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この秋見逃せない!おすすめの大回顧展 ピエール・ボナール展

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2018年10月18日


この秋見逃せない!おすすめの大回顧展 ピエール・ボナール展


 

この秋見逃せない!おすすめの大回顧展 ピエール・ボナール展

 

 

「オルセー美術館特別企画 ピエール・ボナール展」が東京・六本木の国立新美術館で開催中です。本国フランスでは、近年ナビ派への評価が高まり、2015年にオルセー美術館で開かれたピエール・ボナール展では歴代企画展入場者数第2位となる51万人の動員を記録したほどの人気ぶり。

大注目の本展覧会の見どころをご紹介しましょう。

 

 

 

 

 

 

ピエール・ボナール(Pierre Bonnard, 1867- 1947)は、ナビ派に分類される19世紀~20世紀のフランスの画家。ボナールはナビ派の中で最も日本美術の影響を強く受け、「ナビ・ジャポナール」(日本かぶれのナビ)の異名を取りました。また、室内などの身近な題材を数多く描いたことから、アンティミスト(親密派)とも呼ばれています。
特筆すべきは彼の華麗な色彩表現。印象派とも浮世絵とも一線を画す、ボナール独自の表現です。

 

 

《ル・グラン=ランスの庭で煙草を吸うピエール・ボナール》1906 年頃 モダン・プリント オルセー美術館 © RMN-Grand Palais (musée d’Orsay) / Hervé Lewandowski / distributed by AMF

ピエール・ボナール《猫と女性 あるいは 餌をねだる猫》1912 年頃 油彩、カンヴァス 78×77.5cm オルセー美術館 © RMN-Grand Palais (musée d’Orsay) / Hervé Lewandowski / distributed by AMF

 

ピエール・ボナール《ル・カネの食堂》1932 年 油彩、カンヴァス 96×100.7cm オルセー美術館(ル・カネ、 ボナール美術館寄託) © Musée d’Orsay, Dist. RMN-Grand Palais / Patrice Schmidt / distributed by AMF

 

 

 

神秘的な芸術家グループ「ナビ派」とは?

 

ナビ派は、19世紀末、パリで結成された神秘主義的傾向をもつ芸術家グループ。「ナビ」とはヘブライ語で「預言者」を意味します。近年、「19世紀と20世紀の美術をつなぐ存在」として評価が高まり注目されています。

 

何気ない日常生活の一場面や目に見えない存在を、平坦で装飾的な画面構成によって描いているのが特徴です。

 

1888年、ポスト印象派の巨匠ゴーギャンの大胆な色彩や平面的な描法に感銘を受けたポール・セリュジエを中心に、新しい美の創造を目指すグループ「ナビ派」が作られました。

ボナール、ドニ、ポール・ランソン、ヴュイヤール、ヴァロットンらがそのメンバーとなり、その後さらに、マイヨールが加わります。

 

熱烈なカトリック信者のドニ、セリュジエ、ランソンらは、ナビ派の運動にとりわけ神秘的で宗教的な傾向を与えました。また、浮世絵など日本美術の影響も見られます。

ナビ派の運動は世紀末の10年余り続き、その後、各作家はそれぞれ独自の道を歩みました。

 

 

 

ピエール・ボナール《桟敷席》1908 年 油彩、カンヴァス 90×120.6cm オルセー美術館 © RMN-Grand Palais (musée d’Orsay) / Hervé Lewandowski / distributed by AMF

ピエール・ボナール《黄昏(クロッケーの試合)》1892 年 油彩、カンヴァス 130.5×162.2cm オルセー美術館 © RMN-Grand Palais (musée d’Orsay) / Hervé Lewandowski / distributed by AMF

 

 

 

 

日本美術に魅せられたボナール


19世紀のパリではジャポニスムが大流行していました。1890年、ボナールはエコール・デ・ボザールで開催された「日本の版画展」を見て感銘を受けます。
ボナール自身、歌川国貞、国芳、広重の浮世絵を所有するほど大の日本美術の愛好家。

ボナールの絵の平面的、装飾的な画面構成には日本美術の影響が見られます。

 

 

 

ピエール・ボナール《庭の女性たち》1890-91 年 デトランプ、カンヴァスで裏打ちされた紙(4 点組装飾パネル) 160.5×48cm(各) オルセー美術館
© RMN-Grand Palais (musée d’Orsay) / Hervé Lewandowski / distributed by AMF

 

縦長の画面は掛軸をイメージさせます。また、モチーフが画面の端で断ち切られた構図は浮世絵版画の影響と思われます。

 

 

 

本展にはリトグラフによるポスターや本の挿絵、版画集など、ボナールの初期の作品も展示されています。芸術家としてデビューするきっかけとなった《フランス=シャンパーニュ》のポスターは、パリの街中に貼られ話題になったそうです。

 

 

 

ピエール・ボナール《フランス=シャンパーニュ》1891 年 多色刷りリトグラフ 78×50cm 川崎市市民ミュージアム

 

 

第3章「スナップショット」では、家族の休暇の様子や恋人マルトのヌードなど、ボナールがコダックのポケットカメラで撮影した写真を鑑賞できます。画家が構図や明暗を意識して撮影している様子がうかがえます。

 

 

 

 

 

 

 

溢れる光、浴室のミューズたち

 

第4章「近代の水の精(ナイアス)たち」ではボナールの水浴シリーズが展示されており、柔らかな光溢れる美しい色彩の作品群を堪能できます。

 

ボナールにとって、女性の身体はインスピレーションの源でもあり、表現の可能性を探求するために欠かせない主題でもありました。

 

1893年、26歳のボナールはパリの街角で不思議な魅力を持った女性に出会います。華奢な体つきに紫がかったブルーの瞳。後に妻となる女性、マリア・ブルサン(通称マルト)との出会いです。これ以降、マルトは彼の作品に頻繁に描かれるようになります。彼女は神経障害を煩っており、それを和らげるための水治療法として一日何度も入浴していました。

 

 

 

ピエール・ボナール《化粧室 あるいは バラ色の化粧室》1914-21 年 油彩、カンヴァス 119.5×79cm オルセー美術館 © RMN-Grand Palais (musée d’Orsay) / Hervé Lewandowski / distributed by AMF

 

 

光と色彩に溢れた作品からは、ボナールの温かな愛情が感じられます。しかし一方で、水浴をテーマとした作品には、マルトの神経障害や死のイメージを連想させる作品もあります。

1917年頃、ボナールはマルトの友人であるルネ・モンシャティと出会い、情熱的な恋に落ちます。しかし30年以上連れ添ったマルトを絶望させないために、ボナールはマルトとの結婚を決めました。その結果、ルネは自殺してしまいます。

この悲劇はボナールの作品に大きな影を落としました。

 

 

 

 

 

 

浴室へ降り注ぐ光は、モチーフの輪郭を曖昧にし、慣れ親しんだ日常を鮮やかに異化しています。私たちが見ている浴室の記憶を魔法のように塗り替えてしまう。それがボナール絵画の大きな魅力のひとつと言えるでしょう。

ボナールは想像や記憶、感情を寄りどころとし、また一方で光景の印象を捉える絵画理論を探求し、描き続けました。

 

 

 

 

 

 

本展では3メートル程もある大画面の作品が多数来日しており、とくに「第6章 ノルマンディーやその他の風景」と最終章の「第7章 終わりなき夏」は見ごたえがあります。

 

パリで活躍していたボナールは、敬愛するモネが住むノルマンディー地方の自然に魅了されていきました。1912 年には、病弱なマルトの転地療養のためにも、ノルマンディーのヴェルノンという街に家を購入します。この家での暮らしは、ボナールの制作意欲をおおいに刺激しました。

自らを画家=装飾家とみなしていたボナールは巨大な装飾壁画を手がけています。

 

 

 

ピエール・ボナール《水の戯れ あるいは 旅》1906-10 年 油彩、カンヴァス 248.6×298.3cm オルセー美術館 © RMN-Grand Palais (musée d’Orsay) / Hervé Lewandowski / distributed by AMF

 

 

 

 

まばゆい南フランスの光を描く

 

ボナールはコート・ダジュールを頻繁に訪れ、1926 年にはル・カネの丘の上に建つ家「ル・ボスケ(茂み)」を購入します。この家の窓からは地中海やエステレル山脈を望むことができ、画家の創作意欲を掻き立てました。

 

ボナールは第二次世界大戦中もこの地に留まり、制作を続けました。政治や社会は混沌とし芸術のあり方までもが揺らぐ中、彼はただ一途に自然と対峙しその感動を描き続けたのです。

ボナールが描く自然の圧倒的な色彩の調和には、画家の確固たる信念が感じられます。

 

 

 

ピエール・ボナール《花咲くアーモンドの木》1946-47 年 油彩、カンヴァス 55×37.5 cm オルセー美術館(ポンピドゥー・センター、国立近代美術館寄託) © RMN-Grand Palais (musée d’Orsay) / image RMN-GP / distributed by AMF


絶筆となった作品。最期までボナールの視界は美しい色彩を求めていました。

 

 

 

美しい色彩が織り成すボナールの世界は、‘‘ありふれた風景は、新しい世界の入口’’と教えてくれているようです。彼の目を介すと魔法がかかったように鮮やかな景色になり、観る者を一歩違った世界へといざなってくれます。

 

大注目の回顧展、ぜひご覧下さい。

 

 

 

テキスト:五十嵐絵里子

撮影:新井まる

 

 

【展覧会概要】

展覧会名:「オルセー美術館特別企画 ピエール・ボナール展」


会期 :開催中~2018年12月17日
会場 :国立新美術館
住所 :東京都港区六本木7-22-2
開館時間: 10:00~18:00(金土~20:00、入場は閉館の30分前まで)

休館日 :火曜日
観覧料 :一般 1600円 / 大学生 1200円 / 高校生 800円 / 中学生以下無料
アクセス 千代田線乃木坂駅6出口直結
URL: http://bonnard2018.exhn.jp



Writer

五十嵐 絵里子

五十嵐 絵里子 - Eriko Igarashi -

大阪藝術大学芸術学部文芸学科卒業。
2015年に美術検定1級取得。都内で会社員をしながら、現在アートナビゲーターとして活動中。
山形県出身、東京都在住。






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