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鈴木康広さんインタビュー 鈴木さんは、何で構成されているの?Vol.2 ~種の力を可視化する~

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2018年9月30日


鈴木康広さんインタビュー 鈴木さんは、何で構成されているの?Vol.2 ~種の力を可視化する~


 

 


鈴木康広さんインタビュー 鈴木さんは、何で構成されているの?
Vol.2 ~種の力を可視化する~

 

 

日本を代表する現代アート作家、鈴木康広さん第一回では鈴木さんの子供時代や、アーティストに「なって」いく過程をお伺いしました。続く第二回では、鈴木さんのアーティストとしての原体験が詰まった大学卒業前後の時期のエピソードをお伝えします。

 

 

 

 

 

 


◇大学時代の思い出

 

 

 


鈴木康広(以下、鈴木):僕は大学生の時に、完璧な作品をつくりたいと思っていました。その時やろうと思ったことの一つが、自分が興味を持ったものすべてを総動員した、実写の映像作品をつくることでした。大学三年生くらいに着手したのですが、絵コンテや小道具を制作していたら、急に肩や首のあたりが腫れて寝込んでしまいました。医学的には原因不明でしたが、普通に過ごすことができなくなりました。多分、自分自身へのプレッシャーが原因だったんだと思います。

 

girlsArtalk(以下、gA):ストレスですね。

 

鈴木:そうですね。もう駄目だと思って寝ていたら、本当につらくなってきて、ある時、どうでもよくなって、元気でいることがなによりだと思ったら、治ってしまいました(笑)。それから制作を始めましたが、また体調を崩すのも怖いので、自然体で取り掛かりました。

 

大学の卒業制作でつくったのは《椅子の反映》という作品ですが、フィリップモリスアートアワードで大賞を取って、さらにシンプルにしたものをMoMAのPS1で展示しました。椅子の影が音符に見えますが、椅子は自分で削り、本物と同じ構造で制作しています。

 

この作品をつくったきっかけは、バウムクーヘンへの着目でした。バウムクーヘンは、生地を重ねて焼く繰り返しの時間が形になったお菓子ですが、最後に芯が抜けるのが面白いなと思っていました。これが大学生の時のスケッチです。

 

 

 

 

 

 

gA:とても精巧なスケッチです。

 

 

 

 

 

 

鈴木:このスケッチは、《円環式国語辞典》という、言葉をテーマにした作品です。僕は辞書の成り立ちをずっと疑問に思っていました。辞書を引くとなんでも載っていて、自分が興味を持ったものがすべて先回りしてすべて辞書の中に入っているから、辞書の中に世界があるように思えます。しかし、辞書も誰かが後でつくったものですよね。辞書の中で情報化されている世界と、自分が経験して関わっている現実の世界との整合性が自分の中でなかなかつかなかった。

 

《円環式国語辞典》は新しい言葉をつくる装置です。言葉が遠心分離機にかけられたようにばらばらになって飛び散り、辞書が空っぽの白紙状態になります。装置は言葉を弾き飛ばして周辺に言葉が散乱するのですが、ばらばらになった言葉は見た人によって再構成されることで発見されます。

 

gA:ここで想定している言葉は単語でしょうか?

 

鈴木:いいえ、すべてです。大学で記号論や言語学を勉強し始めていて、言葉を音や文法で分解することも考えていました。《円環式国語辞典》は、予測できない言葉の発生を見つけるという発想でしたが、言葉そのものというよりも、言葉と記憶との関係がテーマになっていました。

 

 

 

 

 

 


鈴木:こちらはバウムクーヘンのアニメの絵コンテです。バウムクーヘンは、ドイツの人が、木という生命体から時間について学ぶためのお菓子なのかなと思ったりしていました。家族でお菓子を作ることで、受け継ぐべきものを学ぶのかなと。でも実際、今はドイツではほとんどバウムクーヘンを食べないらしいですね。

 

gA:バウムクーヘンのスケッチが美しいです。

 

鈴木:木に関連して、こちらは宮崎県の森に視察に行ったときの様子です。坂本龍一さんが発起人になった森林を守るプロジェクト・more treesで、「りんごのけん玉」という作品を商品化しました。この木はレストランに飾ってあったもので、推定樹齢150年から200年と書いてあります。

 

 

 

 

 

 

gA:中が空洞になっているのでしょうか?

 

鈴木:内部は中心からだんだん朽ちて、外側だけで生きている。内側が外皮そっくりで、この中に自分が入れたら楽しいだろうなって思いました、世界が裏返った感じで。

 

 

 

 

 

 

gA:地層みたいですね。

 

鈴木:それを見た数年前に《水の切り株》という作品をつくりました。切り株に満たされた水の表面では、落ちた水滴の波紋が外に広がり瞬く間に消えていきます。波紋に気がついた頃には水滴が落ちた形跡はなく、この木も同じで、真ん中がないのです。

あと、《円環式国語辞典》は真ん中が空いていますよね。「誰が言葉を発したか」という、物事の始まりというか、生まれた瞬間みたいなものはあると思うんです。でもその瞬間は隠れている。

 

 

 

写真:木奥惠三

 

 

 

 

 

◇作品はすべて繋がっていく

 

 

 

鈴木:大学生の頃、社会に出ることが想像できなかったので、極端ですが、大学在学中に一生分の仕事を成し遂げて世の中に出さないといけないと思っていました。そして実は、それをやったのだと思っています。一生分の量の仕事をやり遂げたということではなくて、大学時代に考えたことがすべて後の作品に繋がっているということです。

 

例えば《椅子の反映》は、五線譜の中に収まっていますが、五線譜はバウムクーヘンにも見えますよね。この映像はカメラのスポットライトの胴体についていて、映っていない空間は闇ですけれど、闇の部分が中心で見えません。バウムクーヘンも中が空洞ですよね。

 

gA:そうですね。全部、繋がっています。

 

 

 

 

 

 


鈴木:バウムクーヘンという言葉をドイツ語辞典で調べました。「Baum」が木で、「Kuchen」がお菓子っていう単純な構成ですけど、ドイツ語の「bau」の中に「建設」とか「建築」という意味が入っています。あと、「Baum」の中には「ナンセンス」って意味と、「セリフのない」「立ちん坊」という意味もありました。これは、演劇でいう木の役ってことなのかと思いました。


考えてみたら、演劇で木の役って一番奥深いなって思います。書割でいいのに、人間がやりますよね。木の役の人は、何もやっていないようで、実は舞台全体を一番見ている存在ではないかと思います。今年の秋にオーストリアで人がりんごの木になるという展示をすることになりました。

 

gA:木といえば、15年経った《まばたきの葉》も木ですよね。

 

 

 


《まばたきの葉》 Courtesy:ワコールアートセンター 撮影:市川勝弘

 

 

 

鈴木:そうです。あれは不思議な作品で、僕が24歳くらいの時、この建物(東京大学先端科学技術研究センター)との縁でつくりました。風洞実験室で風を垂直に起こして、菩提樹の種やもみじの種が空中でどんなバランスで飛行しているのかを観察するのです。僕は子供の頃、プロペラの玩具みたいなものをつくったのですが、それをすごくシンプルにしたのが《まばたきの葉》だったんです。葉っぱが上から降ってきて、ぱちぱちと瞬きをするアニメーションを活かしたインスタレーション作品です。

2003年にNHKの「デジスタ」(デジタル・スタジアム)という番組で、「未来にこういうものがあったらいいな」というテーマで、クリエーターが六本木のTHINK ZONEで発表しました。その時みんなはハイテクな作品を出していましたが、僕は、遠い未来ではコンピュータが本質ではないなと思って、植物という形に行き着きました。植物は賢いので、いずれ人間のことを覚えるのではないかと思ったのです。それで人間を認識して目が浮かび上がる葉の案を考えました。


デジスタでプレゼンする時、コメンテーターとして八谷和彦さんと、明和電機の土佐信道さんと市川実日子さん等がいらしてましたね。他のアーティストはスライドだったのですが、僕だけプレゼン用の立体物をつくっていきました。でも本番になって葉っぱを筒の中に入れたらつまってしまい、出てこなくなりました。僕は焦って、何百枚もつくってきた葉っぱを会場にばらまきました。そうしたら、たくさんの葉っぱが会場に広がって、ものすごい数のまばたきが発生し、誰も想定していない状況がうまれました。

 

gA:(笑)。

 

 

 



 

 

 


鈴木:それを見た番組のプロデューサーが、しっかりとつくらないかと言ってくれて、パナソニックセンターで実際に展示しました。さらにその展示を見たスパイラルのキュレーターが青山での展示を企画してくれたんです。それが2003年の出来事なので、《まばたきの葉》の木は樹齢15年ですね。世界のいろいろなところに出没しています。

 

《まばたきの葉》という作品は人間と植物との関係を捉え直すためのプロトタイプのようなものと考えています。何万年も植物と人間が共生していくことで、将来の誰かと目が合う状況も生まれることを想定しています。例えば会場に来た人の《まばたきの葉》をつくれたら、自分のまばたきを会場で飛ばすこともできますし、将来その人の子供や孫が来たら先祖と目が合いますよね。本当はここ(東大)にある木や葉は、100年前の人も見ているわけです。このように、実際にある世界でも起こりうることを、違う形で作品に残せたらと思っています。

 

 

 



 

 

 


◇コミュニケーションが生まれる隙間を残す

 

 

 

鈴木:《まばたきの葉》は、参加型の作品と言われますが、本当は自動で葉っぱを出したかったのです。でも、やろうとしたらすごく難しかった。諦めて係の人に入れてもらおうと思ったのですが、会場のスタッフが入れてくれたら、それを見たお客さんが自分で拾って入れはじめました。その状態を制御できなくて、結果、係の人は入れる必要がなくなりました。


そんな風に、自動化したいと思ったけれど人が参加できる要素があったことや、いろんなことが起こりうる状態がデザインできるっていうことが僕の作品の特性なのかなと思っています。人が参加できる隙間が残っていて、逆に残さないと閉じた作品になってしまうのかなと。

 

gA:鈴木さんは、作品によってコミュニケーションが起こりうることを前提した上で、制作しているのかと思っていました。

 

鈴木:そうではないんです。僕の場合、最初のコンセプトとは違うところに面白さが生まれてしまうのです。見ることを強いるというよりも、どんなふうに人に見てもらえるか、そこに思いがけないことが起きるということが重要だっていうことを感じています。やってみないと分からないのですが、基本的に自分が見ていたくなるという基準で判断している気がします。

 

gA:想定外のところから発展していくのですね。

 

 

 


 

 

 



鈴木:僕は2002年くらいまで、「未来」っていう言葉が嫌いでした。アイデアを持ってはいるけどまったく具現化できていない時期で、それが苦しかった時期です。その時、「未来」っていう概念は僕の辞書にはなかった。だから《現在/過去》という、未来を排除する作品をつくりました。すべてを過去にする、あるいは現在の在り方を考えはじめた作品です。判子を押すという行為に、言葉がついてくるんですね。

 

gA:押した瞬間が過去になっていきます。

 

鈴木:どんなに早く押しても、「現在」という時間の判子は押せないんですよ。これをつくった時は、概念の世界と現実の物理現象をどう折り合いをつけるかが気になっていました。でも、時々、「鈴木くんの未来の判子がいいよね」って言われました。作品は「現在」と「過去」って言葉しか使っていないのに、人の中に残る印象としては「未来」が残っているということに気づかされました。今は《未来の判子》というタイトルにしてもいいのかなとも思っています。


この経験から、2014年に「未」って書いてあるけど押すと「来」になる判子もつくりました。未来が好きになったというか、興味深い言葉になったのです。きっと今は、昔よりもやってみたいことが増えたんでしょうね。

 

gA:鈴木さんは、既に存在しているものに、違う役割を与えたりなさっていますよね。《ファスナーの船》のように。



 

 

 

《ファスナーの船》瀬戸内国際芸術祭2010に出展

 

 

 

鈴木:《ファスナーの船》は、ファスナーに実際の用途以外の機能があったから実現したのですが、みんなが見たいと思ったから実現したということもあります。そんな風に、例えば植物の種には最初からすべてが入っていますけど、種のポテンシャルみたいなものを可視化するための機会をつくっていきたいですね。

 

植物という話だと、以前、「未来」っていう言葉の中に「木」っていう字があることにも気がつきました。僕にとって作品はすべて繋がっていますが、現象もまた現実の中で全部繋がっていることを実感しています。

 

 

 


→インタビューVol.3に続く

 

 

 

テキスト:中野昭子
取材:新井まる、中野昭子
撮影:武本淳美

 


【プロフィール】

鈴木康広

1979年、静岡県浜松市に生まれる。2001年に東京造形大学デザイン学科卒。
2014年に水戸芸術館にて個展を開催、金沢21世紀美術館で「鈴木康広『見立て』の実験室」を開催。 2016年「第1回ロンドン・デザイン・ビエンナーレ2016」に日本代表として公式参加する。作品集に『まばたきとはばたき』『近所の地球』(ともに青幻舎)、絵本『ぼくのにゃんた』『りんごとけんだま』(ブロンズ新社)がある。武蔵野美術大学空間演出デザイン学科准教授、東京大学先端科学技術研究センター中邑研究室客員研究員。

国内外の展覧会や国際展をはじめ、パブリックスペースのコミッションワークや大学の研究機関・企業とのコラボレーションにも取り組んでいる。代表作に《まばたきの葉》《ファスナーの船》《空気の人》など。



Writer

中野 昭子

中野 昭子 - Akiko Nakano -

美術・ITライター兼エンジニア。

アートの中でも特に現代アート、写真、建築が好き。

休日は古書店か図書館か美術館か映画館にいます。

面白そうなものをどんどん発信していく予定。

 

 






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