皮緞帳 2015 牛革、クレヨン、水彩 600×2400cm ©Tomoko Konoike
11月28日(土)まで神奈川県民ホールで開催されている鴻池朋子展「根源的暴力」。
鴻池朋子さんは、2009年の個展以降、様々なグループ展や海外展に参加しています。
アメリカ(サンフランシスコ)での初個展にはじまり、パブリックアートの制作(ワテラス/淡路町、
サンポート港南 港区児童公益施設)。そして、一昨年には日経日本画大賞を受賞しました。
社会の境界に生息する森羅万象の物語を、様々なメディアと壮大なインスタレーションで表現し、
国内外で高い評価を得ています。
そして、数年前から秋田県で継続的なプロジェクトを行うなど活動の幅は
非常に広く、常に新たな視点でつくることの可能性を開拓しています。
皮緞帳 2015 牛革、クレヨン、水彩 600×2400cm ©Tomoko Konoike
2011年3月11日の震災以降、鴻池さんは自然の驚異にさらされた私たち人間の在り方を見つめつづけてきました。
震災後の原発問題が明らかにした放射能という目には見えない世界との関わりには、
「見る」ということが次の領域に入ったことを感じざるをえません。
明らかに変容する身体と地核の関係性を敏感に感じ取った鴻池さんは、文明から原野へと帰ろうとする
一匹の動物のように、それまでの制作を停止し、山村を歩き、中心から周緑に追いやられた物語を集め、
美術とはかけ離れた旅をしていきました。
そして今、新たな針と糸で「動物の衣」となる絵画を制作しています。
12人のホイト 2015 牛革、ミクストメディア©Tomoko Konoike
鴻池朋子さんの作品を読み解くうえでキーポイントにもなっている「おとぎ話」。
おとぎ話は日常世界から異界に行って帰って来るという、
単純ではありますが無限に変奏が可能な基本構造を持っています。
狼と出会った赤ずきんや竜宮城から地上に戻ってきた浦島太郎。
異界と交わりを持ったものは一見すると同じ姿でありながら、
元の世界に戻ってきたとしても”何か”が変わってしまっています。
この根源的価値観の変容こそが、変身の恐るべき効果であり、おとぎ話に深い魅力を与えています。
鴻池朋子展「根源的暴力」は、”キャンバス”と”美術館”という従来に精通している美術の在り方から
遠く離れ、周緑を彷徨う旅を続けたのちに異界からもどってきた「おとぎ話」であると言えます。
そして、主人公である鴻池朋子さんの作品を通して、私たちも”何か”が変わってしまうのです。
皮着物 赤い川 2015 牛革、ミクストメディア 372×295cm ©Tomoko Konoike
着物 鳥 2015 羊毛フェルト、鳥の羽根、布 3270×2030cm ©Tomoko Konoike
ー人間がものをつくり生きていくということ自体が、自然に背く行為であり根源的な暴力です。ー
展覧会の文章にもあるとおり…私たちは自然に背く行為をつづけ生きています。
作品に触れるたびに、私たちのアートの見方や感じ方を揺るがすだけでなく、
人間や自然そのものの存在さえも揺るがします。
鴻池朋子さんの作品を通して その”暴力”を正面から見つめ、これからの人間の在り方を模索し、
「なぜ人はものを作るのか」という根本的な問いを考えてみてはいかがでしょうか。
白無垢 2015 シルク、ミクストメディア 430×216cm ©Tomoko Konoike
文 / 新麻記子 写真 / 新井まる
【情報】
鴻池朋子展「根源的暴力」
会場:神奈川県民ホールギャラリー
会期: 2015年10月24日(土)~2015年11月28日(土)
時間:10:00-18:00
入場料:一般700円 / 学生・65歳以上500円 / 高校生以下無料
*障がい者手帳をお持ちの方とその付き添いの方1名は無料
*10名以上の団体は100円引き
【関連企画】
・トークセッション「新らしき動物たち~アート神話の解体」
【日時】11月23日(月・祝) 14:00~
【出演】石倉敏明(秋田公立美術大学講師/芸術人類学)、吉川耕太郎(秋田県立博物館 主査兼学芸主事)、鴻池朋子
【会場】神奈川県民ホールギャラリー展示室
【料金】無料(要展覧会チケット)
* 予約不要:当日入場券にて参加可
* 参加多数の場合は入場制限あり