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スターダムから破滅の道へ  苦悩から返り咲いた孤高の天才ダンサー セルゲイ・ポルーニン

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2017年6月16日


スターダムから破滅の道へ  苦悩から返り咲いた孤高の天才ダンサー セルゲイ・ポルーニン


スターダムから破滅の道へ
苦悩から返り咲いた孤高の天才ダンサー セルゲイ・ポルーニン

 

19歳という若さで、世界最高峰英国ロイヤル・バレエ団史上最年少のプリンシパルとなるも、その2年後の人気絶頂期に電撃退団。全身にはタトゥー、酒に溺れドラッグの体験を赤裸々に語るなど、バレエ界の反逆児と呼ばれたセルゲイ・ポルーニン。
彼の生い立ちと素顔に迫ったドキュメンタリー映画『ダンサー、セルゲイ・ポルーニン 世界一優雅な野獣』が、2017年7月15日(土)よりBunkamuraル・シネマ新宿武蔵野館ほか全国にて順次公開される。

 

 

 


© British Broadcasting Corporation and Polunin Ltd. / 2016

 

 

 


© British Broadcasting Corporation and Polunin Ltd. / 2016

 

 

 

 

 

セルゲイのバレエ人生を支えるため、父はポルトガル、祖母はギリシャに出稼ぎ。家族の期待を一身に背負い、類稀なる才能と努力で一躍スターダムに駆け上がる。しかし、バレエ界の厳しいしきたり、スターとしての重圧とやがて崩壊する家族関係の中で踊る情熱を失い、ダンサーとしてのキャリアにピリオドを打とうと決意するが・・・。アーティストが抱える葛藤と人間としての再生を描き出した本作。

 

 

4月27日、日本公開に先駆け、セルゲイ・ポルーニンが6年ぶりに来日し、東京藝術大学奏楽堂にて、ライブプレミアイベントが開催された。
本作上映後、劇中でも登場する*『Take Me To Church』のダンスパフォーマンスを披露。( *YouTubeでの再生回数は2000万回を突破)
暗闇の中、数メートル先に現れたセルゲイの美しい佇まいにはっと息を飲んだ。そして、パイプオルガンを背景に荘厳な雰囲気の中で繰り広げられる見事な跳躍と華麗なダンスパフォーマンスに場内は拍手喝采となった。

 

 


撮影:ハービー・山口

 

 

続いてクリエイティブディレクターで東京藝術大学の准教授の箭内道彦氏をプレゼンターに、トークセッションへ。

 

 


セルゲイ・ポルーニン(左) 箭内道彦氏(右)

 

 

クリエイターとして、またアーティストを育てる立場から敬意を込めた箭内氏の問いかけから、セルゲイ・ポルーニンのアーティストとしての姿勢、芸術観、人生哲学が引き出された。ここに、セルゲイ・ポルーニンの言葉をほぼ完全版でお届けする。

 

 

―映画をどのようにご覧になりましたか?

 

「自分の姿を否応なしに目の当たりにすることになるので観たくなかったんです。ですが、ラシャペルさん(『Take Me To Church』の監督)が20名のダンサーを招いて見るしかない状況を作ってしまったので観ることになりました。映画を観て、心に迫るもの、つまり自分の体験や、自分の感情というものを目の前に突きつけられるような、感情のローラーコースターに乗っているようなそんな気分でした。」

 

―ここ東京藝術大学は、音楽、美術と沢山の学生が芸術の入り口に立って学んでいる場所ですが、セルゲイさんにとってアートとは?

 

「私にとってアートとは美を生み出すもの、創り出すもの。そして人の心に通じるもの、感じさせるもの、日々の生活を補うものではないでしょうか。もしこの世の中が、あるいは人々の人生そのものが全てパーフェクトであったなら芸術は要らない。しかし、世界は足りないものが山ほどある。戦争やテロといった悪いものが沢山溢れている。
だからこそアートは優雅で、そして限りなく美に転身するような美しさを生み出して、この世の中の足りないものを補うものだと思います。

 

 


© British Broadcasting Corporation and Polunin Ltd. / 2016            

 

 

  ―まさにおっしゃるように過去と比べても非常にパーフェクトでない世界に僕たちは生き、直面していて、色々な方法でそれを解決しようとするけれども、そこにおけるアートの役割というのはこの数百年の中で最も必要とされているのではないかと映画を観て思いましたし、日々学生たちと話している中でも感じます。

 

アーティストは世の中を導ける存在ではないかと思っています。たとえば火星に行くロケットも、建築物も、洋服も、何もかもアーティストの存在を感じます。だから政治家や国を動かす指導者も、クリエイティブなヴィジョンや創作といったものにもっと目を向けるべき。アートがなければ音楽もバレエもダンス、ビルそのものも存在しないかもしれない。核となる部分においてとても大切です。ものを生み出すところ全てにアートがある。ものを作る人だけがアーティストであるのではなく、どのような仕事もクリエイティブであれば、アーティストではないかと思うんですね。

 

 


© British Broadcasting Corporation and Polunin Ltd. / 2016        

 

 

―このイベントのために学生たちが思いを込めてこの映画のポスターを作りましたが、彼らに一言一言声をかけて下さっていたセルゲイさんの優しさが印象的でした。
これから芸術の世界に入っていこうとする若者達に、かつてそれを志したセルゲイさんから一言声をかけてあげられるとしたらなんでしょうか?

 

勇気を持ってください。失敗を恐れずに。例えば、自分でよく想像するのですが、飛行機が高い高度で上がっていきます。かなり高度が上がると安定しなくなる。その瞬間にちょっと安定する低さにまで降りようとしてしまう、それが人間の生態としてあると思います。ですが、安定しない高さを高いところで高いまま必死で維持しようとする。そんなイメージを私はよく抱きます。そうすると前に進むのが怖くなくなります。」

 

 

 

 

「それから大切なことは、自分らしくいること。そして自分にとって心地のいい環境を探すこと。そのためには孤独であることを恐れず、静けさの中に身を置く。本の中に必ずしも答えがあるわけではありません。電話や車の騒音、騒がしい雰囲気に身を置くのではなく、それよりもむしろ自然に耳を傾け、水の音や自然の音に何かを聞き取って下さい。ニュースを見なくとも空気をきちんと感じる。エネルギーを感じることで、自分がその他の自然と繋がって自分にしかわからない答えが見つかることがあります。

 

「デヴィッド・ラシャペルは、仕事が行き詰まるとジャングルに4ヶ月間入って過ごすそうです。泳いで自然の中に身を置き、水の音を聞き、そうしてそこから自然の声に耳を傾けることでインスピレーションを得るそうです。こういったメッセージから皆さん何か感じ取れるものがあるのではないでしょうか?」

 

― セルゲイさんにとってのゴールはなんでしょうか?ゴールなんてわからないという答えでも構いませんので教えて下さい。

 

「実は最近ゴールを定めました。それは世界をひとつにすること。これはまさにアーティストの仕事ではないかと私は思っています。実は気がつくのに何年もかかってしまったのですが、地球のどこにも人がいて愛があって家族がいて子供がいてみんな仕事をしていて。国や文化は違うものであっても、実は基本的に同じものなのではないかと思うんですね。ですからそういった人たちがみんなでひとつになること。本当は国境なんていらないのではないかと思うんです。」

 

 


© British Broadcasting Corporation and Polunin Ltd. / 2016 ▲幼少時のセルゲイ・ポルーニン

 

「そういう意味で僕は日本が好きです。日本では人々が自然をとても大切にし、互いのことを思って共存している。昆虫や動物や、木々、花々。花を摘むのも考えてみたら命をとってしまうことになるんですね。そういったことを考えて、地球上でみんながひとつになればいいんじゃないかな、そんな風に思っています。」

 

そして最後に

僕はいつも心地よく感じすぎたら、そこにいずに次に進むべきだと思うんですね。あえて苦難をとる方が成長できると思います。」と締めくくった。

 

 

本作と歩んだ自分を見つめ直す長い旅路の中で、心の奥底にある踊ることの喜びに到達した。そして、ひとつの枠組みに捉われず、俳優などアーティストとして自らの意志で様々な表現に取り組む自由を得たセルゲイ。彷徨い苦しんだ過去の経験から、現在はダンサーを支援する組織“プロジェクト・ポルーニン”を立ち上げた。ジャンルを越えたアーティストとのコラボレーションが実現可能な環境整備やマネージメント体制の構築でダンス界の改革に意欲を燃やしているのだという。
自らの手で生み出すことの喜びに目覚めた彼のアーティストとしての人生がまさに花開こうとしている。本作は、現在進行形で繰り広げられる彼の挑戦、その源流を辿るヒューマンドキュメントである。

 

 

文/ 川嶋一実  写真/丸山順一郎

 

 

 

 

 

 

◆『ダンサー、セルゲイ・ポルーニン 世界一優雅な野獣』 (原題:DANCER)
監督:スティーヴン・カンター
『Take me to church』演出・撮影:デヴィッド・ラシャペル
出演:セルゲイ・ポルーニン、イーゴリ・ゼレンスキー、モニカ・メイソン他
配給:アップリンク・パルコ
  (2016年/イギリス・アメリカ/85分/カラー、一部モノクロ/16:9/DCP/)
公式HP:http://www.uplink.co.jp/dancer/

 

 

2017年7月15日(土)よりBunkamuraル・シネマ新宿武蔵野館ほか全国にて順次公開

 

 

◆セルゲイ・ポルーニン / Sergei Polunin
1989年、ウクライナ・ヘルソン生まれ。幼いころからバレエの才能を発揮し、貧しい家庭環境でありながらもキエフ国立バレエ学校に入学。2003年、13歳でルドルフ・ヌレエフ財団の後援を受け英国ロイヤル・バレエスクールに入学。ロイヤル・バレエ団脱退後はロシアの著名なダンサー、イーゴリ・ゼレンスキーに招かれ、スタニスラフスキー・ネミロヴィチ=ダンチェンコ記念音楽劇場(モスクワ音楽劇場バレエ)とノヴォシビルスク国立オペラ劇場バレエ団のプリンシパルとなった。また、ゼレンスキーが芸術監督を務めるバイエルン州立バレエ(ミュンヘン・バレエ)で「常任ゲスト・アーティスト」となっている。現在はダンサーを支援する組織“プロジェクト・ポルーニン”を発足。2017年3月には、“プロジェクト・ポルーニン”と題した自身のプロデュース公演がサドラーズ・ウェルズ劇場にて開催された。映画出演も決定しており、ケネス・ブラナー監督、ジョニー・デップ主演の『オリエント急行殺人事件』、ジェニファー・ローレンス主演『Red Sparrow』、レイフ・ファインズ監督によるヌレエフの伝記映画『The White Crow』などが待機中。

 

 


© British Broadcasting Corporation and Polunin Ltd. / 2016

 

 

 








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