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ビデオアート先駆者の夢! 没後10年 ナムジュン・パイク展 「2020年 笑っているのは誰 ?+?=??」

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2016年8月20日

ビデオアート先駆者の夢! 没後10年 ナムジュン・パイク展 「2020年 笑っているのは誰 ?+?=


ビデオアート先駆者の夢!
没後10年 ナムジュン・パイク展 「2020年 笑っているのは誰 ?+?=??」

 

”ビデオアートの父”として知られるナムジュン・パイクの没後10年を記念した展覧会「 2020年笑っているのは誰 ?+?=??」が、東京・神宮前のワタリウム美術館で7月17日から開催中です。

本展では、1970年代から1990年代にかけての約230点に及ぶ映像作品とインスタレーション、ペイティング、ドローイングを、前後半に分けて展示しています。ビデオアートの誕生からアーティストの人物像、そして作品に対する取り組みに触れる内容になっています。

 

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展示会場は年代別に3部屋に分けられています。

 

ROOM1: 1956 – 1978フルクサスとの出会いからビデオアートの誕生まで

ナムジュン・パイクは1932年ソウル生まれ、東京大学卒業後に現代音楽を学ぶため、1956年にドイツに渡りました。アメリカ出身の実験音楽家ジョン・ケージや現代美術家ジョージ・マチューナスとの出会いから、国際的な芸術運動フルクサスへと参加します。また1961年には世界初のビデオアート作品を発表しました。その4年後の1964年、アメリカに移住しました。

 

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ROOM1で一際目立っていたのは、熱帯魚の泳ぐ水槽の裏に置かれたテレビのインスタレーション「TVフィッシュ」(1975年)です。画面にはアメリカ人ダンサーのマース・カニングハムの踊りや、航空ショーなどの様々な映像が映し出されます。

水槽の中で優雅に回遊している金魚は「現在」をしめし、再生されているビデオテープの映像は「過去」をあらわします。現在と過去が交差し合いながらも、金魚と被写体の行動からは「生」を感じられるだけでなく、画面と水槽が一体となったひとつの場所で、2つの時間が存在することを可視化させてくれる作品です。

テレビを使ったアート表現の模索は、同展示室に展示されているドローイングやペインティングから感じることができます。また、この時期にはナムジュン・パイクのビデオ画面に、新しい絵画的表現を用いようとする斬新な試みがなされていきます。

 

1970年代後半に、ナムジュン・パイクは再びドイツへ活動拠点を移します。

 

 

ROOM2: 1980 – 1983 VIDEAいろいろ

 

1980年と1981年には、ワタリウム美術館の前身であるギャルリー・ワタリにて、二度目の展覧会「VIDEAいろいろ」を開催しました。「VIDEA」はパイクの造語で1972年に初めて用いました。Videoに哲学者プラトンのイデア(Idea)をくつっけ、VIDEAとなりました。文字だけではなく、この造語はプラトンの概念と、パイクの思いが込められていました。

 

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展示室の映像作品は腰かけて、じっくり見ることもできます。

 

「心TV」(1984年)の作品をはじめ、漢文学者の白川静から強い影響を受けていたナムジュン・パイク。漢字や日本語の起源を背景に、心をテーマとした作品を多く残しています。展示室に書かれた”ココロ”から始まるパイクのメッセージにも注目です。アーティストが映像・音楽・言語・哲学といった幅広い分野に関心を寄せていたことが伺えます。また、テレビ画面に映し出されるビデオテープ映像は、私たちを懐かしい気持ちにさせます。

各展示室には、ナムジュン・パイクの言葉が紹介されています。私が印象的だったのは、ROOM2にある「いちどビデオテープにうつってしまえば、人は死ぬことを許されない。」というメッセージです。ビデオテープは再生していくほどテープが劣化していきますが、今や映像データとしてDVDやUSBで保存可能な時代となりました。2020年には、どんな保存方法が可能になっているのか、ナムジュン・パイクが生きていたとしたらどんな作品を生み出していただろう?と考えさせられました。

それに加えて、今回の展覧会タイトル「2020年に笑っているのは誰か ?+?=??」は、ナムジュン・パイクが1993年にワタリウム美術館のカタログに寄稿した「2020年に笑っているのは誰か」という投げかけにちなんでいるとのことです。ナムジュン・パイクは、ビデオアートの可能性をどのくらい先まで見据えていたのでしょうか。

 

ROOM3: 1984 – 1988 サテライト・アート:ビデオアートの世界同時配信へ

ナムジュン・パイクは、1984年にイギリス人作家ジョージ・オーウェルの小説「1984年」にちなんで、ニューヨーク・パリ間衛生中継番組「グッドモーニング・ミスター・オーウェル」(ニューヨーク・WNET/パリ・FR3)を企画制作し、アメリカ・フランス・西ドイツ・韓国で放送され注目されました。こちらの展示室では実際にその映像作品を見ることができます。そして、ROOM3には植物とモニター20台等を使用した大きなインスタレーション「ケージの森 / 森の啓示」が展示されています。

 

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「ケージの森 / 森の啓示」(1993年)

 

美術館の中に森を作るという大胆な発想や、大小あちらこちらに設置されているテレビモニターに映されている男性が、実は作曲家ジョーン・ケージであることに驚かされます。展示室からは坂本龍一の演奏による沖縄民謡「てぃんさぐぬ花」が流れ、私たちを小鳥たちの住むヤンバルの森へと導くようです。(映像の森もお楽しみください!)

ナムジュン・パイクが手がけた多くの作品は、音楽や文学に結びつきがあると感じました。
韓国人としてのアイデンティティーを持ちながら、日本やドイツ、アメリカでの生活で構築された価値観をビデオアートに取り入れ、融合させているようでした。2016年10月15日から開催される後半の展覧会も見逃せません!前半のチケットの提示で、後半のチケットが300円割引になりますので、大事に保管しておきましょう♡

 

ワタリウム美術館地下には、ミュージアムショップ、オン・サンデーズがあります。こちらではナムジュン・パイク関連書籍が発売されています。私のおすすめは久保田成子・南 禎鎬 著『私の愛、ナムジュン・パイク』(平凡社刊)です。この本は日本のビデオアート先駆者でもあるナムジュン・パイクの奥様、久保田茂子さんが綴った本です。妻であり、アーティストでもあった久保田茂子さんのご本人の人生にも興味が沸く一冊です。また、後半の展示がはじまる10月にはナムジュン・パイク自身の文章や作品図版を豊富に収録した展覧会図録も発行される予定です。

 

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文・写真:矢内美春

 

【情報】

没後10年 ナムジュン・パイク展 「2020年笑っているのは誰?+?=??」

会期

前半:2016年7月17日(日)− 10月10日(月・祝)

後半:2016年10月15日(土)−2017年 1月29日(日)

休館日:月曜日 ( 9/19,10/10,12/5.12.19.26, 1/9は開館 10/11-14と12/31-1/3は休館)

開館時間:11:00 − 19:00(毎週水曜日は21時まで延長)

入場料:

大人 1000円 / 学生(25歳以下)800円

小・中学生 500円 /  70歳以上の方 700円

ペア割引: 大人2人 1600円 / 学生2人 1200円

※ 前半のチケットの提示で、後半のチケットが300円割引になります。

※ 各割引の併用はできません。

会場:ワタリウム美術館

    〒150-0001 東京都渋谷区神宮前3−7−6

交通:東京メトロ銀座線「外苑前駅」より徒歩8分

(青山通りを渋谷方面に向かい南青山3丁目交差点を右折。1つ目交差点左手)

アクセスマップ:http://www.watarium.co.jp/about.html

お問合せ:03−3402−3001

公式サイト:http://www.watarium.co.jp/

 

ワタリウム美術館ミュージアムショップ オン・サンデーズ

お問い合わせ:03−3470−1424

メールアドレス:onsundays@watarium.co.jp

公式サイト:http://www.watarium.co.jp/onsundays/

 

 



Writer

矢内 美春

矢内 美春 -  Miharu Yanai  -

東京工芸大学芸術学部写真学科卒業後、渡仏。レンヌ美術学校(École européenne supérieure d’art de Bretagne)のアート科に編入し、写真・絵画・陶芸を用いて作品制作をする。同校にてDNAP(フランス国家造形芸術免状)を取得後は、IESA(Institut d’Études Supérieures des Arts)でアートマネージメントを学ぶ。東京(Misa Shin Gallery)やパリ(Galerie Taménaga)の画廊、アートフェア(ASIA NOW/パリフォト)で研修を受ける。

ガールズアートークを通して、アートに触れた時に感じる、恋するような気持ちをみなさんとシェアしていきたいです。