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ホロコースト×ラブコメディ?!『ブルーム・オヴ・イエスタディ』 クリス・クラウス監督インタビュー

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2016年12月5日


ホロコースト×ラブコメディ?!『ブルーム・オヴ・イエスタディ』 クリス・クラウス監督インタビュー


ホロコースト×ラブコメディ?!
『ブルーム・オヴ・イエスタディ』クリス・クラウス監督インタビュー

(第29回東京国際映画祭  コンペティション部門「東京グランプリ」受賞作品)

 

『4分間のピアニスト』が世界的なヒットを記録したクリス・クラウス監督の最新作『ブルーム・オヴ・イエスタディ』。

ユダヤ人大量虐殺を研究するドイツ人トトとフランス系ユダヤ人ザジ。ホロコーストという歴史的に重い題材をふたりの男女のラブコメディという切り口でユーモアを織り交ぜながら描いた本作。

エキセントリックな男女の恋はややもすると観客がついていけないほどの危うさも含みながら、刺激的なストーリー展開で観るものを巻き込み不思議な魅力を放っていた。

そこで、コンペティション部門出品作品としてワールドプレミアを終えた翌日、クリス・クラウス監督にインタビューを敢行。時代と個人それぞれの「痛み」を描く名手であるクラウス監督に作品作りの過程や女性の描き方のディテールなどを伺った。

 

 

girls Artalk(以下gA):

日本での滞在はいかがですか?

 

クリス・クラウス監督:

到着してようやく24時間が経ち、東京にいる実感が持ててきました(笑)
みなさんきれいだし、親切だし、映画祭を楽しんでいます。

 

gA:

では、10月27日上映後のQ&Aは日本到着間もなかったのですね!
上映後、作品の余韻に浸り終電を逃してしまったくらいです(笑)

 

クリス・クラウス監督:

ははは。ごめんなさい。だいぶ遅くまでの上映となってしまいましたからね。

 

gA:

それほど『ブルーム・オヴ・イエスタディ』にはインパクトがありました。登場人物のキャラクターも刺激的ですが、ドイツでは過去の戦争について普段から活発に語る下地があるからこそ、このように男女の恋愛とユーモアを織り交ぜた作品も生み出されるのではないかと・・・それでは日本はどうなのか?上映後色々考えました。

 

クリス・クラウス監督:

『4分間のピアニスト』のように日本でも一般公開されたらいいなと思います。東京に来る前は、この作品が文化が異なる人の心にどのように響くのか、果たしてわかってもらえるのか、私自身わからなかったのでそういう風におっしゃっていただけてとても嬉しいです。

 

gA:

美しさだけではないリアルな男と女の肉体とそこに横たわる男女の関係性も印象的でした。『4分間のピアニスト』のヒロイン、ハンナー・ヘルツシュプルングさんも今回は主人公の奥さん役としてぐっと大人の女性に転身していて魅力的でしたね。主人公の大人気なさにも状況を察してなだめる余裕も素敵で。

 

クリス・クラウス監督:

ありがとう。彼女はまだ30代なのに40代の女性を見事に貫禄をもって演じてくれました。

 

gA:

本作ヒロイン ザジはかなり破天荒で強烈なのですが、これは過去の作品の『4分間のピアニスト』のヒロインも激しさという部分で同様です。キャラクター設定はどのように構築されていらっしゃいますか?そのような女性に魅力を感じているのでしょうか?

 

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クリス・クラウス監督:

面白い質問ですね!弱い人の中にすごく強いパワーを見るのが好きなんです。ヨーロッパの伝統では女性は弱いものとされていますが、弱い女性の中にパワーを見たいと思っています。「強いから強い」ではなく「弱いから強い」というのを見てみたいと思うんです。何かが欠けているとか何か欠点や弱点があり、そこから強さが出るみたいなのが好きなので。私の映画に出てくる女性はすごく強いのですが、作中に出てくるザジのようにすごく暗い部分もあり、ふたつの面を併せ持った人たちだと思います。

 

gA:

女性だけでなく主人公のトトにもはらはらさせられ通しでした。
何をしでかすかわからないエキセントリックなふたりだからこそ、映画的なドラマが生まれるものなのでしょうか?

 

クリス・クラウス監督:

実際あのようなキャラクターの人たちが現実にいたとしますよね?
いっぱい欠点がある。特に男性は一見言いたいことをいっていて、攻撃的な一面もあるけれどたくさんの問題を抱えています。特に性的な問題、つまりセックスができないというのは非常に弱さを感じます。設定を考える際、弱いイメージを持つ病気は何か考えたときに、性的なことというのは自分を弱くさせるというふうに考えました。彼の中に色々な側面、違いが渦巻き混ざり合って爆発しているような感じですね。

 

gA:

実際にこのキャラクターが身の回りにいたら困ってしまうのですが(笑)どこか憎めず、スリリングなストーリー展開に見入りました。

 

クリス・クラウス監督:

理想的な観客ですね!(笑)この映画は色々物議を醸す映画だというふうにも考えています。でも多くの人に見てもらうために作った映画ではなく、テーマに引っ張られてこういうふうになった映画だと思っています。

 

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gA:

ホロコーストという重い歴史を背景にしているということですよね?

 

クリス・クラウス監督:

そうです。ラブコメではなく「ラブコメでホロコーストである」というところがドイツの社会を揺るがすと思います。「そういう表現をしていいのか?」と。「ホロコーストという歴史的に重い題材をこのようなブラックジョークも含めたラブコメで描いていいのか、許されるのか。いいとは思うけど本当にいいんだろうか」ということでおそらく議論が出てくることと思います。

 

gA:

今回もホロコーストの要素を作品で取り扱うにあたり、アプローチの仕方はこれまでと違いましたか?

 

クリス・クラウス監督:

私たちは第三世代で孫の世代だと思うのですが「誰か他の世代がこういうことをやったよ」ということではなくて、私たちの魂にある「痛み」からくるものとして描いているというのが今までと違いますね。

 

gA:

『4分間のピアニスト』の撮影準備時に、監督ご自身の親戚にナチス関係者がいたことがわかりとても衝撃を受けたそうですが、今回の映画にそのことは反映されていますか?

 

クリス・クラウス監督:

『4分間のピアニスト』の撮影が2004年だったのですが、2001年くらいに戦争当時の文書が外に公開されました。
かつてナチスには4つの団が存在していました。合計100万人ものユダヤ人を殺害することに特化していたのですが、私の祖父とその兄はその中でかなり高い地位にいた人物だったということがわかり、非常に衝撃を受けました。
というのも彼にはユーモアがあって、僕たち孫にはとてもいいおじいさんだったので信じられなかったんです。でも彼自身がそれをやったというふうに文書の中で証言していました。僕たちにそれを言うことはありませんでしたが、ユダヤ人の法廷尋問のような中で「イエス」と証言していたのです。
あなたに質問ですがアウシュヴィッツで何人の人が働いていたと思いますか?

 

gA:

そうですね・・・数万人でしょうか?

 

クリス・クラウス監督:

そうですね。正しいです。ドイツで聞くと皆「1000人くらい?」と答えますが、実際には5万人です。その数の人たちが働いていたということは今孫の世代までいくと50万人くらいにいっているわけですよね?
なので、こういうことが公開され知られることになり、この衝撃は私だけに起こったことではなく、大きな社会的現象といってもいいと思います。

 

gA:

主人公トトのユダヤ人を迫害した側の子孫として抱える葛藤は新鮮でした。自らの罪ではなかったとしてもこれほど強いものなのだと。これまで『アンネの日記』など迫害されたユダヤ人側の物語に触れることが多かったので、本作を観てアウシュヴィッツで働いていた立場の歴史も、もっと紐解きたいとも思いました。

 

クリス・クラウス監督:

そのように感じてくれてありがとう。このテーマで小説を執筆し、来年の3月に出版されます。大きな出版社から発売されるので、日本でも出版される可能性はありますね。

 

gA:

そうなんですね。ナチスに加担した側の心の痛みがすごく伝わってきました。

 

クリス・クラウス監督:

私の家族が皆この映画を好きというわけではないですが、同世代の人たちは大丈夫なんです。私の家は大家族で、子供たちも含めて何年か前に色々な議論をしました。そして話をしてよかったと思っています。

 

gA:

まだまだお聞きしたいことがたくさんありますが・・・今後、きっとこの映画が日本でも上映される機会があると思います。読者にこの映画をどんなふうに観てほしいかなど、何かメッセージをいただけますか?

 

クリス・クラウス監督:

「何を感じてください」というふうには言えないのですが、理解してくれたらうれしく思います。そしてその彼らの痛みを理解するというか、痛みに直面する助けになってくれたらいいなと思っています。「痛みに直面する」といってもそれが必ずしも鬱状態に繋がるとは思いません。この映画は最終的に小さい子供が生まれたという形になりました。なのでこの映画を楽しんでもらいたい。”楽しむ”というのは扱う問題にちゃんと向き合うことを”楽しむ”ということです。それをユーモアをもって楽しんでいただけたら、本当に嬉しいです。

 

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「明日(インタビュー翌日)1日は東京を楽しむ時間があって。私は歴史学者なので国立博物館に行きたかったのですが、周囲の勧めで秋葉原にも行く予定です。 現在と歴史的なもの両方みようと思っています。」と楽しげに語っていたクラウス監督。

過去と現在、未来へのまなざしが印象的だった。

普遍的な痛みとして一世代前の過ちを直視するクラウス監督の姿勢に同時期ドイツと同盟を結び第二次世界大戦を戦った日本において個々人がどのように向き合うべきなのか考えさせられた。本作が日本でも公開されることを願ってやまない。

2016年11月3日第29回東京国際映画祭クロージングセレモニーにて『ブルーム・オヴ・イエスタディ』は東京グランプリとWOWOW賞の2冠に輝いた。

 

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▲  東京国際映画祭東京グランプリとWOWOW賞受賞後再会したクリス・クラウス監督(中央)とカトリン・レンメ プロデューサー(右)と。

 

文・写真:川嶋一実

 

◆クリス・クラウス(Chris Kraus)プロフィール

1963年ドイツ・ゲッティンゲン生まれ。近年のドイツ映画界最大級のヒット作『4分間のピアニスト』(06)を監督。同作は60を超える国際映画祭で賞に輝き、40か国以上で公開された。その他の長編監督作“Shattered Glass”(02)や“The Poll Diaries”(11)も批評家から高い評価を受けた。現在、ベルリン在住。

◆第29回東京国際映画祭『ブルーム・オヴ・イエスタディ  』

HP:http://2016.tiff-jp.net/ja/lineup/works.php?id=9

◆『ブルーム・オヴ・イエスタディ(原題:Die Blumen von gestern)』

公式HP:http://www.die-blumen-von-gestern.de

◆FOUR MINUTES FILMPRODUKTION GMBH

HP:https://www.fourminutes-film.com

 

 

 

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Writer

川嶋 一実

川嶋 一実 - Hitomi Kawashima -

週末女優 -製薬会社OL×女優-

 

聖心女子大学卒。国内外で舞台・映画出演の他、聖心女子大学哲学科芸術学の授業で特別講師として招かれるなど活動の幅は多岐に渡る。

〈 人生に転機を 〉と2011年ひとりニューヨークに飛び込み、翌年アメリカで舞台「HITOMI」に主演。
2016年プロデュースユニット“週末女優”を始動させ、女の二人芝居『たまことゆかり』(作:五戸真理枝/文学座)を春・秋と連続上演。2017年ドイツの報道番組に密着取材を受け、独自のライフスタイルが紹介された。

学芸員資格保有。映画・演劇・音楽をメインにインタビュー記事や作品紹介を通じて、アートのワクワクをお届けします!

 

★twitter:https://twitter.com/HITOMI_KAWASIMA

★HP:http://hitomi8.com

 






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