ピアニストの肩書きのみならず、gAライターとしてコラムを寄稿するなど、
幅広く活躍している寒川晶子さんが企画するイベントに行ってきました!
『音を織り、織りから聞く』
楽器であるピアノと、織るための道具である機織り。
どちらにも共通するといえるリズムの存在や、関わる人(演奏者、織る人)によってもたらされる音色。
テーマである音と織物が混ざり合う可能性を深めていく企画です。
主催の寒川さんに加え、民族音楽や文化人類学を研究されている伊藤悟さん、
西陣の織物メーカーの紫紘株式会社の野中淳史さん、3名のトークからはじまりました。
それぞれの自己紹介のあと…伊藤さんから企画のメインであるショートムービー、
「音の紋様(アッサンブラージュ) ~徳宏タイ族の機織り~」についての説明がされました。
伊藤さん:僕は少数民族に伝わる民族芸術について研究しています。
過去に中国雲南省に留学していた際に「ひょうたん笛」を学びました。
ひょうたん笛が伝わるタイ族では、かつて男性はひょうたん笛を奏で、
女性は機織りの音で応えるという、コミュニケーションが盛んでした。
僕はそこに美学を感じ、映像を撮影しました。
そして、上映後のトークショーでは、作品についての感想や撮影時のエピソードを話してくれました。
伊藤さん:本作品は未完ではありますが上映に踏み切りました。
文化大革命や技術の進歩で既製品が増えていく中で、今では誰も織られなくなってしまった複雑な紋様。
タイ族の人たちはかつて織物の出来具合だけでなく、
織られている音からも「人となり」を汲み取っていました。
先ほどの説明や映像にもありましたが、男性はひょうたん笛を奏で、女性は機織りの音で応える。
互いに音色でアプローチをして、各々「人となり」を想像していました。
それは、村内でおこなわれる結婚をも左右するほどの大きなものであり、
他の民族と比較しても大変珍しい独自の文化だと言われています。
寒川さん:織物によってもたらされたものは、布だけでなく「音」ということ…
そして、その音に込められている男女のドラマティックなストーリーが素敵ですね!
私たちにとって布(=衣類)や恋愛という日常に密接したお話なので、とても捉えやすい内容でした。
野中さん:織物ということで言いますと…僕が携わっている西陣の織物なんですが、
今も一部では手織りで織られていますが、力織機という機械織りがほとんどですね。
ただ、タイ族と違って”商品”という観点になってしまいますが(笑)
僕も機織りをしていましたが…
アピールというかたちで大きな音を出そうとすると、その分だけ強い力を加えて横糸を織り込むことになり、
生地の密度に違いが出て織段になるので、商品として成立しにくくなってしまうんです。
伊藤さん:撮影時のエピソードとしては…
昔織っていた女性に再現してもらいながら、僕自身も同じように機織りを習ったんです!
今でも機織りという作業が女性の仕事なので、男の僕が機織りをしていると面白いみたいで…
村の人たちが毎日冷やかしに来るのが恥ずかしかったです(笑)
目の前で繰り広げられる会話に耳を傾けていると大変興味深い!
それぞれの観点から捉えた織物や音の違いは、2つのテーマが混ざり合う可能性を大いに引き出しているように感じました。
そして、最後に伊藤さんによるひょうたん笛のソロ演奏と、寒川さんのピアノと共演した演奏が行われました。
循環呼吸でドローンという持続低音を出しながらメロディを奏でます。
まるでベースの音は織物の縦糸のようで、メロディは横糸のようだと、野中さんが例えたそうです。
伊藤さんソロ演奏曲(男性が女性に想いを伝えるための楽曲)
・カームマーク(恋のうた)
・ビーバーンタオ(古い調べ)
寒川さんによるピアノとの共演による演奏曲
・「山のノイズのために」
・即興演奏
ソロ演奏時には、低地で稲作を営むような方々が利用していた、開けた大地に響き渡る笛を活用し、共演する際には、ノイズがありながらも小さな音を奏でる、通称「山のひょうたん笛」と呼ばれるものを使用していました。
様々な用途や暮らしに合わせて用いられる様々な種類を、楽曲によって巧みに使い分けて演奏してくれました。
今後、企画の発展に大いに期待したいと思います。
【出演者情報】
伊藤 悟 (Satoru Ito)
中国雲南省の少数民族に伝わる民族芸術について人類学的研究をおこなうかわら、
タイ族の農村で老人たちより学んだ「ひょうたん笛」の演奏活動を、日本や中国、タイなどで行っている。
雲南省大学在学当時、「ひょうたん笛」演奏家のエンダーチュエン氏に師事し、その演奏・制作技術を習得。
雲南省少数民族音楽について、雲南芸術学院の張興榮教授に師事し、フィールドレコーディングなどに従事した。
ひょうたん笛に関する論文や演奏は中国でも高い評価を受けている。
近年は民族文化や伝統芸術を記録した民族誌映画を国際映画祭にて発表している。
『こころに架けることば』(2011年)がモスクワ国際民族誌映画祭にて最優秀賞を受賞した。
野中 淳史 (Atsushi Nonaka)
2005年大学卒業後、「紫紘」に織手の見習いとして機織に師事。
能楽劇「夜叉ヶ池」で56世梅若六郎師の着用する長絹「白雪姫」を製織。その後数年間、祖父の山口伊太郎が制作した帯を製織。
現在は主に帯の営業活動に従事。紫紘株式会社では、京都での開催地予定の多目的スペース「遊狐草舎」の運営に協力している。
寒川 晶子 (Akiko Samukawa)
神奈川県民ホール主催の<沈黙から 塩田千春展&アート・コンプレックス>にて公共デビュー(2007年)。
その後は同シリーズや美術館などで現代美術作品とのコラボレーションやプラネタリウム会場を舞台にした演奏会などを行っている。
近年では独自の視点でプログラムを選曲した「~になるとき」演奏会シリーズや2010年より始めた
ピアノの音を「C」音のみに特殊調律した公演を展開している。
現在、日本・フィンランド新音楽協会会員。2012年より女子美術大学アートプロデュース表現領域非常勤講師。