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全てを踊りのエネルギーに昇華!ダンサー・小池ミモザ ロングインタビュー

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2018年8月24日

全てを踊りのエネルギーに昇華!ダンサー・小池ミモザ ロングインタビュー


 

全てを踊りのエネルギーに昇華!ダンサー・小池ミモザ ロングインタビュー

 

 

モナコ公国のモンテカルロ・バレエ団で活躍するダンサー、小池ミモザさん。母は画家、父は建築家という芸術一家に生まれ、15歳のときにフランスへ渡りました。名門・コンセルヴァトワ―ルを主席で卒業し、以来、ヨーロッパを拠点に目覚ましい活躍をし続けています。2010年にはモナコ公国の芸術研究機関 Le Logoscope (ル・ロゴスコープ)に参加するようになりダンサーとしての活動だけでなく、振り付け、演出などもおこなうように。

 

2013年にはJAPON dance projectという、モナコ・東京の2都市を拠点にボーダレスに活動する団体の設立メンバーになり公演を成功させてきました。

 

8月25(土)、26(日)日には『Summer/Night/Dream』をJAPON dance projectとして新国立劇場で公演します。『Summer/Night/Dream』の演出・出演のため、日本に帰国中の小池さんに話を聞く機会に恵まれました。

 

 

 

『真夏の夜の夢』を選んだ理由と、狙い

 

 

 

 

 

 

girlsArtalk編集部(以下gA):今回の日本公演は、シェイクスピアの古典『真夏の夜の夢』を演じられるのですね。

 

小池ミモザ(以下、小池):今までは抽象的なテーマでしたが、ストーリー物をやってみたくて選びました。普通の『真夏の夜の夢』と思って来ないでくださいね(笑)。夢って色んなことが起こり得るよね?っていう問いかけです。

 

原作では、若者たちが決め事から逃れるために、森へ逃避するシーンがあります。そのように大自然の中で、なんでこんなことで悩んでたんだろうとか、大事だと思っていたことが実は、そんなに重要でないことに気づいた経験がありませんか?

 

また、夜にも不思議な力があると思うんです。

 

夜に書いた作文とか手紙を次の日に読んで驚いたことはありません?夜って思考が不思議な方向に行ったり、オーバーになったりしやすいじゃないですか。さらに、話の要素に「自然」「夜」「妖精のマジック」の3つが揃っているので、それらを経験することでガチガチに固まっていた考えが変わったら面白いなと思ったんです。

 

 

 


ⒸRemi lesterle

 

 

 

もう一つ、シェイクスピアがこの話で伝えたいことに、色んな愛のあり方があるということだと思っています。身分違いの恋愛とか、職人が自分のやっている仕事に対しての愛だとか、動物と人間の関係の中での愛とか。

 

今回の作品にそれら全てが反映されるかはまだ分からないですが、JAPONでやりたいこととして、人間味を観客と共有したいという思いがあります。

 

そのために「こういうことあるよね?」と、小さな段階を踏むことで、作品をもっと身近に感じてもらえるよう試行錯誤しています。客観的に「これは夢の世界のお話だな」って見ている観客を、どうすれば中に引き込めるかをこのプロジェクトで発見したいです。

 

 

 

振付家・演出家として。語り過ぎないことで鑑賞者の想像力を掻き立てたい

 

 

 


ⒸRemi lesterle

 

 

 

gA:振付家には色んなタイプがいますが、小池さんは『Summer/Night/Dream』でどんなところに気をつけていますか?

 

小池:振付と、そのシーンで観客に感じてもらいたいイメージや、役の人たちに必ず出して欲しいイメージをダンサーに伝えるようにしています。動きだけにならないようにと。

 

ダンサーが提示するイメージはあるんだけど、押しつけるのではなく鑑賞者の想像力を掻き立てるような舞台がやりたいんです。あまりにストーリーを細かく説明してしまうと、観客の想像力がなくなっちゃう。あえて途中に「あれ?これはなんだろう」という空間を作って、鑑賞者、一人一人の想像力に委ねるような作品づくりをしています

 

 gA:3人で演出をしていると役割分担はありますか?

 

小池:自然に分担できていると思います。自分たちでもどうなるか分からなくて、意見交換しながら少しずつ進めています。過去の公演でも本番で変更したことがあります。もちろん簡単ではないですけれど、一方で面白さも感じていますね。

 

 

 

モナコ滞在歴16年。モナコで踊り続ける訳と、その魅力

 

 

 

 

 

 

小池:何故、私はモナコに長くいるんだろうと考えたことがあるんです。昔、バレエ・リュスがモナコであって色んなアーティストたちがコラボしたんですよ。その時代は全く別のジャンルのアーティストたちが一緒に一つのものを作っていたんです。

 

今、多ジャンルのアーティストたちが集まってやっている場所としてLe Logoscope (ロゴスコープ)がモナコにあるので、そこに参加することで、現代でもバレエ・リュスの流れを繋いでいければ、と思っています。

 

モナコに来てもう16年目。Le Logoscope (ロゴスコープ)に入ったのは、2010年ぐらいだったかな。ここに入ったことでダンサー以外の色んなアーティストとコラボする機会に恵まれました。全てが自分の思う通りにはならないからすごく大変だけど、絶対自分一人じゃ行けないところに行けるところがコラボの良さだと思います。

 

 

 


ミモザさんのモナコのお部屋はアートでいっぱい。ご自身で絵を描くことも。

 

 

 

モナコにいるもう一つの理由として、自分が一番クリエイティブになれる場所だからです。例えば、東京、パリ、ニューヨークなどの大都市は、情報があり過ぎて満腹感を感じてしまって。そうすると、自分で面白いものを作ろうとは、あまり思わないんです。だけど、モナコにいると頭の中にスペースができて面白いことするか!みたいなエネルギーが湧いてきます。モナコ以外のところでインプットして、モナコでアウトプットしてるかんじですね

 

 

 

自分の強みを見つけてキャラクターにしていく。アイデンティティの在り処

 

 

 

 

 

 

小池:私は15歳で日本を出たので、日本より海外生活の方が長いんですが、自分は日本人だっていうアイデンティティを持っています。でも、実は日本に住んでいるとき、しっくりこない部分が結構あったんですよ。理由としては、皆と同じようにしていれば別に問題はないけど、自分の意見や性格を出すことで居心地の悪い思いをすることが多かったから。ダンスでも、身長が高いことがネックになっていたり…。同じ国に生まれたら何でも分かり合える「同じ人種」というわけではないんです。

 

でも、世界中のどこでも、理屈を超えたところで同じ人種だなと思える人が存在するんです。そういう人を見つけた時点でその人はあなたの仲間だから、そこを居場所にすればいいんです。私にとっては、それが今の仕事仲間で一番、気楽でいられる場所になっています。

 

海外に出るのは居場所がなくなりそうで怖いと思う人も、ハートで通じ合える人とは共通の言語がなくても通じ合うことができるから、怖がらずに挑戦してみてほしいですね。

 

 

 

 

 

 

gA:普段の生活からダンスに活かせることを探しているんですか?

 

小池:私は人生で起こること全てがダンスに繋がると思っているんですが、例えばこんなエピソードがありました。

 

毎年、春になると母が桜の写真を送ってくれるんです。写真からでも、エネルギーが根っこから上がって花が咲くのを感じるからすごいなぁと眺めていて。 あるとき、振付けで難しい場所があったので「あ、桜の木をちょっと思い浮かべてみようかな」と思って、下からくるエネルギーを昇華させるイメージで踊ったんです。そうしたら上手くいって、振付家のマイヨーにすごく褒められたんですよ。もちろん、私が桜の木をイメージして踊っているなんて言ってなかったんですけど、何かをイメージしていたり、やってやるっていう気迫だったりは見ている人に伝わるものがあると思います。

 

 

 

 

 

 

舞台を見ていて何か光るものがある、伝わってくるものがある人は自分の強みを追及してきた人だと思います。私は日本人であるということ自体が強みだと思って、能とか歌舞伎を参考にするなど、日本を意識しています。身長のこともそうですが、土地が変わればマイナスなことがプラスに転じることもある。自分の強みを見つけてそれをキャラクターにしていくのが大切だと思うんですよね。

 

皆、違う人生を生きてきたのだから「誰かのようになろう」と思っても、絶対できないですよね。だったら、全然違う方向に進んで行く方が面白いんじゃないかな、と考えています。

 

 

 

 一流アーティストの日々のモチベーションの保ち方

 

 

 


ⒸRemi lesterle

 

 

 

小池:レッスンってメディテーション(瞑想)みたいなものなのかな、と思います。誰だって朝は疲れるし、学校や仕事に行きたくないなと思いますよね。でも、私はそういった状態のときに「じゃ今日は腕だけ気をつけてやってみよう」とか「今日はつま先だけすごい遠くに伸ばすようにやってみよう」とか一つだけ課題を自分に与えて集中する、と決めています。ネガティブな気持ちのままでずっといると余計に落ち込んでしまうので、それを別の気持ちに変換することが大事なのかなと。

 

それでも、疲れがひどいときは自分を労わることも大事だと思いますよ。心の声を聴くというか。自分の本当の声を聴かないと、後で身体がめちゃくちゃ大きいシグナルを出してくるので、そうなる前に、ちょくちょく小さい声を拾ってあげます。

 

人間、波があるのが普通のことで、ずっと良い状態ではいられない。なんで私はこうなんだろうと思うこともあるかもしれないけど、「皆そうなんだ」と受け入れることができれば気持ちが楽になると思っています。

 

 

 

美術館巡りが趣味。「一つ二つ発見があればいい」小池ミモザ流の鑑賞方法

 

 

 

 

 

 

小池:私、美術館が大好きなんですよ。去年の夏、ちょっとお休みがあったので家族と一緒に直島と豊島に行ってきて。すごい良かったです。そこら中にアートがあるってが素晴らしいですよね。島ならではのゆっくりした時間の経過も好きでした。まだ行っていないなら、絶対、行った方がいいですよ。

 

 gA:お休み以外にも普段から美術館へ行くんですか?

 

小池:ええ。美術館巡りみたいなことをしていますね。世界ツアーでもその土地の美術館にいくのが趣味です。現代美術が好きなので重点的に探しています。

 

 

 

 

 

 

gA:美術館でのお仕事も多いですよね。

 

小池:美術館の仕事は、毎回発見があります。現在、シャガール美術館の仕事を受けているので、生き様を調べました。シャガールはベラルーシから、パリに行ってまた戻ってベルリンに行って。そこで戦争が起きて…。その後は、ニューヨーク、最後は南フランス。様々な土地を巡る中、どのようにアイデンティティを形成したのかを考えます。アンリ・マティスとピカソの関係性も面白いと思います。作家の関係性を改めて想像したり。だから、美術館って大好きです。

 

gA:作品を見てる時はルーツを感じたりするのでしょうか?

 

小池:もちろんです。あと、美術館へ行ったら、一個か二個、「何か」を感じられるものがあったらいいと思っていてます。たまに「ふーん」と思ったり、「よく分かんない!」とかあったりするんだけど、後から意味が理解できることもある。それで全然いいと思います。

 

 

 

楽しみな今後の活動と、読者に対するメッセージ

 

 

 

 

 

 

 gA:今後こんな活動をしたいというのはありますか?

 

小池:私が美術館でのパフォーマンスが好きなのは、観客も一緒になってその作品の中に入れる気がするからなんです。後やってみたいと考えているのは、お客さんと一緒に初めて見たものに対する感情を共有できるような企画です。例えば、出演者はダンサーとミュージシャンで、出演者もお客様も分からないところで美術館の人に3つの絵を選んでもらいます。何が選ばれたか分からない状態からお客さんと一緒に絵を見て、どんな感情が出てきたか即興をすることで皆と感情を共有する。また違う絵で全然違う動きや音が出てくるのを楽しむ。こんなパフォーマンスも面白いんじゃないかなと思っています。

 

 gA:最後に、girls Artalk読者にメッセージをお願いします。

 

小池:皆さんの中にはダンスというと一つのイメージしかないかもしれませんが、ダンスって本当に色んなものがあると思います。私たちのやりたいもの、探してるものは必ずしもイメージ通りのものではないかもしれません。それでも興味を持ってくれたら嬉しいなというのがあるし、自分もそういう人でありたいと思っています。

 

何でも「ちょっと見てみよう」という気持ちで見てみる。その感想が「よくわからない」でもいいと思うんです。上手く言葉にできなくても、絶対「何か」を感じています。だから、試すということをやめないで欲しいな。そうすれば、アートに限らず自然や日常生活で、元気を貰えるものや圧倒的な力があるものに出会えます

 

先入観で見るのではなく、ある程度、自分の心をオープンしないと出会いはないと思うので、そこを意識して人生を送ってみてください。何か新しい発見があると思いますよ。

 

 

 

【公演概要】
JAPON dance project 2018 × 新国立劇場バレエ団
『Summer / Night /Dream』
公演日:2018年8月25日(土)14:00、26日(日)14:00 
全2回公演 会場:新国立劇場 中劇場
公演HP:https://www.nntt.jac.go.jp/dance/performance/33_011661.html

 

 

 

取材/杉田亜祐美、新井まる
テキスト/杉田亜祐美
写真/新井まる

 

 

 

【プロフィール】


小池ミモザ(Mimoza Koike)

モナコ公国モンテカルロ・バレエ プリンシル

 

1998 年よりフランス国立リヨン・コンセルヴァトワールで学び、首席にて卒業。2001年ス イスのジュネーブ・バレエ入団。2003 年に振付家ジャン・クリストフ・マイヨ率 いるモナコ公国モンテカルロ・バレエに移籍し、2005 年最年少でソリスト、2010 年プリンシパルに昇格。豊かな芸術性と抜きん出た技術によって、Sidi Larbi Cherkaoui, Emio Greco, Johan Inger などの振付家にも選ばれ、ダンサーとして 創作に参加した。 2007 年から振付も始め、2012 年にはモナコで日本をテーマにし た新作を発表。2010 年より、Le Logoscope の舞台芸術部門のディレクションを担 当し、2016年にヴァイスプレジデントに昇格。15 年モナコ公国より日本人ダンサー初 シュバリエ文化功労勲章を受章。

 

 



Writer

杉田亜祐美

杉田亜祐美 -  Ayumi Sugita -

4歳よりクラシックバレエを始める。
大学の舞踊専攻を卒業。主専攻はコンテンポラリーダンス。
学生時代はアートマネジメントの授業なども受講。

 

アートとしてのダンスをどのように広めていくかを模索中。
踊りには多くのジャンルがあり、アートも広い世界なのでいかに自分の好奇心と知識を広げられるかにも挑戦中。

 

誰かの知らない世界を知るきっかけになりたい