上井草駅を降りて少し歩くとそこだけ昭和にタイムスリップしたかのような素敵な駄菓子屋さんがある。
そこでココアシガレットを買って、ひとまず一服。そのあとでまた少し歩くとたどり着くのが、私の大好きなちひろ
美術館だ。ここは高校生以下の入場料が無料だったり、絵本がたくさんあるお部屋、授乳室や「こどものへや」が
あったりと、子ども連れでも楽しめる美術館でとても優しい空間が広がっている。
ココアシガレットを2本食べ終えて、8月7日(日)までちひろ美術館で開催している、企画展『村上春樹とイラストレー
ター ー佐々木マキ、大橋歩、和田誠、安西水丸ー』を取材した。
二階に上がると、村上春樹氏の初期3部作の表紙を飾った佐々木マキ氏の作品たちが私を出迎えてくれる。
私は古本屋に行くと必ず佐々木マキ氏の本を探すくらい大好きなので、紙のボコボコや絵の具のにじみ具合などのテ
クスチャーがわかる『羊男のクリスマス』の原画を目の前にし、「きゃぁぁあ!原画なのね!素敵!」と歓喜の声を
上げてしまうかと思うほど興奮してしまった。
次に迎えてくれるのは『村上ラヂオ』でお馴染みの大橋歩氏。
村上春樹氏の「エッセイはビール会社が作るウーロン茶のようだと思う」という言葉から、確かに小説が苦手でエッ
セイしか読まないという人もいるなと考えさせられる。
『村上ラヂオ』はドライポイントという銅版で擦られており、白黒の世界からインクのにじみや余白のユーモアから
あたたかさが感じられる。
そのあとで少し同じフロアにある図書館に寄ってみる。たくさんの絵本の中からとびきりの一冊を選んで少し休憩を
する。幼い頃読んだ絵本を見ていると、ちびっこの声がどこからともなく聞こえ、まるで私も子どもに戻ってしまっ
たみたい。
一階に下り展示室に入ると、目に飛び込むのは村上春樹氏の全集の絵やデザインなどを手がける和田誠氏の作品だ。
私が和田氏が手掛ける作品の中でとくに印象的だったのは、 『村上ソングス』の7番目『孤独は井戸』。私のお気に
入り絵本ベスト3に入る、和田氏の『あな』を思わせるからだ。しかし『あな』とは違って、どこか大人の雰囲気が
漂う。さらにここでは和田誠氏がはじめて村上春樹氏と仕事をした『熊を放つ』の装丁なども見ることができる。
『村上朝日堂』シリーズなどをはじめ、村上春樹氏が最も多くコンビを組んだと言われるのが、安西水丸氏だ。
村上春樹氏の『雑文集』の表紙のかわいい絵、和田誠氏と安西水丸氏の「仲良し」も見る事ができる。またここでは、
その「雑文集」を手掛けた2人による解説対談を読むこともできる。私が気になったのは安西水丸氏の画風。何で描い
てるの?版画なの?どうやっているの?といろいろな方向から見てみると面白い。きっと作品の前には挙動不審の人が
たくさんいるに違いない。
多岐にわたるジャンルで書かれた村上ワールドは、それぞれ異なる4人のイラストレーターによって様々な表情に
なる。彼らの描く村上春樹の世界を是非、みなさまにも堪能して頂きたい。
文 / 鈴木萌夏 写真 / 新井まる
【情報】
村上春樹とイラストレーター -佐々木マキ、大橋歩、和田誠、安西水丸-
期間:2016年5月25日(水)〜8月7日(日)
会場:ちひろ美術館・東京 (東京都練馬区下石神井4-7-2)
開館時間:10:00〜17:00(入館は16:30まで)
休館日:月曜日(祝休日は開館、翌平日休館)
※GW・8/11〜20は無休
※8/1は開館
入館料:大人800円/高校生以下無料
グループ(有料入館者10名以上)、65歳以上の方、学生証をお持ちの方は100円引
障害者手帳ご提示の方は半額。介添えの方は1名まで無料/視覚障害の方は無料