂しさも、こうして写真の中での再会で嬉しさに変わり、思わずドゥパルドン氏に話しかけてしまった。

 

 

 

 

2016年のカラー写真は縦写真で作風もがらりと変わる。

 

 

 

 

 

 

52年でこんなに変わったのは私なのか?東京なのか? 

 

レセプションに登壇したドゥパルドン氏は決して1964年の作品はノスタルジックではないと強調しつつ、当時の日本をこのように振り返る。

 

「一つの大きな国の発見だった。もっと人々、街中の写真を撮っておけばよかったという悔いはあります。でも当時、地下鉄が乗りづらく、移動がとても難しかった。タクシーの座席に貼られた地図を指さし行きたい場所を告げてなんとかタクシーを乗りこなしての移動でした」

 

そして当時の日本人の印象については「優しさに満ち、ちょっとナイーブ。当時の私は日本の人たちと話したりコミュニケーションをとる術を知りませんでした。でもスタジアムに来る人々は素晴らしく、おそらく遠くから来ている人もたくさんいて、皆、優しいまなざしをしていました。今回の開催にあたり、改めて日本のどこが好きかを考えました。それは街中、路上です。なんというスペクタル!」

 

ドゥパルドン氏は東京の変化をどのように捉えたのだろうか?

 

「52年でこんなに変わったのは私なのか?東京なのか?たぶん両方でしょう。東京は世界有数のモダンな都市だと思いますが、52年の間に信じられない進化を遂げました。交通機関も人間もあげればきりがない。特に日本人女性は1964年には存在感がありませんでした。実際写真を見ても女性率は少ないと言えます。東京に戻ってくるようになり、この街の人には自由があり、女性も美しく存在感を発揮していると感じています」

 

60年代、フランス人が描く日本は京都の寺院などステレオタイプなものだったという。日本の日常生活に近づけたのは日本の作家たちに強い影響を受けたと以下のように語る。

 

「当時、欧米の写真家では捉えきれない日本があったと思う。幸運にも日本映画や写真家の作品が入ってきて、リアルな本物のアプローチで日本を知ることができるようになりました。写真家では、深瀬昌久、森山大道、荒木経惟、また小津安次郎以降の日本映画によっても!小津と私の父は同い年で、小津は映画における私の父のような存在です」

 

 

レイモン・ドゥパルドン氏と筆者 川嶋一実

 

 

展示を見終えて

 

彼の写真をノスタルジーという言葉で形容するにはふさわしくない。彼は過去を懐かしむような淡い懐古主義ではなく、常にその瞬間をフレッシュに切り取り、あの時代あの瞬間の人々・出来事を記録してきた。その姿勢は後編で紹介する現在公開中のドキュメンタリー映画『旅する写真家 レイモン・ドゥパルドンの愛したフランス』をご覧いただければ明らかだ。

 

1964年東京オリンピックはアジアで初の開催であり、戦後の復興の象徴的出来事だ。人々の表情の明るさ、素朴な微笑み。シャイでそう表情豊かとは言い難い日本人がこうした表情を浮かべているのは、カメラを向けるドゥパルドン氏の温かなまなざしがあり、レンズを通して人々との交流があったからだと想像する。現在75歳のドゥパルドン氏は2020年の東京オリンピックも写真に収めたいと意欲を語っていた。

 

展覧会や芸術支援のため、シャネル・ネクサス・ホールを創設したシャネル株式会社リシャール・コラス社長。芸術を愛したココ・シャネルの精神を受け継いでいる。

 

シャネル・ネクサス・ホールは、展示内容ごとに会場の空間デザインが様変わりする。そのデザインの美しさに毎回、はっとされ通しだ。銀座の中央にそびえるシャネルビル4Fの扉を開ければ、ドゥパルドン氏が捉えた50数年間の東京に出会える。過去という点の連なりが線となり今に、そして未来につながる。その歴史の中でふと東京と自分の歩みが交差する贅沢なひとときだった。足を踏み入れたあなたはそこに一体何を見出すだろうか?

 

後編は彼自身も登場するドキュメンタリー映画『旅する写真家 レイモン・ドゥパルドンの愛したフランス』についてお伝えする。

 

 

文:川嶋一実 / 写真:丸山順一郎

 

 

 

 


◆ レイモン ドゥパルドン写真展『DEPARDON / TOKYO 1964-2016』

会場:シャネル・ネクサス・ホール

住所:東京都中央区銀座3-5-3 シャネル銀座ビルディング 4階)

会期:2017年9月1日(金)~2017年10月1日(日)

公式URL:http://chanelnexushall.jp/program/2017/depardon/

開催時間:12:00~20:00 無休

入場無料

 

◆ 映画『旅する写真家 レイモン・ドゥパルドンの愛したフランス』(2012)

公式URL:http://tabisuru-shashinka.com/

レイモン・ドゥパルドンと妻クローディーヌ・ヌーガレの共同監督作品。人生の旅路を描いたドキュメンタリー/シアター・イメージフォーラムほか全国順次ロードショー

 

 

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