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ムンクの《叫び》(1910年?)が初来日!東京都美術館でムンクの大回顧展開催中

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2018年12月11日

ムンクの《叫び》(1910年?)が初来日!東京都美術館でムンクの大回顧展開催中


 

ムンクの《叫び》(1910年?)が初来日! 東京都美術館でムンクの大回顧展開催中

 

 

 

19世紀末から20世紀前半にかけて、西欧を舞台に活躍した近代絵画の巨匠エドヴァルド・ムンク(Edvard Munch)(1863-1944)の大回顧展「ムンク展ー共鳴する魂の叫び MUNCH : A Retrospective」が現在、

東京・上野の東京都美術館で開催中です(2018年10月27日(土)〜2019年1月20日(日))。

 

 

ムンクはノルウェー出身の画家・版画家で、近代絵画における表現主義の発展に、最も影響を与えた人物と言われます。今回、ムンク自身の遺贈によるオスロ市立ムンク美術館の所蔵作品を中心に、初期から最晩年までの約100点が展示され、画業全体を多角的に一望できる貴重な機会となっています。中でも、世界に複数ある内の一点の名画《叫び》(1910年?)は初来日であり、そのアイコニックなデザイングッズと共に、SNS上でも大変話題となっています。

 

 

 

 

1.ムンクの姿ー《叫び》への道

 

 

 

みなさん、ムンクと聞いて、あの世界的な名画「叫び」の作者以外に、どんな彼の姿をご存知でしょうか。

 

 

 


エドヴァルド・ムンク《自画像》 1882年 油彩、紙(厚紙に貼付) 26.5×19.5cm
画業に進む決意をした19歳頃の作品。

 

 

 

 

肉親の死、病、狂気ー”黒い天使”と生きる

 

 

 

エドヴァルド・ムンクは、1863年12月、ノルウェーの首都クリスチャニア(現オスロ)より少し北方の街に、由緒ある家系の陸軍軍医の息子として生まれました。名家であっても裕福ではない家庭環境の中で、5歳で母親を、14歳になる年に1つ年上の姉を結核で続けて失い、ムンク自身も同じ病にかかります。さらに父親からは精神病気質を受け継いだと、ムンクは語っています。

 

 

ムンクの生い立ちは、愛する家族との死別の悲しみと苦しみと、そして肉体と精神の病を、まさに人生の初めから負う形で始まるものでした。

 

 

 


エドヴァルド・ムンク《病める子 Ⅰ 》1896年 リトグラフ 43.2×57.1cm

 

 

 

画業の最初期に周囲の評価を顧みず繰り返し描いたモチーフー『病める子』

 

 

14歳で死別した姉ソフィエをモチーフにしたこの『病める子』を、ムンクは22歳に描き初めて以降、何度も制作しました。彼女が最期に息をひきとった藤椅子を終生手放さずに暮らしたとされます。

 

 

 


エドヴァルド・ムンク《死と春》1893年 油彩、カンヴァス 73.0×94.5cm

展示室を進むと、家族の姿を描いた作品が現れ、ムンクの家族への想いが偲ばれます。

 

 

 

厳格な父の勧めに従い一度は工業学校に入ったものの、病身で通学もままならなかったムンクは、17歳で画家への道に進むことを決心し、画学校に入学します。

 

 

自然主義や印象主義などさまざまな絵画表現に影響を受けながら、1889年、26歳でノルウェーにて初の個展を開催、パリ留学への道を開きます。しかし渡仏の翌月、父親が急逝。3度目の肉親の死に深く衝撃を受けたムンクは、以後20代後半を通し、自身の絵を通して謳うべきテーマを確立していきました。

 

 

 

 

覚悟ー自己の内面の視覚化、表現主義へ

 

 

 

画学校時代、印象派などの表現を既に修得していたムンクは、父親の死を経て、自身が見た内面的世界を視覚化するような表現(表現主義)へと進んでいきます。

 

 

また彼は、人生に否応なく訪れる死、病、それらへの恐れ、拭えぬ孤独感、絶望ーそういった自身にある感情をキャンバスに映すことで、他者と繋がる意味を見出します。

 

 

 

 所詮、芸術は、人が自らを他に伝えようとする衝動とともに生まれる。

    (略)

 私は、己の内心を吐露しようとする、その人間の衝動に裏打ちされない芸術など信じない。文学も音楽も、すべて芸術は心血によって生み出さなければならない-芸術は心血なのだ。

 

1891年頃 ニースでの覚書

 

 

(鈴木正明『エドヴァルド・ムンクー「自作を語る画文集」生のフリーズ』八坂書房、2009、p.52-53)

 

 

 


左:エドヴァルド・ムンク《目の中の目》1899-1900年  油彩、カンヴァス 136.0×110.0cm
右:エドヴァルド・ムンク《別離》1896年  油彩?、カンヴァス  97.5×128.5cm

 

 

 


エドヴァルド・ムンク《すすり泣く裸婦》1913-14年  油彩、カンヴァス 110.5×135.0cm

 

 

 

 

 

 

 

2.共鳴する「叫び」ー「内なる自己」

 

 

 

ムンクの表現主義、それは具体的にはどういったものなのでしょうか。

 

 

 


エドヴァルド・ムンク《月明かり、浜辺の接吻》1914年 油彩、カンヴァス 77.0×100.5cm

ムンクの作品には、月光ー水面に白く帯状に反射する表現などーが、多く見られます。生命力を象徴する等の解釈があり、薄暗い色彩の中光が浮かび上がり、印象的です。

 

 

 

自己自身が「見た」体験を通して、「内なる自己」=リアリティを語る。そしてー

 

 

 

彼は、現実に「呼吸し、感じ、苦悩し、愛する」人間の内的世界を、クリスチャニア、オースゴールストラン、パリ、ニース、ベルリンといった彼が実際に住み、体験した景色を舞台に描いています。

 

 

19世紀末のヨーロッパでは、人間の内面や夢、神秘性などを象徴的に表現しようとする象徴主義も起こり、ムンクも影響を受けています。ただ、彼が見定めたモチーフは神話的・文学的なものではなく、彼にとっての現実の「ひと」感じた「自然」であり、それらを通して、画家の内面に存在しているイメージー感情・主観ーに肉薄し、彼にとってのリアリティを表します。

 

 

内面で見たものにフォーカスするーここに、表現主義と言われる所以があり、この表現が、20世紀以降の前衛芸術に多大な影響を与えていきます。

 

 

 

 

 

 


左:エドヴァルド・ムンク《二人、孤独な人たち》1933-35年  油彩、カンヴァス 91.0×129.5cm
右:エドヴァルド・ムンク《浜辺にいる二人の女》1933-35年  油彩、カンヴァス 93.5×118.5cm

同じモチーフの作品が、版画でも多く残されています。

 

 

 


エドヴァルド・ムンク《絶望》1894年 油彩、カンヴァス 92.0×73.0cm

妹ラウラが精神病院に入院した年に描かれた作品です。

 

 

 


エドヴァルド・ムンク《叫び》1910年? テンペラ・油彩、厚紙 83.5×66.0cm

燃えるような空の表現と、画面右下に向かって引き落とされるような構図、葛藤や苦しみをそのまま表すかのような揺らぐ筆致は、ムンク自身が「《叫び》の第一作目」と称する1892年の《絶望》で既に描かれており、本展出品作の《絶望》(1894年)でも同じ構図が使用されています。

 

 

 

叫びはどこから聞こえている?

 

 

 

「自然を駆け抜けるような大きな、終わることのない叫びを聞いた」、とムンクは語っています。

 

(千足伸行「作品解説」朝日美術館『19世紀末-20世紀の絵画 西洋編7  ムンク』千足伸行責任編集、朝日新聞社、1996、p.87 )

 

 

 

でもこの絵の前に立つと、自分の中の「叫び」が聞こえるようです。

 

この絵の中で、何が起きているのでしょう。

 

 

 

ムンクは、内面世界(=主観)を形に表し、「内なる自己」(=自我)を客観化しています。

また、背景の描かれ方を見ると、同時に彼は、「自然」の存在が、自らの命の感覚との境なく響きあうを感じているようです。

 

 

 

狂気の瞬間にいるムンクですが、誰もがもつ孤独の意識に触れながら、誰の胸にも届く瞬間を伝えています。

そして自己の内面に深く迫る先に、「自然」を感じている。

 

 

 

ムンクが、病んだ狂気を醸し出しながら、狂気に閉じこもることなく世界中の人々の心を動かす理由は、

彼の作品を通して私たちに、自我を解放することの大切さを気づかせてくれるから、なのかもしれません。

 

 

 

 

3.「叫び」だけではないムンクに出会う

 

 

 

ムンクの中で響き続ける、生と死と愛にまつわる詩ー〈生命のフリーズ〉

 

 

 

1890年代以降、ムンクは、「叫び」を含む連作〈生命のフリーズ〉を展開します。それは、生と死と愛ームンクが生涯追求した主題ーをテーマに、ムンク自身が複数の自らの作品で、展覧会を構成していったものです。

 

 

フリーズとは、西洋建築の、ギリシャ神殿の列柱の上部に見られる帯状の装飾を指します。ムンクは装飾的壁画の効果をねらい、複数の作品を部屋全体にフリーズ状に飾ることで、絵が共鳴し合い、新たな意味を持つのを感じられるようにしたと言います。これは、現代美術のインスタレーションという手法の先駆けとしても注目されるものです。

 

 

本展では、この〈生命のフリーズ〉に含まれる各作品が、《叫び》と共に出品されており、愛にまつわる生と死の世界が溢れています。

 

 

今回の展示作品から一部をご紹介しましょう。

 

 


左:エドヴァルド・ムンク《星空の下で》1900-05年  油彩、カンヴァス 90.5×120.5cm
右:エドヴァルド・ムンク《赤と白》1899-1900年  油彩、カンヴァス 93.5×129.5cm

 

 

 


エドヴァルド・ムンク《生命のダンス》1925年 油彩、カンヴァス 143.0×208.0cm

 

 

 


左:エドヴァルド・ムンク《森の吸血鬼》1916-18年  油彩、カンヴァス 149.0×137.0cm
右:エドヴァルド・ムンク《吸血鬼》1916-18年  油彩、カンヴァス 83.0×104.5cm

 

 

 


エドヴァルド・ムンク《赤い蔦》1898-1900年 油彩、カンヴァス 119.5×121.0cm

 

 

 

この他、「叫び」(※)や、家族の臨終のシーンを描いた作品なども展開されます。

 

(※1893年制作、テンペラ・クレヨン、厚紙オスロ国立美術館所蔵)

 

 

 

 

実際に色彩を観ると、予想より遥かに鮮やかで、ムンクが、実は力強く命のあり方を謳い続けた画家であることが伝わってきます。また、ムンクが創ったフリーズという展示方法自体から、「すべてのものは呼応し、響きあい、連環する」といった後半生に到達する死生観の萌芽が感じ取れます。

 

 

 

 

4.叫びの先に、聞こえてくるもの

 

 

 

晩年に至る後半の展示室に、ひときわ目を引く作品があります。

 

 

 


エドヴァルド・ムンク《太陽》1910-13年 油彩、カンヴァス 163.0×205.5cm

「内なる自己」から、「外なる自己」へ。自己自身の探求の果てに、ムンクが絵を創ることで辿り着いた境地には、自我の解放と祝福の発見も、読み解けるかもわかりません。

 

 

 

このモチーフ《太陽》は、オスロ大学の壁画としてムンク自身が手がけ、7年(1909-16、46〜53歳)に亘って取り組んだものです。

 

 

この作品の前に立つと、この絵が描かれるまでの人生で味わい抱えてきただろう叫びたいほどの思いを、ムンクが代わりに世界に放ってくれているかのように感じられます。

 

 

 

 

不安や恐れー生命から私たちの”意識”へ贈られる、祝福

 

 

 

ムンクの80年に亘る人生の、その終盤の作品から聞こえてくるのは、最後、叫びを超えた生命賛歌、とも言えるようです。

 

 

 

ムンクは、画業を通して、ポジティブな愛よりも、生きていくことの不安や恐れを歌っているかのようで、最後に詠い伝えようとしているのは、自他に与えられた、命の力なのではないでしょうか。

 

 

 

 

今や世界中で誰もが知るムンクの「叫び」、そこに《太陽》ー生命の源ーを重ね合わせる時、心身に病を負い孤独の淵に立つ者が、たとえ痛みや苦しみ、狂気の最中にあっても、その彼固有の”意識”(自我)さえも、今在る生命から祝福されているーそんな逆説的なメッセージを見ることもできます。

 

 

 

 

展示後半では意外にも、室内は明るい色彩に溢れ、彼の見た光が北欧の澄んだ空気と共に、肯定的な力となって、こちらの胸に届いてきます。

 

 

 

 

生きていくことで、命には太陽の光が降り注いでいることを知り、果てない白夜のような毎日にも、月光から癒しと救いを感じることができる。そんな、ひとの命の可能性に、気づかせてくれるムンク。

 

 

 


エドヴァルド・ムンク《星月夜》1922-24年 油彩、カンヴァス 120.5×100.5cm

 

 

 

ムンクの「叫び」のイメージが変わる本展、足を運んでみてはいかがでしょう。

 

 

 

 

 


※グッズは数量限定のため売り切れの場合があります

 

 

 

作品はもちろん、展覧会グッズもポケモンとコラボしていたり個性的なものがたくさんあるので、鑑賞後のお楽しみに。

 

 

 

 

 

テキスト:川合 真由
写真  :新井 まる

 

バナー画像(展示風景より):
エドヴァルド・ムンク《石版(マドンナ、吸血鬼 Ⅱ )》1895/1902年 石板石(石灰岩) 65.0×49.0×8.5cm

 

 

 

 

〈参考文献〉

・三木宮彦『ムンクの時代』東海大学出版会、1992

・スー・プリドー/著、木下哲夫/訳『ムンク伝』みすず書房、2007

・鈴木正明『エドヴァルド・ムンクー「自作を語る画文集」生のフリーズ』八坂書房、2009、p.52-53

・千足伸行『交響する美術』小学館、2011、p.262-287

 (初出・図録『ムンク展 愛と死 “The Frieze of Life”』出光美術館、1993)

・田中正之/監修『ムンクの世界 魂を叫ぶひと』平凡社、2018、p.2-5

・図録『冬の国ームンクとノルウェー絵画』藤節子編集、国立西洋美術館、1993

・図録『ドラクロワからムンクまで 19世紀ヨーロッパ絵画の視点』名古屋ボストン美術館訳/訳編、2004

・図録『ムンク、The Decorative Project』国立西洋美術館・兵庫県立美術館・東京新聞/編集、2007

・図録『ムンク展ー共鳴する魂の叫び MUNCH:A Retrospective』オスロ市立ムンク美術館・東京都美術館・朝日新聞社/編集、2018 

・朝日美術館『19世紀末-20世紀の絵画 西洋編7 ムンク』千足伸行責任編集、朝日新聞社、1996、p.75-81

・週刊小学館ウィークリーブック『西洋絵画の巨匠21 ムンク』小学館、2009/6/23、

 (連載)茂木健一郎「脳で見る名画〔21〕叫びと太陽」p.16-17

 

 

 

 

 

【展覧会情報】

「ムンク展ー共鳴する魂の叫び MUNCH:A Retrospective」

 

会期:2018年10月27日(土)~2019年1月20日(日)

会場:東京都美術館 企画展示室

休室日:月曜日、12月25日(火)、1月1日(火・祝)、15日(火)

※ただし、12月24日(月・休)、1月14日(月・祝)は開室

開室時間:9:30~17:30(入室は閉室の30分前まで)

夜間開室:金曜日(9:30〜20:00(入室は開室の30分前まで))

 

観覧料:当日券 一般 1,600円 / 大学生・専門学校生 1,300円 / 高校生 800円 / 65歳以上 1,000円

    団体券 一般 1,400円 / 大学生・専門学校生 1,100円 / 高校生 600円 / 65歳以上 800円

※団体割引の対象は20名以上

※中学生以下は無料

※高校生は12月無料

※身体障害者手帳・愛の手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳・被爆者健康手帳をお持ちの方とその付添いの方(1名まで)は無料

※シルバーデーについて:東京都では、毎月第3水曜日を「シルバーデー」として設定しています。東京都美術館では、条件を満たすと開催中の特別展や企画展などの主催展覧会を無料でご覧いただけます。当日は、大変な混雑が予想されます。時間に余裕を持ってお越しくださいますようお願いします。詳しくは、こちら(https://www.tobikan.jp/guide/hospitality.html#anchor2

※いずれも証明できるもの持参要

 

お問い合わせ先:TEL:03-5777-8600(ハローダイヤル)

特設WEBサイト: https://munch2018.jp

東京都美術館サイト:https://www.tobikan.jp

 

 

作品は、特に記述のない場合、すべてオスロ市立ムンク美術館所蔵。All Photographs ©Munchmuseet