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現代美術作家・塩田千春×キュレーター・中野仁詞 アーティストトーク レポート@KAAT神奈川芸術劇場

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2016年9月27日


現代美術作家・塩田千春×キュレーター・中野仁詞  アーティストトーク レポート@KAAT神奈川芸術劇


現代美術作家・塩田千春×キュレーター・中野仁詞
アーティストトーク レポート@KAAT神奈川芸術劇場

 

現在、KAAT神奈川芸術劇場で開催されている塩田千春《鍵のかかった部屋》。 

本展覧会は第56回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展の日本館で展示した、大規模なインスタレーション《掌の鍵》のマテリアルを使用しつつ、帰国記念展としてKAAT神奈川芸術劇場で再構成した新作展示である。 

今回のように美術館やギャラリーではなく劇場という空間での展示において、作品に対する想いや作品としての役割は違ってくるのか、今尚ベルリンに拠点を置いてアーティスト活動している塩田千春氏の言葉から読み解いていきたいと思う。 

girls Artalk編集部は14日(水)に、KAAT神奈川芸術劇場の展示室で開催された、キュレーター・中野仁詞氏と作家・塩田千春氏のアーティストトークの模様をお伝えする。

 

shiota_test撮影:西野正将

 

中野仁詞: 

まず、本展覧会の作品構成に関してですが、第56回ヴェネチア・ビエンナーレの展示で使用し、世界中の方々から提供いただいた鍵を15,000個。一巻き75mの赤い毛糸を3,000個…これはおよそKAAT神奈川芸術劇場から福島県いわき市までの距離に相当します。そして、扉は塩田さんがドイツ・ベルリンで持っているものを輸入してきました。 
9月6日から制作を始め、12日の朝に完成しました。メンバーは塩田さん、塩田さんのアシスタント3名、インストーラー5名、美大の生徒さん、皆さんで作りました。実際、KAAT神奈川芸術劇場という、展示室ではない、スタジオを使った展示はいかがでしょうか? 

 

塩田千春: 

普段、美術館という白い壁の展示室で展示することが多いので、このように黒い壁に糸を張るということが少なく…照明も劇場用のものなので、張った糸が立体化していき、とても展示しやすかったです。 

 

中野仁詞: 

こちらの展示室はスタジオであることから、普段ダンサーの人たちが振り付けを確認する鏡があります。そのことを塩田さんに伝えると興味を持ってくださいましたよね。視覚的にも展示室が倍に見えるといった面白みがあるのではないのでしょうか。 

 

塩田千春: 

普段の美術館での展示はキュレーターとともに作っていくことが多いのですが、今回は舞台監督さんや照明さんなどといった舞台の関係者の方とのスケジュールを考えながら作品を構成していったので、段取りが普段の美術館で作る感覚とは違っており、大変だけど勉強になりました。

 

中野仁詞: 

そうですよね…もし床が大理石やコンクリートだったら、ボンドを熱で溶かして接着しなければなりません。スタジオの床は木板になっているのですが、本展覧会に合わせて黒いカーペットを使用し、タッカーというホッチキスを打ち込めるように工夫したのも、作品が比較的早く出来上がった所以ではないかと思われます。本展覧会は帰国記念展ということもあるので、ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展の話をしたいと思います。正直言って、大変でしたよね(笑) 

 

塩田千春: 

そうでしたね(笑) 

 

中野仁詞: 

お互い、過去最高に苦労をしたヴェネチア・ビエンナーレですけども… 2014年1月31日付に外務省の外部団体である国際交流基金からの手紙が送られてきまして、 「貴方はキュレーターの候補に挙がりました。 つきましては、ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展で展示する 作品を提示するコンペティションに参加してください。」という内容でした。 そこで、国際美術展ということなので訪れる世界中の方々が知りたいであろう、 「今の日本の美術とは何なのか?」ということを考え、千春さんに声をかけました。 そしてプレゼンした翌々日に電話がかかってきて、ヴェネチア・ビエンナーレでの仕事が決定しました。 

 

塩田千春: 

ベルリンは7、8時間時差があって…留守電に入っていたんですけどね。
プレゼンするにしても企画書4枚にコンセプトから予算まで収めなければならなくて… 

 

中野仁詞: 

そうでしたね。
国際交流基金のサイトにてコンペの詳細が記されているので、もしご興味がある方はチェックしてみてください。それで…作品も無事に完成と言いたいところだけど、無事ではなかったね…。
日本館での展示は世界中から集めた180,000個の鍵のうち天井から吊ったのは50,000個。
そして、人間の掌に見立てた船を2隻使用し、掌で鍵を受け止めるといった作品構成になっています。
塩田さんにとって鍵とは?

 

塩田千春: 

鍵の形って、手で持つ丸い部分が頭に見え、細長い部分は体に見え、人間の形に似ていると感じました。赤い糸で一つ一つの鍵が人と人とをつないでおり、その赤い糸が人々の持っている記憶を連想させ、まるで記憶を編んで紡いでいくようなイメージで制作しました。 

 

shiota_test_2撮影:西野正将 

 

中野仁詞: 

また、作品展示の際にはインスタレーションと合わせて、子供の掌に鍵をのせている写真と映像も展示しました。鍵というのはとても大切なもので、知らない人に滅多に渡さないものですよね?それを子供という存在に託すというのは、”未来”を託したり、”責任”を託したり、大人が次世代に大事なものを譲って行くというコンセプトに基づいた表現でした。それは、”3.11以降の日本”を表すという意図でもありました。
人類の歴史的な経緯を汲み取り、人間の叡智を次に渡していくということを、3.11に絡めて作品を構成したのです。また、制作するにあたり現地で苦労したこともありましたよね?

 

塩田千春: 

ヴェネチアにある日本館の壁はふかし壁(仮設壁)だったのです。 

 

中野仁詞: 

そうでしたね…日本を代表する建築家でもある吉阪隆正さんが手がけた貴重な建物なので、直接壁に釘を打って作品を飾るといった行為ができないんですよね。 

 

塩田千春: 

その仮設のふかし壁が糸のテンションと釘の重さによって歪んできたんですよね。
その事実を伝達式に「壁が歪んだ。」ということをお伝えしたら、日本では「壁が倒れたらしい。」ということになりまして、最終的には「日本館が潰れる。」という大事になってしまったんです。 

 

中野仁詞: 

そんな馬鹿な!と思いましたけど(笑)
でも、そのことにより…「これ以上糸を編んだり、鍵を吊るさないでくれ、キュレーターから作家を説得してくれ。」という話をされまして…当時は、鍵を10本ぐらいまとめて吊っていたのですが、一本、一本、集合体の鍵をばらして展示する方法に変えたんですよ。作家にとって展示中止って言われるのは辛い経験でしたよね? 

 

塩田千春: 

そうですね。
制作を始めて3週間ぐらいの時期に「あと、もう少しで出来るかな?」というところで、「今すぐやめてください。やめていただかないと日本館のオープンはできません。」と本部の方から言われて、どうすることもできなかったです。 

 

中野仁詞: 

それで、一旦中断をして対策を考えて…その間、2週間ぐらいお休みしましたよね。

 

塩田千春:

そうですね、一旦休んで再度ヴェネチアに行き最後は1週間で仕上げました。 

  

中野仁詞: 

しかも、その時は厳重で人も入れず…僕、塩田さん、アシスタントの1人で作業したんですよね。
今回は、帰国記念展という形で再構成したので、船ではなく扉を使用した展示を試みました。
この扉についてどのようなイメージやテーマがあるのでしょうか? 

 

塩田千春: 

今回は《鍵のかかった部屋》でということで扉が閉ざされている状況なんです。
空間に扉を設けることにより内と外の世界が出来上がります、たくさんの部屋を作ることにより、その狭間に佇んでいる扉の存在自体が面白いと思い、本展覧会では鍵と一緒に展示しました。 

 

shiota_test_1撮影:西野正将 

 

中野仁詞: 

扉っていうのは内側から外側に行く…つまり自分の世界から外の世界へと導き、危険も孕むでしょうが新しい体験へと繋がっていくという見方ができますね。また、扉を隔てて人の移動から状況の変化といったこともテーマになっています。かつて使用されていた窓もそうですよね?

 

塩田千春: 

そうですね。旧東ベルリンで窓を集めた作品がありまして、その窓の一つ一つに家族のストーリーがあり、内と外との世界をつなぐといった作品構成をしました。 

 

中野仁詞: 

ベルリンはもう長いですよね? 

 

塩田千春: 

もう20年になりますね。私自身、その扉や窓のように狭間にいるので…内にいるのか、外にいるのか、度々分からなくなってしまう時があります。作中で扉や窓を使うのは私自身の存在を考えた時に共通するものがあるからです。 

 

中野仁詞: 

そもそも、僕たちの出会いっていうのは美術での繋がりではなかったんです。私は神奈川芸術文化財団につとめており、初めの3年間は現代演劇の担当だったんです。そして、その後の4年間は現代音楽を担当しておりまして…能と現代音楽と現代美術の要素を組み合わせた「創作能」というものを手がけました。
その際の演出は観世栄夫さん、脚本は大岡信さんに依頼し、音楽は一柳慧さんが担当し、コンサートホールで公演し、成功を収めました。
そして、第二弾を制作する際には”能”ではなく”文楽”を選んだのです。その際に、「曽根崎心中」などの”心中”といった言葉に焦点を当てて現代風に構成し、公演をしようと思っているんだ。と、お話ししたのがキッカケでしたよね。 

 

塩田千春: 

そうでしたね…ミーティングもしましたね。 

 

中野仁詞: 

それで、そんな話を進めていたのにも関わらず、人事異動がありまして、現代美術の担当になり、神奈川県民ホールのキュレーターに就任し、その場所で展示とパフォーマンスをしよう!という話になり、2007年の「沈黙から」という展覧会でスタートしました。
千春さんはオペラとか、ダンスとか、パフォーマンス系の美術も手がけられていますよね? 

 

塩田千春: 

その時はプログラムにあったベルリン在中のコンスタンツァ・マクラス&ドーキーパークですよね。
その後も、ベルリンの国立劇場でザシャワルツが演出する細川俊夫さんの「松風」という演目で舞台美術をしました。 

 

中野仁詞: 

美術館とは違うスタジオという空間において、白い壁を持たず美術を展開していく方法を、僕自身研究しているのですが…実際に、自分の作品が現代美術ではなく、舞台美術として劇場に入るのは、どのように感じているのでしょうか? 

 

塩田千春: 

今回もダンス公演が2公演あり、コンサートプログラムもあります。ただ単に展覧会をしてしまうと、誰も作品に入り込めないと思うんです。それは「作品に触れないでください。」といった世界になってしまい、パフォーマンスの人たちにとって作りにくい状況に陥ってしまうと思います。
現代美術の場合だと不在の中の存在を作り出すことを目的としているのですが、今回は舞台美術なので、人が扉を開けたり、人が鍵や糸に触れたり、といった余裕を自分の中で持たせながら作品を制作しています。人がいることで完成するものだと思います。 

 

中野仁詞: 

実際、同じ”美術”と言っても…現代美術は作家の思想が造形物になるのですが、舞台美術は舞台関係者の一人、その役割を担うものなんです。その上、舞台に立つ役者さんを何よりも引き立てなくてはいけない…。実際、舞台美術をしてみていかがでしょうか? 

 

塩田千春: 

ドイツ・キールにあるオペラ劇場でワーグナーの「トリスタンとイゾルデ」の舞台美術を担当した際には、照明さんなどが関わってくれないと、成立しないものだと改めて思い知りました。
最後にしたリハーサル、全体の通してのお稽古で、スポットライトが当たった時、 作品が役者と一体となって引き立ち、一つの作品となったと思いました。
やはり、そういった過程においても現代美術との違いはありますね。 

 

今回、現代作家・塩田千春氏とキュレーター・中野仁詞氏のアーティストトークを取材し、現代美術としてではなく舞台美術を手がけられる塩田さんの側面に触れることができた。今後予定されているダンスとコンサートのプラグラムによる化学反応で、どのような変貌を遂げて私たちを魅了してくれるのかとても楽しみだ。 

 

文・新麻記子   写真・KAAT神奈川劇場

 

 

【情報】 

塩田千春 | 鍵のかかった部屋 

会期:2016年9月14日(水)~10月10日(月・祝) 

会場:KAAT神奈川芸術劇場・中スタジオ 

開館時間:10:00~18:00(入場は閉場の30分前まで) 

休館日:会期中無休 

入館料:一般 900円、学生・65歳以上 500円、高校生以下無料

特設ページ:http://www.kaat-seasons.com/chiharushiota/ 

住所:神奈川県横浜市中区山下町281

 

【イベント情報】 

《DANCE》

酒井幸菜 「I’m here, still or yet.」

9月23日(金)~25日(日) 各日19:30開演 

〈何か〉の気配。ずっとそこにいたのか、まだいないのか。同時に流れるいくつもの時間が、ふいに接触して現れる互いの姿——

 http://kaat-seasons.com/chiharushiota/events/i-m-here-still-or-yet/ 

平原慎太郎 「のぞき/know the key」

9月30日(金)~10月2日(日)各日 19:30開演 

「のぞく」自分という存在を薄めて他者を見つめるのか、自分の存在を尊重して他者を薄めるのか。その部屋の中には沢山の「いと」が凝結した空気のように張られている。そこに沢山の「いと」を持ち運び融解をほのめかす。ポール・オースターのテキストをモチーフに展開される、身体と言語を使ったパフォーマンス。

http://kaat-seasons.com/chiharushiota/events/know-the-key/ 

《MUSIC》 

「2台のコントラバスと古い扉とアコーディオンと無数の鍵による組曲」

10月8日(土) 19:00開演

音楽: mama!milk 曲目:「2台のコントラバスと古い扉とアコーディオンと無数の鍵による組曲」

白井晃が塩田千春作品にあわせてセレクトした「mama!milk」による公演インスタレーション空間そのものをモチーフに、古い扉と鍵が奏でる音と、コントラバス、アコーディオンが奏でる音が折り重なる・・・。

http://kaat-seasons.com/chiharushiota/events/mamamilk/ 

一柳慧プロデュース 「Music with and without the key」 

10月9日(日) 19:00開演 / 20:30開演 (2公演は同一プログラム) 

一柳慧が本展覧会をイメージして、自らプロデュースするプログラム。 

一柳作曲の「弦楽四重奏曲第3番」と「ピアノ協奏曲第4番」の豪華2本立て。 

http://kaat-seasons.com/chiharushiota/events/music-with-and-without-the-key/








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