feature

クリスチャン・マークレー待望の日本初個展 トランスレーティング[翻訳する] 東京都現代美術館で2/23まで

NEWS

2022年1月19日

クリスチャン・マークレー待望の日本初個展 トランスレーティング[翻訳する] 東京都現代美術館で2/2


クリスチャン・マークレー待望の日本初個展 トランスレーティング[翻訳する] 東京都現代美術館で2/23まで

 

音がどう見えるかを探究し、ユーモアとセンスで芸術作品へと昇華。クリスチャン・マークレー、待望の日本初大規模個展 トランスレーティング[翻訳する]。

 

音や音楽をモチーフにアート作品を発表し、革新的な創作で世界的に評価されているクリスチャン・マークレー(1955-)。彼の国内初の大規模展覧会が、東京都現代美術館で開催中だ。

 

会場風景_《エフェメラ》(2009)

 

マークレーは、1979年にターンテーブルを使ったパフォーマンスの音の実験をニューヨークで発表して以来、アートと音楽の両シーンで活躍してきた。こうした即興演奏のほか、聴覚的な音を視覚的な情報と結ぶ作品や、現代において音楽がどのように表れ、物質化、商品化されているかといったテーマに焦点を当てた活動により、アートと音楽を繋ぐ、最も人気があり影響力を持った人物である。

カリフォルニアで生まれ、ジュネーブで育ったマークレーは、スイスとアメリカの異なる言語・文化圏を行き来しながら成長し、その経験からアーティストになる決断をした。展覧会リリースによると、彼は、「私は言語をあまり信用しておらず、視覚的言語や音楽など、異なる記号や認識に頼る他のタイプのコミュニケーションに興味があります」と語っている。

日本初の大規模な個展となる「クリスチャン・マークレー トランスレーティング[翻訳する]」では、音楽やイメージを言語のように扱い、別の感覚や解釈へと翻訳するマークレーの多様でクールな活動の全貌を紹介する本展、その一部を紹介する。

 

会場風景_《ミクスト・レヴューズ》(1999-)

 

ミクスト・レビューズ

会場に入ってまず目に飛び込むのは壁に沿って流れる一筋の長い文字列。小説の一節かと思いきや、新聞や雑誌に掲載された様々なレビューから音に関する記述をサンプリングし、“言葉の音楽”として再構成された作品だ。しかも展示の度にその国の言語に翻訳され、それを最新の原文として次の言語に翻訳していくという変化を続けている。今回の日本語訳はカタロニア語(スペイン)から翻訳された。翻訳を繰り返すことで、マークレーが意図的にサンプリングした初期の状態から遠ざかっていくことにも注目したい。

 

会場風景_《沈黙の変奏曲(リサイクル工場のためのプロジェクト)のための習作》(2005)

 

リサイクル工場のためにプロジェクト

最初の展示室中央には、不要となった都市の廃棄物がリサイクルされる過程が、同じくリサイクルされるはずの使用済みモニターに映し出された作品《リサイクリング・サークル》がある。リサイクルのプロセスで生まれる音と映像を重ね合わせ、視覚と聴覚の作品として生まれ変わらせている。

 

会場風景_《リサイクルされたレコード》(1979-1986)

 

リサイクルされたレコード

マークレーはレコードを音やそれ以外を様々に表現するモチーフとして長年にわたって用いている。リサイクルされたレコードは大量生産品であるレコードを切断しコラージュすることで、二つとない予測不能な音の構成を作り出している。断片の割り付け方や色彩といったヴィジュアルからのアプローチが再生される音に影響を与えているところが面白い。

 

会場風景_《マンガ・スクロール》(2010)

 

マンガ・スクロール

日本語の漫画をタイトルに冠する“マンガ・スクロール”はアメリカのマーケット向けに翻訳された日本の漫画の中から擬音(オノマトペ)を切り抜いて、横長に繋げた音のコラージュ作品である。私たちの日常にある漫画からサンプリングし、音楽を生み出すための楽譜に変換。絵巻が横に進むにつれて時間の経過を表すように、間隔をもってコラージュされたオノマトペはヴォーカリストのためのグラフィック・スコア(図案楽譜)の機能を果たしている。

 

会場風景_《シャッフル》(2007)

会場風景_《ボディ・ミックス》(1991-1992)

 

ボディ・ミックス

レコードジャケットのコラージュ作品であるボディ・ミックスは、上半身を威厳たっぷりなクラシック音楽の男性指揮者やロックスター、下半身を無名の女性で構成されている。対極的なイメージを重ねることで、音楽を聴く手前から私たちはジャケットによる印象で音を想像していることに気づかされる。

 

ビデオ・カルテット

映画のシーンをサンプリングし、四つの連続する画面に視聴覚作品として構成したマークレーの最高傑作のひとつ。見事な和音に構成されたカルテットの音は展覧会場に響き渡り、視覚的な他の作品を見ながらも耳でカルテットを楽しむとった鑑賞もできるのは発見であった。

 

会場風景_《アクションズ》2013-2014

 

アクションズ

アクションズは大きな一枚のカンヴァスにダイナミックに描かれたペインティングと、その制作過程で生まれる音を表現したオノマトペのコラージュをシルクスクリーンで上から刷った作品。動作が集積して視覚的に完成した1つの作品であるものの、オノマトペからは過去そこで起こったであろう動きの余韻を楽しむことができる。

 

会場風景_《サラウンド・サウンズ》(2014-2015)

 

サラウンド・サウンズ

無音の空間の四方を取り囲むオノマトペのアニメーション。サラウンド・サウンズは時には大洪水かのごとく動くオノマトペから想起される、記憶の音を脳内で再生して楽しむ作品だ。音がどう見えるかというマークレーの関心を視覚的にこれほどダイレクトに表現した作品はないのではなかろうか。

 

 

音や音楽を視覚的に翻訳するマークレーの作品は、そこからさらに鑑賞者に「これはどんな音がするのだろう?」と翻訳の翻訳をする余地を孕んでいる。また、彼は日常の事物と芸術、情報と物質、そして異文化の間を行き来しながら、鋭い洞察とアイデアをもって、私たちが当たり前と感じている感覚や認識へと光を当てる。

 

会期中は、日本在住の音楽家が彼の「グラフィック・スコア」を翻訳し演奏する関連イベントも開催される。

 

文=鈴木隆一

写真=洲本マサミ、新井まる

 

 

 

【作家プロフィール】

クリスチャン・マークレーは1955年アメリカ・カリフォルニア州に生まれ、スイス・ジュネーヴで育つ。ボストンのマサチューセッツ芸術大学で美術学士を取得後、ニューヨークのクーパー・ユニオンで学ぶ。1979年にターンテーブルを使った最初のパフォーマンス作品を発表。レコードをインタラクティブな楽器として扱う先駆的なアプローチにより、実験音楽シーンの重要人物として一躍知られるようになる。1980年代以降には、即興の演奏のほか、聴覚と視覚の結びつきを探る作品で、美術の分野でも活躍する。

世界各国の主要な美術館での個展を開催するほか、音楽の分野でも重要な活動を続け、『Record Without a Cover』(1985年)、『More Encores』(1988年)、『Records』(1997年)などのリリースのほか、これまで、ジョン・ゾーン、エリオット・シャープ、ソニック・ユース、フレッド・フリス、スティーブ・ベレスフォード、オッキュン・リー、大友良英ら数多くのミュージシャンと共演、レコーディングを行っている。

 

 

【関連イベント情報】

クリスチャン・マークレーの視覚芸術である「グラフィック・スコア(図案楽譜)」を日本在住の音楽家が即興的に翻訳。

 

2022年1月15日(土)

(1)「ノー!」コムアイ

(2)「エフェメラ: ある音楽譜」大友良英

詳細はこちら

 

2022年1月16日(日)

(1)「ノー!」山川冬樹

(2)「マンガ・スクロール」巻上公一

詳細はこちら

 

 

【展覧会情報】

クリスチャン・マークレー トランスレーティング[翻訳する]

会期:2021年11月20日〜2022年2月23日

会場:東京都現代美術館 企画展示室1F

住所:東京都江東区三好4-1-1

電話番号:050-5541-8600(ハローダイヤル)

開館時間:10:00~18:00(展示室入場は閉館30分前まで)※最新情報は、美術館または展覧会ウェブサイトにて要確認

休館日:月(1月10日、2月21日は開館)、年末年始(12月28日〜1月1日)、1月11日

料金:一般 1800円 / 大学生・専門学校生・65 歳以上 1200円 / 中高生 600円 / 小学生以下無料



Writer

鈴木 隆一

鈴木 隆一 - Ryuichi Suzuki -

静岡県出身、一級建築士。

大学時代は海外の超高層建築を研究していたが、いまは高さの低い団地に関する仕事に従事…。

コンセプチュアル・アートや悠久の時を感じられる、脳汁が溢れる作品が好き。個人ブログも徒然なるままに更新中。

 

ブログ:暮らしのデザインレビュー
https://ldesignreview.com/

 

Instagram:@mt.ryuichi
https://www.instagram.com/mt.ryuichi/

 

【好きな言葉】

“言葉と数字ですべてを語ることができるならアートは要らない”

by エドワード・ホッパー