4/27日から8/22日まで国立新美術館にて開催中の「ルノワール展」。
今回はついに印象派の最高傑作と名高い「ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会」と、最晩年の知られざる
大作「浴女たち」が初来日すると聞き、さっそく取材に行ってきました!
世界でも有数のルノワール・コレクションを誇る、オルセー美術館とオランジュリー美術館。
本展覧会は両美術館が所蔵する全103点の作品や貴重な資料の数々によって構成され、”本物の”画家ピエール・
オーギュスト・ ルノワール(1841-1919)に出会うことができるまたとない機会です。
それではさっそく特に注目すべき作品とともに見どころを紹介します!
モネやシスレーとの出会いを通して印象派に向かって歩みだしたルノワール。
歴史や神話といった主題を捨て、日常を率直に描写した「猫と少年」と、その5年後に制作され戸外の光、
大胆な筆触、色彩を帯びた影といった印象派の美学が凝縮された「陽光のなかの裸婦(エチュード、トルソ、
光の効果)」の二作品から本展の幕開けです。
2章からは「肖像画」や「風景画」さらには「子供たち」など、被写体のテーマごとに展示されているので
比較しながら鑑賞することができます。
例えば3章では「風景画家の手技」というテーマで、油彩作品の1/4が風景だった1870年代を中心とする作品が
展示されています。
「戸外では、アトリエの弱い光の中では思いもつかないような色をカンヴァスに置くことになる。
全く風景画家のメチエ(手技)とはなんというものだろう!」という言葉の通り、色彩に富んでいて風をも
感じる草木の描写がなんとも美しいです。
《草原の坂道》 1876-1877年 油彩/カンヴァス オルセー美術館
© Musée d’Orsay, Dist. RMN-Grand Palais / Patrice Schmidt / distributed by AMF
同じセーヌ川を描いたシリーズでも1枚1枚印象が異なり、その日の天気や時間、季節といった「その瞬間」を、
現在において鑑賞者側である私たちが見ても、不思議と肌で感じることができるのです。
これは同室内に並んで飾られているからこそ、その”表情”の違いに気付くことができるのでしょう。
比較という意味では絶対に見逃せないのが「都会のダンス」と「田舎のダンス」。
2枚がそろって来日するのはなんと45年ぶりということです。
シルク素材の上品なドレスを身にまとい、しっとりと踊る「都会のダンス」と、木綿の晴れ着姿で明るく
大胆に笑って踊る、のちにルノワールの妻となるアリーヌ・シャリゴを描いた「田舎のダンス」。
同じ1883年に制作された2枚の絵画は、人物たちが背景から浮き上がるように描かれ、この頃印象派の限界を
語っていたルノワールがその先に進もうとしていたことがうかがわれる作品です。
そして先ほどご紹介したダンスと同じ4章では、ついに本展覧会最大の目玉といっても過言ではない
「ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会」とご対面!
ポルカ音楽や笑い声、ざわめきまでも聞こえてきそうな当時の”現代生活”を切り取った1枚。
ルノワール以前の画家は日常の出来事を大作の主題にすることを誰も浮かばなかったそうで、パリっ子の生活を
正確に記録したという意味でかけがえのない歴史の1ページだと評価されています。
”人々の生きる喜び”と彼らを包む光が見事に表現され、様々な色彩で描かれた”影”がなんとも美しいと感じました。
ちなみにモデルは他の絵にも登場するモンマルトルの娘や友人の画家たちで、1人1人の表情もよく描かれている
ので是非じっくりと鑑賞してみてください。
《ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会》 1876年 油彩/カンヴァス オルセー美術館
© Musée d’Orsay, Dist. RMN-Grand Palais / Patrice Schmidt / distributed by AMF
また本展覧会では、ルノワールの他にもその時代や主題を説明するように有名画家の作品も展示されています。
フィンセント・ ファン ・ゴッホやジュール・ シェレ、パブロ・ピカソ・・・彼らの作品も併せて鑑賞すること
でより理解が深まるでしょう。
そして展覧会最後を締めくくる眩い光を纏ったような裸婦たちを描いた最晩年の傑作「欲女たち」。
人生の最後の数ヶ月を費やした大作ですがこちらも初来日作品なのです!
リウマチで動かなくなった手に絵筆をくくりつけて制作したなんて思わせないほど、鮮やかで”幸福感”に
満ちた作品。
浴女たちの表情もつややかで、背景の緑は楽園を思わせます。
アンリ・マティスからも「最高傑作」といわれ、ルノワール自身も「ルーベンスだって、これには満足した
だろう」とコメントを残している本作品。
裸婦を”芸術に不可欠な形式のひとつ”として多くの大作を残していますが、特にこのバラ色の裸婦たちは
必見です!
ツヤのある白い下地の上に薄く溶いた絵の具を塗り重ねることで、肌の柔らかな質感とヴォリュームを
実現していたという彼の描く人物画。
大人気のため混雑しているかもしれませんが、なるべく近くで見つめてみてください。
私が本展を通して驚いたのは、”幸福の画家”と言われ、世界中のファンに愛される、ルノワールの知られざる
努力と闘病生活の苦悩でした。
5章の解説によると印象派の画家たちは見たものを直接カンヴァスに描くことで、完成作と習作という伝統的な
ヒエラルキーを覆していたそうです。
しかしその一方でルノワールは印象を描きとめ、構成を練り、新しいアイデアを試すためのデッサンにも熱心に
取り組む姿勢を崩さなかったといいます。
そして彼はある時、”結局のところ私は自分の手で働いているよ。だから労働者さ。絵の労働者だね。”と
話したのだとか。
本展の中でも、1880年代の古典的な形態把握とラフというモティーフの再発見によって特徴づけられる大作
フィラデルフィア美術館収蔵の「大水浴」の習作、「水のほとりの三人の浴女」では何本も引かれた線から
彼の試行錯誤が読み取れます。
彼の絵画は見るものを幸せな気持ちにします。
それは多彩な光と、光による影すらも”美しい”絵を描いているからです。
大胆な背景の筆使いは、まるで絵の具が踊っているかのようだとも思いました。
でも、その作品の裏には若いころに磁器の絵付け職人をしていたルノワールだからこそ、怠らなかった地道な
修練があったのです。
リウマチに侵されても決して筆を離さなかった彼の”人生”を是非実際に見にいってください。
文・ 山口 智子 写真・ 新井 まる
【情報】
オルセー美術館・オランジュリー美術館収蔵 ルノワール展
【会 期】
2016年4月27日(水)– 8月22日(月)
【休館日】
毎週火曜日 *ただし5月3日(火・祝)、8月16日(火)は開館
【開館時間】
10時 − 18時
金曜日、8月6日(土)、13日(土)、20日(土)は20時まで
*入場は閉館の30分前まで
【会 場】
国立新美術館 企画展示室1E(東京・六本木)
〒106-8558 東京都港区六本木7-22-2
【主 催】
国立新美術館、オルセー美術館、オランジュリー美術館、
日本経済新聞社
【後 援】
在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本
【協 賛】
アサヒビール、NEC、花王、KDDI、損保ジャパン日本興亜、
第一生命、ダイキン工業、大日本印刷、大和証券グループ、
大和ハウス工業、みずほ銀行、三井物産、三菱商事
【特別協力】
テレビ東京、BSジャパン
【協 力】
日本航空
【展覧会HP】