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想像することの大切さを体感できる「ユージーン・スタジオ 新しい海 After the rainbow」

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2022年1月14日

想像することの大切さを体感できる「ユージーン・スタジオ 新しい海 After the rainb


想像することの大切さを体感できる「ユージーン・スタジオ 新しい海 After the rainbow」

 

国際的評価が高まっている現代アーティスト、EUGENE STUDIO(ユージーン・スタジオ) による初の大規模個展が、2022年2月23日まで開催中。東京都現代美術館で最年少作家の個展だ。

 

平面作品から大型インスタレーション、映像作品、彫刻作品等で構成され、未発表の最新作までが展示されている。様々なことが起こり続けるこの世の中で、私たちは何を信じ、何を他者と共有できるのか、またはできないのか。起こりうる様々な問題について思い起こされる展示となっている。

 

 White Painting series〈ホワイトペインティング〉シリーズ 

 

 

白いキャンバスが並ぶ〈ホワイトペインティング〉シリーズから、この展覧会は始まる。

様々な都市で真っ白なキャンバスに100人ほどが接吻を重ね、愛や信仰という精神的支柱を出現させた代表作である。

人々が何を想いキスを重ねていったのかを考えさせられるのが〈ホワイトペインティング〉シリーズだ。
時間的なものをも感じさせ、多様な人々の存在を思い起こさせてくれる。いくつか並ぶ白いキャンバスの中には「ある家族のための」といった作品も並び、「人」やその「愛」を表現している作品が多いことも美しい。

 

Critical 《海庭》

 

 

続いて現れるのは、一面に広がる《海庭》。生命の源である海が自然と日常の縁である庭となり、目の前に広がる。

壁一面を鏡で覆うことで、波がこちらへきているのか、はたまた向こうへ行っているのか、個々のイマジネーションを働かせながら感じることができるのも面白い。

水の下に砂を敷くことで海が白濁したように見え、光の反射とともに様々な表情を生むのも神秘的。
日中は陽の光を感じたり、夜になるとライティングで夕陽のように見えたりと、時間によって波の表情の違いを感じられる。夕方になると約15分だけ夕陽のような光が差し込む様も、また幻想的だという。

 


Rainbow Painting series〈レインボーペインティング〉シリーズ

 

幻想的な海の庭から一転、次に姿を現すのは、新作の〈レインボーペインティング〉シリーズだ。

遠くから見ると淡い虹が立っているように見えるが、よく見るとキャンバスに油彩で一つ一つ色を作り、無数の点描で描かれた油彩画だ。

せめぎ合うように密接している点は、近づくと個々に独立しているが、全体を見渡すと淡い虹になっている。これは国や地域、コミュニティ、人そのものが表現されているようである。

 

 

Mr.Tagi’s room and dream # four-handed 《あるスポーツ史家の部屋と夢 #連弾》


奥へ進むと、華やかな色彩で描かれた絵に囲まれたドラムが表れる。

このドラムは、作家の卒業制作作品のひとつであり、代表作でもある。スポーツという要素を紐解き再構築したもので、頭脳を使う部分をチェスに、身体の動きや共振していく様をドラムで表現している。

Mr.Tagi’s room and dream # four-handed 《あるスポーツ史家の部屋と夢 #連弾》

私たちが目に見えていないものについて「なぜ?」という視点から捉え、考え直すために制作された作品の数々は、まるで作家の物事の見方を教わっているかのよう。

ドラムを取り囲むように並ぶ鮮やかな作品は、森の中に多角形の真鍮を持ち込み、現場で描いて仕上げられたもの。立体として捉えたものを開き直し、平面にして描いている。
常に表情を変えながら作品が存在している様子からは、”必ずしも私たちは物事を一つの固定されたもので見ているわけではない”ということを感じさせてくれる。

 

from the series Light and shadow inside me 〈私は存在するだけで光と影がある〉シリーズより

 

 

美しい翠色の平面作品〈私は存在するだけで光と影がある〉シリーズは、太陽の下に作品を曝し陽の光と作品の影によって生まれたグラデーションから成る。タイトルの通り、“私たちはポジティブとネガティブの両側面を持つ存在”だということを考えさせられる作品だ。

 

Right/Left: from the series Regarding of stories 右と左: 〈物語の聖地〉シリーズより

 

 

一見すると淡く白い絵画のようにみえるのは、ステンドグラスをガラスに模写し、泥や水で風化させ、割り、細かくした何万粒もの粒を平面にならすという工程で制作された。

一度描いたものを割って作り直すという、既成概念を覆されるかのようだ。

 

Betond good and evil, make way toward the wasteland. 《善悪の荒野》

 

 

”廃墟や遺産もまた、どこかに存在し続ける”

 

部屋のあらゆる調度品が破壊され、焼失された様子は、まるで時が止まったかのよう。

作家は制作当時、この作品を通して現代社会における私たちの未来を再度想起させるきっかけを与えようという意図がある。

それはまさに、私たちが過去と未来を繰り返しながら生きていることをイメージさせ、燃え尽きたカスのような灰からも、未来への可能性を感じさせてくれるのである。

 

 

インスタレーション《ゴールドレイン》の暗闇に入る様子

 

 

そして作家本人が「この作品は本展の裏側を一手に担う」と語る大作が《想像》。 

闇黒の空間にポツンと人の彫像が置かれている本作は、鑑賞者が暗闇でどれだけ目を凝らしてもその実体を見ることはできない。この作品自体暗闇の中で制作されたものであり、作家自身も携わる者も、誰一人としてそれを見ることなく完成させたという。

この世界には、把握できない未知がある。目に見えないものが私たちと共存していることを示唆し、この世界と社会との関わりについて再考を促しているのだろう。 

見た人の数だけこの像ができあがるという作品からは、私たち自身が普段何を想像し、何を頼って生きているのかを感じ、考えさせられる。

 

実際に筆者が体験してみたところ、やはりどれだけ目を凝らしても何も見えず、自分がどこを向いて歩いているのかさえ定かでない空間へ足を踏み入れた瞬間に、不安や恐れなど、様々な感情が入り乱れた。そして不安が募った矢先、その作品に触れることができた時の安堵は計り知れないものであった。自身の手がその作品に触れた時、質感や温度を初めて体感する。それは銅や鉄のようである一方で、木のぬくもりのようだ。不安の先に感じたそれからは、自分がどこに生まれ、何とともに生きているのか、生かされているのだろうか……。

 

人は、目に見えるものを頼りに人生の歩みを進めているからこそ、見えないものの存在を確信した時には言葉で表現しきれない安心感があるのだろうか。見えないものがそこに存在することを確信したとき、人は何を思うのだろう。一日に僅か12人しか見ることのできない《想像》。今までにないこの展示をぜひ体感して欲しい。

 

どんな言葉や技術よりも「想像する力というものがいかに大切か」ということを感じさせてくれる本展。実際に訪れ、作品に触れ、体感して初めて分かる感情が、そこにはある。

ここでしか体験できない作品に触れられる貴重な機会を、お見逃しなく。

 

文=藤井ゆかり

写真=洲本マサミ、EUGENE STUDIO提供画像 

 

 

 

【作家プロフィール】

寒川裕人(Eugene Kangawa)

1989年、アメリカ生まれ。日本を拠点とするアーティストスタジオ、EUGENE STUDIO(ユージーン・スタジオ)。

個展「THE EUGENE Studio 1/2 Century later.」2017 年、資生堂ギャラリー)や、完全な暗闇で執り行われる能のインスタレーション「漆黒能」(2019 年、国立新美術館、シテ方・大島輝久)を開催。その他、「89+」展(2014 年、サーペンタイン・ギャラリー、ロンドン)への作品提供、「資生堂ギャラリー 100 周年記念展」(2018-2019 年)におけるイギリスの建築家集団アッセンブルとの協働「、de-sport」展(2020 年、金沢 21 世紀美術館) への参加、アメリカを代表する現代 SF 小説家ケン・リュウとの共同制作『ALTER』(2017 年)など。現在、短編映画 2 本(2021 年、アメリカ、日本)が、ブルックリン国際映画祭、ヒューストン国際映画祭、パンアフリカン映画祭ほか、アカデミー賞公認を含む複数の国際映画祭で受賞、オフィシャルセレクションの選出が続く。

 

 

【展覧会概要】

ユージン・スタジオ 新しい海

EUGENE STUDIO After the rainbow

会期: 2021(R03)年 11 月 20 日(土)~ 2022(R04)年 2 月 23 日(水・祝)78 日間

休館日:月曜日 (2022年1月10日、2月21日は開館 )、年末年始 (12月28日 – 1月1日)、1月11 日

開館時間:10:00-18:00(展示室入場は閉館の 30 分前まで)

観覧料:未定/小学生以下無料

会場:東京都現代美術館 企画展示室 地下 2F

主催:公益財団法人東京都歴史文化財団 東京都現代美術館

 

特設サイト:https://mot-solo-aftertherainbow.the-eugene-studio.com/

 

展覧会ティザー スタジオビジット(約4分)

映像URL:https://www.youtube.com/watch?v=wIwhXW54YJw

(スタジオビジット・アーティストインタビューの映像)

 



Writer

Yukari Fujii

Yukari Fujii - Yukari Fujii -

京都で生まれ育ち、2020年に上京。アパレル、ライターとして活動の幅を広げる。

ファッションや環境問題、ものづくりの背景に強い興味関心があり、世の中により良いものを届けるため、エディターを志す。幼少期からデザイナーの母に連れられ美術館を訪れていたことから、アートのおもしろさに気づき、学生時代には数々の国を訪れ、芸術に触れてきた。

現在は、いくつかのメディアにて、健康や運動、人の魅力にフォーカスした取材から、日本のものづくりや環境問題について執筆中。

Instagram:@yukaringram