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南の海に花開いた王国の文化に触れる 沖縄復帰50年記念 特別展「琉球」

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2022年6月24日

南の海に花開いた王国の文化に触れる 沖縄復帰50年記念 特別展「琉球」


南の海に花開いた王国の文化に触れる 沖縄復帰50年記念 特別展「琉球」

 

 

エメラルドグリーンの海と、広い青い空。そして豊かな自然。

沖縄は、国内旅行の行き先として、人気が高い場所の一つです。約150年前、明治初期まで、琉球王国として独自の歴史と文化を有し、アジア各地を結ぶ中継貿易の拠点として大いに栄えました。

三線やシーサーなど、かつての沖縄ーーー「琉球」が育んだ文化については、断片的にではあっても、目にしたり聞いたりしたことがあるでしょう。

2019年には、琉球王国の政治、外交の中枢であった首里城が焼けてしまった、というニュースが話題になったことも記憶に新しいことと思います。

が、「琉球」が、どのようにして生まれ、どのような歴史を歩んでいったのか、触れる機会はそれほど多くはありません。

 

東京国立博物館では、沖縄復帰50年を記念して、沖縄復帰50年記念 特別展「琉球」開催されています。(6月26日(日)まで)

今回は、その展示の様子の紹介と共に、「琉球」という海洋王国へご案内しましょう。

 

 

①琉球とは、どのような国?

 

11~2世紀、現在の沖縄から奄美諸島にかけた一帯で、まとまった文化圏が形成され始めます。

当時は、各地に按司(あじ)と呼ばれる豪族が現れ、城(グスク)を拠点にしのぎを削る、いわば群雄割拠の状態が約100~200年続きました。(グスク時代)

やがて、14世紀になると、按司たちを束ねる強いリーダー()が現れ、三つの国(南山、中山、北山)にまとまっていきます。(三山時代)

そして、1429年、ついに中山の王・尚巴志が三つの国を統一し、ここに「琉球」王国が誕生したのです。

 

地理的な位置関係もあり、琉球は、日本や中国、朝鮮半島、さらには東南アジアとも交流し、アジア各地を結ぶ貿易拠点として栄え、その存在はヨーロッパにも知られていました。

 

左から 重要文化財 首里城京(しゅりじょうきょう)の内跡(うちあと)出土陶磁器より青花人物図大合子、紅釉水注 ともに中国・景徳鎮窯 元~明時代・14~15世紀 沖縄県立埋蔵文化財センター蔵

 

上の写真は、首里城内の最大の聖域である「京の内」から発掘された中国陶磁です。右側の紅釉を掛けた水注と同種のものが、北京や台北の故宮博物院に所蔵されていることからも、当時の琉球の繁栄ぶりがうかがえるでしょう。

また、こちらは、15世紀に鋳造され、首里城の正殿にかけられていたと伝わる銅鐘です。

 

重要文化財 銅鐘(どう しょう) 旧首里城正殿鐘(きゅうしゅ り じょうせいでんしょう)(万国津梁(ばん こく しんりょう)の鐘(かね))藤原国善作 第一尚氏時代・天順2年(1458)沖縄県立博物館・美術館蔵

 

表面に刻まれた撰文には、琉球が、中国とは「車輪と添え木のように」、日本とは「唇と歯のように」支え合う関係になったこと、そして、2つの国の間で、船をもって「万国の架け橋(万国津梁)」になろう、とする意思が述べられています。

琉球王国の誇りが感じられる一節です。

 

琉球王国は、途中、王朝の交代や、1609年の薩摩藩による侵攻を経験しながらも、約450年間続きました。

そして、明治時代、1879年の廃藩置県によって、日本に組み込まれ、その歴史に幕を下ろします。

 

 

②琉球が育んだ独自の文化

 

海を通して繋がったアジアの国々から影響を受けながら、琉球では、国際色豊かな独自の文化が育まれていきます。

例えば、朱色の地に、中国風の山水人物図を表した足付盆。

 

 

浦添市指定文化財 朱漆山水人物沈金足付盆(しゅうるしさんすいじんぶつちんきんあしつきぼん) 第二尚氏時代・16~17世紀 沖縄・浦添市美術館蔵

 

近くで見ると、その線描の緻密さ、繊細さに驚かされますが、これは、漆器の表面に線を彫り、金箔や金粉を押し込む「沈金」という技法によるものです。

 

また、琉球ならではの特色が一番現れているのは、やはり衣服ではないでしょうか。

形は一見、和装に似ていますが、襟や袖が異なっています。また、襞つきの巻きスカート状の「下裳(カカン)」をつけるなど、着方に和装にはない特徴があります。

素材の一つとして、風通しが良く軽やかな芭蕉布が使われるのも、年中温かい琉球ならではです。

 

(展示風景より)紺地格子に緯絣芭蕉桐板衣裳(こんじこうしによこかすりばしょうとんびゃんいしょう)第二尚氏次代、十八~九世紀、東京・日本民藝館

 

そして、沖縄の染織として、現在でも知られている「紅型」を、忘れてはなりません。

これはもともとは、貴族階級の衣服や、踊りのための衣裳として発展したもので、鮮烈な色彩と、華やかな文様が特徴です。

中には、このように表と裏で、同じ型紙を使いながらも、色合いを変えているものもあります。

 

(展示風景より)桔梗色地波梅笹文様紅型木綿衣裳/染分地流水鴨文様紅型木綿裏地(ききょういろじなみうめささもんようびんがたもめんいしょう/そめわけじりゅうすいかももんようびんがたもめんうらじ)第二尚氏時代 19 世紀 愛知・松坂屋コレクション J. フロントリテイリング史料館 ※展示は終了しました

 

また、黄色の地色や、龍や鳳凰の模様が使われた着物は、王や王族だけが着用できました。

 

 

国宝 黄色地鳳凰瑞雲霞文様紅型紋紗衣裳〔琉球国王尚家関係資料〕(きいろじほうおうずいうんかすみもんようびんがたもんしゃいしょう)第二尚氏時代・18~19世紀 沖縄・那覇市歴史博物館蔵


実際に目の前にすると、日本の和装とはまた異なる色やその組み合わせに驚かされます。

もし、これらの衣裳を、博物館の展示室内ではなく、南国の太陽の下で見たならば、どれほど色鮮やかに輝いて見えるのでしょうか。

 

 

③あわせて読みたい、オススメの本

 

最後に、今回の展覧会をより楽しむための本を紹介しましょう。

池上永一『テンペスト』(文庫版全4巻、角川書店、2010)です。

2011年には、仲間由紀恵さん(今回の展覧会では、音声ガイドを担当)主演で舞台化、さらにはNHKでドラマ化もされました。

舞台は、19世紀。天才的な頭脳を持つヒロイン真鶴が、男装して宦官・孫寧温となり、首里城に仕え、改革に着手していきます。

主人公が知恵を絞り、仲間と共に難題を切り抜けていく様は痛快ですが、当然うまくいく事ばかりではありません。

王宮は、魑魅魍魎が蠢く場所。汚職もあれば、派閥争いもあります。御内原(王族の女性たちが住まう、江戸の大奥のような場所)における、 主人公の宿敵・聞得大君をはじめとする、 女性たちのドロドロした人間模様も見どころの一つです。

寧温(真鶴)自身も、正体がバレるのでは、とひやひやさせられたり、実際に陰謀を仕掛けられて流刑にされたり、さらにそこから意外な方法で王宮に戻ったり・・・その展開はジェットコースターにも例えられるでしょうか。

文庫版で全4巻と長めですが、一気に読むことができます。

私たちには馴染みの薄い琉球の歴史や文化の描写が、散りばめられているのも魅力の一つであり、例えば、江戸時代末期、「黒船来航」で知られるマシュー・ペリー提督が、日本からの帰りに、琉球の那覇港に立ち寄り、開国を迫った、という史実も、エピソードとして盛り込まれています。

 

沖縄県出身の池上さんは、この『テンペスト』の他にも、沖縄を舞台に、その歴史や文化を織り交ぜた著書を多く手掛けています。

その中で、「琉球」時代を扱った作品としては、『テンペスト』のスピンオフにあたる『トロイメライ』や、琉球舞踊を題材にした『黙示録』などがあります。

 

時間や空間、そのどちらか、あるいは両方において隔たった「別の場所」について知ることは、私たちの「世界」をより大きく広げてくれます。

今回の展覧会も例外ではありません。是非、足を運んでみてください。

 

文=verde

 

 

【展覧会概要】

​​沖縄復帰50年記念 特別展「琉球」

会期:2022年5月3日(火・祝)~6月26日(日)

会場:東京国立博物館 平成館(東京都台東区上野公園13-9)

開館時間:午前9時30分~午後5時 (入館は閉館の30分前まで)

休館日:月曜日

交通:JR上野駅公園口・鶯谷駅南口より徒歩10分

東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅、東京メトロ千代田線根津駅、京成電鉄京成上野駅より徒歩15分

https://tsumugu.yomiuri.co.jp/ryukyu2022/

 

巡回

九州会場

会期:2022年7月16日(土)~9月4日(日)

会場:九州国立博物館(福岡県太宰府市石坂4-7-2)

 

 

トップ画像

首里城公園 首里城正殿(平成26年(2014)撮影) 画像提供:一般財団法人 沖縄美ら島財団

 



Writer

verde

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美術ライター。
東京都出身。
慶応義塾大学大学院文学研究科美学美術史学専攻修了。専攻は16~17世紀のイタリア美術。
大学在学中にヴェネツィア大学に一年間留学していた経験あり。

小学生時代に家族旅行で行ったイタリアで、ティツィアーノの<聖母被昇天>、ボッティチェリの<ヴィーナスの誕生>に出会い、感銘を受けたのが、美術との関わりの原点。
2015年から自分のブログや、ニュースサイト『ウェブ版美術手帖』で、美術についてのコラム記事を書いている。
イタリア美術を中心に、西洋のオールドマスター系が得意だが、最近は日本美術についても関心を持ち、フィールドを広げられるよう常に努めている。
好きな画家はフィリッポ・リッピ、ボッティチェリ、カラヴァッジョ、エル・グレコなど。日本人では長谷川等伯が好き。

「『巨匠』と呼ばれる人たちも、私たちと同じように、笑ったり悩んだり、恋もすれば喧嘩もする。そんな一人の人間としての彼らの姿、内面に触れられる」記事、ゆくゆくは小説を書くことが目標。

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