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光と影が交差する、おとぎの世界のリアリティ 〜カール ラガーフェルドが撮る、ヴェルサイユ宮殿写真展〜

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2017年1月31日


光と影が交差する、おとぎの世界のリアリティ 〜カール ラガーフェルドが撮る、ヴェルサイユ宮殿写真展〜


光と影が交差する、おとぎの世界のリアリティ

〜カール ラガーフェルドが撮る、ヴェルサイユ宮殿写真展〜

 

 

1月18日から銀座CHANEL NEXUS HALLで開催となった、「太陽の宮殿 ヴェルサイユの光と影 カール ラガーフェルド写真展」に行ってきた。

 

 

 

 

一歩踏み込むと、そこは迷路のよう

 

シャネルのデザイナーとしてモード界の頂点に君臨し続ける、ラガーフェルドが写し出すヴェルサイユとは– 。

ツイードジャケットやチェーンバッグ、そしてリトル・ブラック・ドレスのようにココ・シャネルが築き上げた名作を「新」定番として現代に蘇らせる、ラガーフェルドが歴史をどう切り取るのか。この美の共演を、銀座という街で目撃できたことはとても幸運だった。

 

 

 

 

 

これが、ラガーフェルドが初めて撮ったヴェルサイユ宮殿の写真である。

これだけ広大な庭園の中で、彼はなぜ、ここでカメラを構えたのだろう、と率直に思った。水面に映る宮殿と実像との境界線に立ちながら、なにを感じ取ったのか。

 

 

水面に映る宮殿のモチーフは他にも幾つかあった。

 

 

深くなるにつれ濃度を増す水位に歴史を重ねてみる。何度も物語化された激動の時代を映し続けてきた水鏡は幻想的な画を映しながら、”栄枯盛衰”という世の常を私たちに伝えているように感じた。

 

 

会場には全41点の写真が展示されている。これらはすべてヴェルサイユ宮殿が所蔵する作品。そもそもなぜ、ラガーフェルドがヴェルサイユを撮ることになったのか-。

話は2007年に遡る。はじまりは、一本の電話だった。

 

「ヴェルサイユ宮殿の撮影は可能か?」

 

突然、ヴェルサイユ宮殿ディレクターに問い合わせてきたのは、世界的デザイナーだった。撮影の目的は仕事ではなく、完全なるプライベート。元々彼は、ヴェルサイユ宮殿をこよなく愛していた。

 

「ヴェルサイユ宮は、具現化されたおとぎ話の世界であり、過去のものでありながら私たちの想像力に語りかけてくる。」

 

彼にとってヴェルサイユとは、クリエイティブな発想と刺激を与え続けてくれる存在なのだろう。

 

世界中を駆けまわるラガーフェルドが、宮殿に訪問できるのは1日の内ほんの数時間。そのほとんどが午後であり、最も多い時間帯は夕暮れ時だったという。西へ沈む太陽が直前まで放つ激しい光は、ヴェルサイユに深い影を落とす。

 

 

 

 

 


シャネルにとって「黒」はとても大きな意味を持つ。最も美しい黒に出会うため、ラガーフェルドはこの時間帯を選んだのではないか。陰影はヴェルサイユをより神秘的な存在として、墨のようにその輪郭を描いていた。

 

ほぼ屋外で撮影されている写真の中で唯一、屋内から捉えた一枚がこちら。

 

 

 

 

撮影された場所は「鏡の回廊」。全長73メートルに及ぶ大回廊で、天井にはル・ブランが描いたルイ14世王政時代の物語絵画が展示されている。また大きな窓は当時最高級品だった鏡で装飾され、フランスの経済的成功を物語っている。

外交の場として用いられ、他国にフランス王世の威光を示す役割を果たした。

また多くの祭典が催され、マリー・アントワネットと王太子の婚礼舞踏会も、こちらで執り行なわれた。

 

ラガーフェルドは、この大回廊から窓外の景色を撮影した。庭園の果ての果てまでを見据えるように。そこには、語られ続けてきた豪華絢爛さは微塵もなかった。今回のタイトルにある「光と影」を、最もあらわした一枚に感じた。

 

また今回の展示において、特記すべき点は「紙」。

 

 

 

 

 

ラガーフェルドは、過去の写真展でも一貫して額縁を使わない。写真をフレームに入れないことで、観るひとに紙の質感と画の深みを感じて欲しいのだという。

 

今回使用されたのは、羊皮紙を模した紙。

「見てて心地がいいよね。」

という声が会場から聞こえてきたように、思わず触りたくなるような質感で、少し和紙にも似ていた。この珍しい紙にスクリーンプリントという古い技法が施された。

 

 

 

 

このプリントがとにかくカッコよくて、今展示の個性をより濃く引き立たせていた。肉眼でも認識できるドット。この粗さが、歴史的建築物を”今っぽく”感じさせ、古典をモードに進化させるラガーフェルドの魔法たる所以なのではないか。

 

 

現在、六本木の森アーツセンターギャラリーでは「マリー・アントワネット展 美術品が語るフランス王妃の真実」が開催されている。

監修を務める宮殿側からシャネルに、同時期の開催が提案され、今回の実現に至ったらしい。この2つの展示は、以下のように位置づけされていた。

 

「マリー・アントワネット展がヴェルサイユの歴史を展示しているとしたら、カール ラガーフェルドの写真はヴェルサイユの”今”を示している。」

 

 

 

 

 

 

 

塗料の剥がれた彫刻たちは険しい表情をし、繊細な指先からは侘しさを感じる。もの悲しい雰囲気は、歴史の先入観からくるものかもしれない。

 

ただ思うのは、今まで知らなかったヴェルサイユがそこにはあった。

ラガーフェルドが「美」をどう定義するのか明確にはわからないが、彼が表現するヴェルサイユは、本や映画や教科書で見てきたどの姿よりも美しかった。

 

 

 

 

 

最後に、個人的に気になったことをもうひとつ。ラガーフェルドは階段の写真を幾つか残している。

 

彼にとって「階段」はどんな意味を示すのか–。

あくまで私の推測なのだが…

 

 

 

 

 

じっと踏まれながら、歴史を今日まで見つめ続けてきた。その痕跡が、無数の傷として写真には残されていた。そして階段は、なにもない空へと続いていた。

 

 

 

 

負ってきた傷を一歩一歩踏みしめながら、まだ知らない未来へつづいていく。解放的な空から、戒めと少しばかりの希望のメッセージを感じとった。

 

 

日本初公開となる41点の写真。会場はまるで迷路のように構成されています。昼間と夜では表情が異なり、日中は天然光が差しまるでヴェルサイユ宮殿の庭を歩いているよう。

洗練された空間に、あなたも踏み込んでみてはいかがでしょうか?

 

カール ラガーフェルドが発する「光と影」は、あなたが進む未来に必ずつながっているはず。

 

文章:多田愛美

撮影:丸山順一郎、多田愛美

 

【展覧会詳細】

「VERSAILLES A L’OMBRE DU SOLEIL 太陽の宮殿 ヴェルサイユの光と影」 カール ラガーフェルド写真展
期間:2017年1月18日(水)~2月26日(日)
開館時間:12:00~20:00
会場:シャネル・ネクサス・ホール
住所:東京都中央区銀座3-5-3 シャネル銀座ビルディング4F
入場料無料、無休
問い合わせ先/シャネル・ネクサス・ホール事務局 tel: 03 3779 4001

 

【カール ラガーフェルド】

1938年ドイツ、ハンブルク生まれ。3つの言語環境で教育を受け、1952年フランスの高校に進学。1954年末に国際羊毛事務局(現ザ・ウールマーク・カンパニー)主催のアマチュアファッションコンクールで優勝したのを機に退学し、55年にピエール バルマンのアシスタントとして働き始める。ファッションデザイナーとしての国際的なキャリアと並行して、87年にプロの写真家として活動を開始。受賞歴に93年ラッキーストライク デザイナー アワード、96年文化功労賞(ドイツ写真協会)、2007年特別功労賞(国際写真センター, ニューヨーク)がある。また、2000年には出版人ゲルハルト シュタイデルと共に出版社Edition 7Lを創立し、パリに書店Librairie 7Lを開店。2010年、ドイツ文学とノンフィクション専門の出版社、L.S.D.(Lagerfeld, Steidl, Druckerei Verlag)を設立した。



Writer

多田 愛美

多田 愛美 - manami tada -

新潟出身。大学でカルチュラルスタディーズを専攻し、卒業後は広告代理店のもとで映画の販促キャンペーン等を企画。その後、銀座のギャラリーに勤務し美術雑誌に携わる。ホワイトキューブを飛び出した、ひらかれたアートに感銘をうける。幼少期からピアノに触れ、上京後に作曲、ツーピース、トリオの演奏活動も行う。

情報過多な今に対応しきれないコンプレックスを抱えながら、アートを通して世界の今を覗く。アーティストの生き様から息遣いまで届けられたらと思います。

 






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