feature

「奈良美智がえらぶMOMATコレクション 近代風景~人と景色、そのまにまに~」奈良美智の言葉から読み解く景色が風景に変わる瞬間

NEWS

2016年6月24日


「奈良美智がえらぶMOMATコレクション 近代風景~人と景色、そのまにまに~」奈良美智の言葉から読み


「奈良美智がえらぶMOMATコレクション  近代風景~人と景色、そのまにまに~」
奈良美智の言葉から読み解く景色が風景に変わる瞬間

 

「奈良美智がえらぶMOMATコレクション 近代風景~人と景色、そのまにまに~」が11月13日 (日) ま で東京国立近

代美術館で開催中だ。

 

20160605_130719

 

当展示のキュレイターはアーティストの奈良美智氏。東京国立近代美術館にある所蔵作品の1万2500点から約60点の作品を

選んだところ、1910-50年代の人と景色を描いた絵画、彫刻作品が集まっている。

また、当展示のテーマにある「風景」について、奈良氏は「街や野原といった『景色』も『人』と同じくらい重要で、

『人』と人の外にある『景色』、ふたつが合わさって『風景』になる」と言う。

私は風景画よりも断トツ人物画が好きなので、絵を観るとどうしても作品の人物に目がいき、その後ろの景色には

あまり注目してこなかった。景色が「風景に変わる瞬間」って何だろうと頭の片隅に置きながら、展示作品を見始

めた。

 

ふと、会場をぐるりと見渡すと、当展示方法のユニークな点に気がついた。

大きな作品から比較的小さな作品まで、作品同士の高さが、揃えられていないのだ。

 

20160605_105041

 _MG_4946_om_16613
撮影:大村昌之

 

私達が見慣れている展示は、作品の位置をある程度統一したものが多い。

確かに、鑑賞のしやすさや会場全体のお行儀良さは後者が優勢であろう。

 

だが、奈良氏が観てほしい作品順に並べた結果、鑑賞者の目線が上下に動く「でっこみ引っ込み」のある当展示。

学生時代に訪れたカナダのオンタリオ美術館の「これでもかっ」と言わんばかりに大中小の作品関係なく散りばめら

れた会場で、作品がシャワーのように自分に降り掛かってくる感覚を思い出してワクワクした。

 

作品を見始めて、足が止まったのは松本竣介氏の<<並木道>>の前だ。

 

20160605_110427

 

松本氏の描く世界を一言で表すとしたら、「静」だ。

緑がかった空気に覆われた町は、ひっそりと静まりかえる。朝なのかもしくは夕方なのか、ここは日本のどこかにも

見えるし、外国かもしれない。描かれた場所も時間も特定されない不思議な空間だ。

松本竣介氏は、1912年東京都生まれ。奈良の武蔵野美術大学時代の恩師麻生三郎氏も、彼と同時代を生きた画家の一人

だ。

10代後半に患った、流行性脳脊髄膜炎で聴力を失ったことを一つのきっかけに、画家を志すようになったという。

また、1941年松本氏が29歳の時、美術雑誌『みづゑ』に「生きてゐる画家」を発表する。

その半年前に同雑誌に掲載された、画家にも戦争協力を求めた軍人達の座談会「国防国家と美術 ―画家は何をなす

べきか―」に対し、軍の言いなりにならないと反対の意を唱えたからだ。

 

奈良氏は言う。

 

「僕はこの『生きてゐる画家』を読んではいない。しかし、当時の発禁図書『生きてゐる兵隊』(石川達三著)を

意識したこの題名を口に出してみると、心臓が高鳴るのだ。その血液が送り出される振動こそは、音の無い世界で

竣介が感じていたものではないだろうか」

 

この言葉を読んだ後、もう一度<<並木道>>を観てみた。

どんなに日本が戦争に突き動かされても、松本氏は淡々と絵を描いていくことで表す、戦争反対・美術の軍事利用

反対の強い意思。初めてこの作品を観た時は、想像もつかなかった。この作品も、隣にかかる<<Y市の橋>>も、並

木道又は橋と工場らしき街に、人の姿がポツリとあるが、戦争反対の描写やモチーフは見当たらない。

 

20160605_110637

 

しかし、松本氏の描く静の世界には、彼の鼓動が確かに存在し、それが観る側にも聞こえてくるようだ。

 

作品に描かれた表面的なものを観るだけでなく、作品が誕生した当時の美術が存在していた立ち位置や、作者が

どんな時代を生きていたのかを知っていくと、同じ作品でも見方がこんなにも変わることに驚いた。

そうやって、作者が「糸」のように紡いだ作品を、観る側が丁寧に解いていくことで、それまで観えてこなかった

景色や人や物の存在が表れてくる気がする。そういったことが奈良氏の言う「風景」なのかもしれない。

 

最後に、奈良氏の作品が見たくてうずうずしたくなった方、必見。

 

 トリミング_4540_奈良美智_Harmless_Kitty
(c) Yoshitomo Nara

 

同館4階の「MOMATコレクション」ハイライトで奈良氏の<<Harmless Kitty>>が展示中だ。

タイトルを訳すと「悪意のない/罪のない子猫ちゃん」。

ネコの着ぐるみ姿で、おまるに跨る子供は愛らしい一方で、観る側をドキリとさせる鋭い視線や不機嫌そうな表情が

入り混じる作品。背景は白。「奈良美智がえらぶMOMATコレクション」を観た後に、この<<Harmless Kitty>>を

ぜひ観て頂きたい。奈良の言葉や伝えたかった「風景」を観た後には、この白い背景には何か別のものが映ってみえ

るかもしれない。

 

文・写真:かしまはるか

 

【情報】

「奈良美智がえらぶMOMATコレクション 近代風景~人と景色、そのまにまに~」

会場: 東京国立近代美術館 ギャラリー4

会期: 2016/05/24(火)-11/13(日)

※8/8(月)-8/15(月)は全館休館

◆参考

岩手県立美術館「松本竣介」(https://www.ima.or.jp/ja/collection/matsumoto.html 2016/6/12)

日曜美術館「沈黙の風景 ~松本竣介 ひとりぼっちの闘い~」(www.nhk.or.jp/nichibi/weekly/2012/0805/ 2016/6/12)

奈良美智『奈良美智がえらぶMOMATコレクション 近代風景~人と景色、そのまにまに~』展示作品リスト 「松本竣介」pp.10-11

 

 

 



Writer

かしまはるか

かしまはるか - Harka Kashima -

神奈川県出身。 大学のゼミでは、日常の生活に 「なぜの視点」で切り込む「日常生活の社会学」を専攻。
現在はメーカー勤務。 休日は美術展や古着を探しに、ぷらぷら上野や高円寺を巡るのが楽しみ。
絵を観ることはもちろん、 アートシーンの第一線で何が起きているかを目で見て、人に伝えていきたいと思ったのが、ガールズアートトークに入ったきっかけ。 好きな画家は、ルノワールとシャガールとヒグチユウコ。






トップへ