~佐藤直樹 増殖する神秘の森へ~「秘境の東京、そこで生えている」
佐藤直樹個展「秘境の東京、そこで生えている」
が、2017年4月30日(日)から6月11日(日)まで東京・秋葉原のアーツ千代田 3331メインギャラリーで開催される。
日本のトップアートディレクターでありグラフィックデザイナーでもある佐藤直樹氏。
2012年頃から木炭で身近な植物を描く「そこで生えている。」シリーズを描き続けている。
本展では100mを超える大作として、現在も制作し続けている作品群を一堂に展示する。
《その後の「そこで生えている。」》2014-2017年
「なぜに今になってこのような形で描き始め、とまらなくなってしまっているのか?」
これは佐藤氏が自身に問いかけている言葉だが、私たち鑑賞者も同様にこの答えを知りたいのである。
2017年1月26日に荻窪のカフェ六次元で開かれた「秘境の東京ナイト@6次元 佐藤直樹×大原大次郎」では、なぜ人間が絵を描き始めたのかという興味深い考察から始まり、自身を絵画制作へ駆り立てる原動力の正体は何なのか、またデザインの仕事の縮小について語ったのが印象的であった。
あれから3ヶ月、佐藤氏の活動はどのように進化し続けているのか、その答えを探すべく会場へ向かった。
4月29日に開かれたレセプションで挨拶する佐藤直樹氏
本展覧会の実行委員長 小池一子氏
展示室入り口には、「見るまえに跳べ」と題された中村政人氏(アーツ千代田 3331統括ディレクター)の本展を象徴するような挨拶文がある。
「跳んだ後のことを予測してリスクを分析しているような状況ではない、まず跳ばなくては見えてこない風景を感じたい。跳び続けなければ超えられない世界に挑みたい。(中略)佐藤直樹さんが絵を描くことには、そんな切実な覚悟を感じる」
《その後の「そこで生えている。」(部分)》2014-2017年
会場に入るとその言葉の通り、絵から発散される気迫に驚く。
100mを超える木炭画に四方をぐるりと囲まれ、静かな熱気に包まれる。樹々や草花、岩や波しぶきが巨大な絵巻物のように延々と連なっている。
《その後の「そこで生えている。」》2014-2017年
新作の植物立像図26枚が展示された第2室は、思わず背筋が伸びる思いがした。
2.4×1.2メートルの板に一本の植物のみを大きくクローズアップして木炭で描いているのだが、私は棟方志功の代表作「釈迦十大弟子」を連想した。葉脈の力強いうねり、花弁の厳然とした佇まい、葉と茎の絡み合うような重なり。生命力に溢れ、堂々と立つ姿は見る者を正面から捕らえて離さない。真摯な作品に対峙し、思わず内省するような、手を合わせたくなるような気がした。
《植物立像》2016-2017年
小池一子氏が「古いお寺のお堂に入ったかのような空間。発散してくるものに圧倒された」と感想を話されていたが、植物を介して立ち上がってくる魂の迫力のようなものに惹きつけられる。
《植物立像(部分)》2016-2017年
トークセッション
【小池一子×中村政人×佐藤直樹】
展覧会初日の4月30日(日)、本展覧会の実行委員長である小池一子氏、副委員長でありアーツ千代田 3331のディレクター中村政人氏と佐藤直樹氏が本展についてのトークセッションを行なった。
佐藤氏が絵を描くことに入り込んでいった流れや絵画制作に対する想い、またアートとデザインの違いについて、興味深いトークセッションが繰り広げられた。
「近代絵画のルール、おおいに不満ですね」
まずは、2013年解体前の東京電機大での制作展示を振り返り、「対象を拡大する」というデザイン作品の話から、本展の作品の遠近感についての話題へ。
中村:佐藤さんの絵は、絵に向かう時どこいっても正面ですよね。普通は平らな絵でも斜めに奥行きを作るんですが、佐藤さんは一番近距離のところに通常のよりも大きくドンとくるように描いていて、その近景から中景、遠景という流れの遠近感が絵画的にはあんまり成立してないっていうか、考えてないってうか(笑)。そのへんが面白いんですよ。
佐藤:たとえば、皆さん花を思い浮かべて目をつむった時に大きさはないでしょ。大きさ測ってないし、寄ったらデカくなるし、そもそも大きくもならずに寄れると思うんですよ。で、花弁の中に入っていって舐めるように見ている時っていうのは、定点もないと思うんですよ。
だけど、いわゆるアカデミックな教育の中のスタイルっていうのは、定点を決めて、対象を決めて、光と陰を絶対に成立させるでしょ。その光と影を成立させないと像が出てこないってことに対して不満があるんですよ。
中村:不満ですか?
佐藤:おおいに不満ですね。ものすごく異議がありますね。
(とはいえ、今は近代絵画を改めて捉え直している)
この後、まだ変化していくときにやらなきゃいけないイメージはあって、基本的に脳内で再生できている一番近い形で(絵画に)再生できたら、初めてそこから絵について語れるし次に繋がるなという所のようやく手前まで来た感じがあって、そのために今一回確認しておきたい。今やっておきたいな、やってみようと思ったんですよね。
大竹伸朗個展でのサプライズ
話は、小池氏が手掛けた佐賀町エキジビット・スペース(※1)で1987年に開催された大竹伸朗氏の個展に当時20代半ばの佐藤氏が閉館間際に走って駆け付けたというエピソードへ。間に合わず、閉館した展示会場をに外から眺める佐藤氏に気付いた大竹伸朗氏が特別に招き入れてくれた思い出を語った。
本展第3室『はじめの「そこで生えている」』の絵と音楽と光と声が混ざり合う空間では、当時の忘れがたい記憶が重なり合う。
(※1 )佐賀町エキジビット・スペース
1927年竣工のかつては廻米問屋市場として栄え、昭和の名建築となった「食糧ビル」の空間を再生し、1983年から2000年までの17年間、現在進行形のアートを発信した日本初のオルタナティブ・スペース。森村泰昌、内藤礼、大竹伸朗、杉本博司、立花文穂など多数のアーティストを輩出した。
第3室《はじめの「そこで生えている。」》2013,2017
音楽と光を組み合わせた演出。東京電機大学跡地の雨水が浸み出す地下室で描いた作品。
アートとデザインの深い闇を超えるカギとは
デザインと絵画の仕組みや流れの違いについて中村氏に問われると、小池氏は「アートとデザインの間の深い闇は近代化の一つの弊害だと思う」と述べた。
小池氏:クリエイティブな仕事というのが見る人によってデザインかアートか決められればいいことで、私はデザインだろうがアートだろうがいいものはいいというものすごい単純な考えですね。現在に生まれるものこそ『今見なければ誰が見る』っていう発想でやって来た。
佐藤氏と中村氏は、1970〜80年代のデザインについて、「高度成長の流れの中でそのクリエイティブなパワーは複合的に経済と繋がって地域に力を与えていた」と振り返る。
当時のデザインは、自分の思いや主張を伝えていこうとする強さを持った人達が、イメージを経済の流れの中に結びつけていくような強さがあったという。
一方、アート(美術)の世界ではそのような対話性を持って思いを伝えていくことがうまく成り立っていないのではないか、と考察している。
これからは、経済性の中になにか一つの目的だけではなく複合的な意味において自分たちのイメージを伝えていかなくてはいけない、と中村氏は語る。
中村:その流れがアートとデザインを超えていくキーであり、そこに意思が残っていると思う。だから3331をやっているんです。
作品は会期中も描かれ続けている
小池:佐藤さんの展覧会のための委員会ができたってことも含めて、やっぱり今でも一人の人間の行動と意思が世界を変えられるかもしれるかもしれないって、大袈裟かもしれないけどそういう所から世の中を変えていかないとダメなんだなって、私は思ってるんですよね。
デザインから絵画へとその表現衝動を変化させた画家の全貌をご覧いただきたい。アーツ千代田 3331にて6月11日(日)まで。
文:五十嵐 絵里子
写真:丸山 順一郎
開催情報
タイトル:佐藤直樹個展「秘境の東京、そこで生えている」
日程:2017年4月30日(日)~6月11日(日)
休場日:火曜日
時間:12:00-19:00
※5/4(木祝)5/12(金)5/13(土)5/19(金)5/27(土)6/3(土)はイベントのため18:00閉場
会場:アーツ千代田 3331 メインギャラリー
入場料:一般 800円/シニア・学生 700円/高校生以下・障害者 無料
主催:そこで生えているプロジェクト実行委員会
同時開催
タイトル:” NAOKI drawings @ sagachoarchives “
日程:4月30日(日)~6月11日(日)
開廊日:金・土・日・祝
時間:13:00-19:00
会場:佐賀町アーカイブ アーツ千代田 3331 B110