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20世紀を代表する彫刻家の一生を追う「国立新美術館開館10周年 ジャコメッティ展」

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2017年7月1日

20世紀を代表する彫刻家の一生を追う「国立新美術館開館10周年 ジャコメッティ展」


20世紀を代表する彫刻家の一生を追う「国立新美術館開館10周年 ジャコメッティ展」

 

 

「国立新美術館開館10周年 ジャコメッティ展」が、2017年6月14日(水)から9月4日(月)まで開催します。
本展は、20世紀を代表する彫刻家アルベルト・ジャコメッティの初期から晩年までの作品、132点を網羅した大回顧展。国内で開催されるジャコメッティの個展としては実に11年ぶりとなる本展を早速リポートします!

 

 

マーグ財団美術館の中庭に立つジャコメッティ
Archives Fondation Maeght, Saint-Paul de Vence (France)

 

 

”ジャコメッティ”と聞いて一番に思い出したのは大谷工作室さんへのインタビュー。その展覧会のタイトルが正に『僕が17歳の時、ジャコメッティの話を美術の先生に聞いて、彫刻に憧れて、僕は今、彫刻を作ってます。』だったのです。
大谷工作室さんが彫刻家の代名詞のようにジャコメッティという名をタイトルに用いたことを強烈に覚えています。
私も学生時代に美術を専攻していたので、ジャコメッティの作品を教科書で見た記憶があります。 でもよく考えてみると代表的な作品しか浮かばない…。
あまりに特徴的な”細長い彫刻”はあくまで彼の歴史の一部であって、制作した時代によって様々な作品を生みだしていたことを恥ずかしながら本展で初めて知りました。
文章で読むより、現物と向き合いに行ってほしい!と思い、特に興味深かった2時代の作品にフォーカスして本展をご紹介したいと思います。

 

 

①初期アフリカへの傾倒

 

 

下の作品、皆さんは何に見えますか?

 

 


アルベルト・ジャコメッティ《女=スプーン》1926/27年
ブロンズ
マルグリット&エメ・マーグ財団美術館、サン=ポール・ド・ヴァンス
Archives Fondation Maeght, Saint-Paul de Vence (France)

 

 

タイトル《女=スプーン》だけを見ると意味が理解できませんよね。

 

こちらはジャコメッティがパリの博覧会で目にした、西アフリカのダン族が使用している擬人化された穀物用スプーンにインスピレーションを受けた作品だそうです。

女性の豊満さと、スプーンの特性上の丸みを結びつけたのでしょうか。
ジャコメッティはこの後、”

 

女性立像”を多く制作していますが、これはその予言だという見方もあるようです。

 

ちなみに本展内だけでも約30点もの女性立像を鑑賞できます!
女性立像という切り口でジャコメッティの歴史を辿るのも良いかも知れませんね。

 

②群像

 

パリの街を行き交う名もない人々の姿を即効的にスケッチし、それを練り上げていったという1950年周辺。

 


アルベルト・ジャコメッティ
《3 人の男のグループⅠ(3 人の歩く男たちⅠ)》1948/49年
ブロンズ
マルグリット&エメ・マーグ財団美術館、サン=ポール・ド・ヴァンス
Archives Fondation Maeght, Saint-Paul de Vence (France)

 

 

”人物たちの身体のヴォリュームや個性を全て剥ぎとり、彼らの関係、進む行く方向、空間と身体のバランスに集中して制作した”というこのシリーズ。

 

この時代の彫刻は、多くの人がジャコメッティの名前を聞いてまっさきに浮かぶであろう身体を線のように長く伸ばしきったものです。

 

私が興味を持ったのはその制作過程でのエピソード。
初めから”群像”として作っていなかった作品が存在するということでした。
単独で作った彫刻も、アトリエの床に無作為に並べていたものを見たとき、それらを”群像”としても違和感がないのでは?と思い立ち、そのまま1つの板の上に並べて作品にした、というのです。

 

ジャコメッティのアトリエは例えるなら同じ色のシンプルなデザインの服が沢山入ったクローゼットのようだなと思いました。
元々セットアップで買ったわけではないけれど、しっくりとくるクールなコーディネートのように、シンプルな彫刻は組み合わせることでより存在感を放つものになっていました。

 

 

初めから群像として作っていたものと、そうでないものを見比べるのも面白いかも知れません。

 

以上の2つの時代、皆さんはご存知でしたでしょうか。
この他にも彫刻、油彩、素描、版画など多岐にわたる作品と、更には心に刺さる彼の名言が心を洗浄してくれたような気がしました。

 

”「もの」に近づけば近づくほど、「もの」が遠ざかる。”
という彼の有名な言葉があります。
この展覧会を通して、どの時代も実直に”見たものを見たままに”作ろうと追及してあらゆる努力をしていたことに深く感動しました。

 

 

 

彼の人生を知ることができる貴重な本展をどうぞお見逃しなく。

 

 

 

※画像写真の無断転載を禁じます

 

 

 

 

一部写真撮影可能な展示室もありますよー!

 

 

文:山口 智子
写真:丸山 順一郎

 

 

■展覧会概要■

 

 

□タイトル
ジャコメッティ展
Alberto Giacometti: Collection Fondation Marguerite et Aimé Maeght
□会期
平成29(2017)年6月14日(水)〜9月4日(月)(72日間)
□会場
国立新美術館 企画展示室 1E
□開館時間
10:00〜18:00 毎週金曜日、土曜日は20:00まで ※入場は閉館の30分前まで
(休館日 毎週火曜日)
□主催
国立新美術館、マーグ財団美術館、TBS、朝日新聞社
□共催
東急エージェンシー、ソニー・ミュージックエンタテインメント
□後援
スイス大使館、フランス大使館、BS-TBS、J-WAVE、TBSラジオ
□協賛
日本写真印刷
□協力
日本航空、あいおいニッセイ同和損保
□公式HP
http://www.tbs.co.jp/giacometti2017/

 

 

□参考https://www.fashion-press.net/news/29164

 

 

【山口智子の過去の記事はこちら!】
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Writer

山口 智子

山口 智子 - Tomoko Yamaguchi -

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幼いころから書道・生け花を始めとする伝統文化を学び、高校では美術を専攻。時間が許す限り様々な”アート”に触れてきました。

そして気づいたのは、”モノ”をつくることも大好きだけれど、それ以上に”好きなモノを伝える”ことにやりがいを感じるということ。

現在、外資系IT企業に勤めながらもアートとの接点は持ち続けたいと考えています。

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