feature

夢と現実の間へようこそ! 『ルドンー秘密の花園』

NEWS

2018年2月25日


夢と現実の間へようこそ! 『ルドンー秘密の花園』


 

夢と現実の間へようこそ! 『ルドンー秘密の花園』

 

 

植物を軸にした展覧会というと、同じような花瓶の絵がずらりと並ぶのをイメージして「美術館に慣れていない私には、ちょっと退屈そう…」と思う人もいるのでは?

 

大丈夫。その心配は要りません。東京・三菱一号館美術館で2月8日(木)に開幕した本展『ルドンー秘密の花園』はひと味もふた味も違います。

 

まずは、少しだけご覧ください。

 

 

 


《『起源』II. おそらく花の中に最初の視覚が試みられた》 1883年 リトグラフ/紙(シーヌ・アプリケ) 岐阜県美術館蔵

 

 

 

「これが植物?」と驚くような不気味な目玉が浮かび上がっています。このようなルドンの黒い版画は、2017年に好評を博した『怖い絵展』(東京・上野の森美術館、兵庫県立美術館)にも出品されていました。

 

 

 


《神秘的な対話》 1896年頃 油彩/カンヴァス 岐阜県美術館蔵

 

 

 

かと思えば、こちらの作品は物語を想像させる神話的な一場面が描かれています。画面の下方に色とりどりの草花が舞い散り、人物が握る赤い枝が印象的ですね。

 

オディロン・ルドン(1840-1916年)は印象派のモネと同い年ながら、独特な世界観を展開し、特定の流派に分類することが難しいとされる画家。強いて言えば象徴派とされることが多いですが、自身は「ある流派に喝采することはけっしてない」と語っています。

 

黒にこだわった版画で名を知られたのち、溢れんばかりの色彩に輝く油彩やパステル画に移行し、つぼみが花開くように作風を変化させたルドン。さらに水彩、木炭、デトランプ(膠テンペラ)など様々な技法を扱ったこともあり、実にバリエーション豊かな作品を生み出したのです。

 

 

 


《『夢想(わが友アルマン・クラヴォーの思い出に)』VI. 日の光》 1891年 リトグラフ/紙(シーヌ・アプリケ)三菱一号館美術館蔵

 

 

 

しかし活動初期から晩年に至るまで、あらゆる技法の作品に共通したモティーフがありました。それが「植物」です。本展は世界で初めて植物に焦点をあてたルドンの大規模展。鉛筆画の小品から縦2mを超える装飾画まで、約90点が展示されています。

 

では、展覧会の様子をのぞいてみましょう!

 

 

 

日本初、城館の装飾画15点が集結!

 

 

 


ドムシー男爵の城館の食堂壁画 展示風景

 

 

 

本展最大の見どころは、ドムシー男爵家の大食堂を飾った15点の装飾画。別室に展示された《グラン・ブーケ》と合わせ、全16点を一気に鑑賞することができるんです。

 

見上げるほどの装飾画に囲まれると、本当に花園に迷い込んだかのよう。高い位置に飾られることを見越して、花が大きく描かれています。上の写真に写った2枚のパネルに描かれた枝は、よく見ると繋がっていますね。実際には角合わせで配置されていたそうです。

 

 

 


ドムシー男爵の城館の食堂壁画 展示風景

 

 

 


[ドムシー男爵の城館の食堂壁画15枚のうち] E. 《ひな菊》 1900-1901年 木炭、油彩、デトランプ/カンヴァス オルセー美術館蔵 Photo©RMN-Grand Palais (musée d’Orsay) / Hervé Lewandowski / distributed by AMF

 

 

 

この作品群は完成後ドムシー男爵の城館に秘蔵され、長らく公開されることがありませんでした。15点が日本で公開されたのが1980年、《グラン・ブーケ》に至っては制作から110年の時を経て2011年にパリで初公開されました。これらが一堂に会するのは、もちろん日本初の貴重な機会!

 

展示室を出ると、大食堂での配置を再現したフォトスポットもあります。 ドムシー男爵の城館があるのは、ワインで有名なフランス・ブルゴーニュ地方の小村。自然豊かな地にあるお城の食堂に招かれたつもりで、記念撮影をするのもいいですね。

 

 

 


《グラン・ブーケ(大きな花束)》 1901年 パステル/カンヴァス 三菱一号館美術館蔵

 

 

 

別室には同館所蔵の《グラン・ブーケ》が展示され、暗闇で輝いています。サイズはなんと248.3×162.9cm!

 

他の15点が油彩とデトランプで描かれたのに対し、本作は唯一のパステル画。パステルはクレヨンより柔らかいチョーク状の画材で、紙への定着が弱いこともあり大画面の制作は大変です。ルドンもこれ以降、装飾画制作にパステルを使用することはなかったとか。

 

 

 


[ドムシー男爵の城館の食堂壁画15枚のうち] G.《花のフリーズ(赤いひな菊)》 1900-1901年 木炭、油彩、デトランプ/カンヴァス オルセー美術館蔵 Photo©RMN-Grand Palais (musée d’Orsay) / Hervé Lewandowski / distributed by AMF

 

 

 

また、一般的に「静物画」に分類される花のモティーフですが、ルドンが描く花はとても静物には見えません。揺れたり舞ったり今にも動き出しそうで、生きているようです。

 

 

 


《日本風の花瓶》 1908年 油彩/カンヴァス ポーラ美術館蔵

 

 

 


《グラン・ブーケ(大きな花束)》 1901年 パステル/カンヴァス 三菱一号館美術館蔵

 

 

 

さらに、よく見ると実在しない謎の花も。ルドン自身は「再現と想起という二つの岸の合流点にやってきた草ばな」と表現しました。《グラン・ブーケ》の最上部に咲くヒマワリのような花も、巨大で現実離れしていますよね。夢と現実の間を漂うような草花はとても魅惑的です。

 

 

 

植物が奇妙な生き物に!「黒」の時代

 

 

 

ルドンは黒を「本質的な色」とし、初期には専ら木炭やリトグラフによる白黒の作品を発表していました。不気味かつユーモラスな生物はシュルレアリスムの先駆けとも考えられます。同じくフランスで印象派が注目を浴びていた頃の作品とは思えませんね。

 

 

 


左:『起源』表紙=扉絵 1883年 リトグラフ/紙(シーヌ・アプリケ)岐阜県美術館蔵 中央:『夢の中で』Ⅱ. 発芽 1879年 リトグラフ/紙(シーヌ・アプリケ)三菱一号館美術館蔵 右:『夢の中で』Ⅰ.孵化. 1879年 リトグラフ/紙(シーヌ・アプリケ)三菱一号館美術館蔵

 

 

 

想像力の源だったと考えられているのが、植物学者アルマン・クラヴォー(1828-1890)との交流。人間の頭部を持つ植物は、クラヴォーによる豆の発芽を示した挿絵にインスピレーションを得たと言われています。

 

 

 


『ゴヤ頌』 Ⅱ. 沼の花、悲しげな人間の顔 1885年 リトグラフ/紙(シーヌ・アプリケ)三菱一号館美術館蔵

 

 

 


展示風景 手前:アルマン・クラヴォー『高等植物の受粉について』より 1867年 個人蔵

 

 

 

この写真に写っている豆の図が、上の版画の元となったと言われているものです。ここから不思議な生き物を生み出すとは、並外れた想像力ですね。

 

これらの黒い生き物たちは缶バッジになって売られています。お気に入りを見つけて連れて帰りましょう♪

 

 

 

 

 

 

夢のように花開いた「色彩」の時代

 

 

 

黒の時代の作品を見てから部屋を移動すると、ぱっと世界が明るくなった気がします。あまりの雰囲気の違いに、同じ人物が描いたとは思えないほど!

 

 

 


《蝶と花》 1910-1914年 水彩(木炭?)/紙 プティ・パレ美術館蔵 ©Petit Palais / Roger-Viollet

 

 

 

黒ばかりだったルドンの画面に突然色彩が溢れ出したのは、50歳を過ぎてからのこと。ちょうど次男アリが生まれた頃と重なると言われています。長男は1歳になる前に亡くなっていたため、次男が生まれた嬉しさはひとしおだったのかもしれませんね。黒の時代の作品は暗くて不気味な雰囲気でしたが、見ているだけで幸せが伝わってくるような明るい作品が次々に生まれました。

 

 

 


左:《眼を閉じて》1900年以降 油彩/カンヴァス 岐阜県美術館蔵 右:《オルフェウスの死》1905-1910年頃 油彩/カンヴァス 岐阜県美術館蔵

 

 

 


左:《神秘的な対話》1896年頃 油彩/カンヴァス 岐阜県美術館蔵 右:《ドムシー男爵夫人の肖像》1900年 油彩/カンヴァス オルセー美術館蔵

 

 

 

神話画や宗教画とされる作品や肖像画にも、人物とともに様々な植物が描かれています。ルドンは晩年に装飾も手がけていますが、植物を装飾的に配置する傾向がすでに現れていますね。

 

また、ルドンは植物と人物、幻想と現実などの境界を曖昧にし「暗示的なもの」を重視していました。描かれたものの意味を読み解こうと難しく考えるのではなく、純粋に色彩や形態の美しさを味わってみると、素晴らしい体験ができるかもしれません。

 

 

 


《オリヴィエ・サンセールの屏風》 1903年 テンペラ、油彩等/カンヴァス 岐阜県美術館蔵

 

 

 

展示の最後には、ルドンが手がけた屏風や、装飾デザインを手がけたひじ掛け椅子も。座面やひじ掛け部分など、パーツごとにルドンが描いた下絵と比べてみることができます。しかしタピスリーにするとどうしても色がくすんでしまいます。椅子も素敵ですが、夢の世界に連れていってくれるような雰囲気はルドン本人のタッチでしか出せないのだと実感しました。

 

 

 


ロラン・ルスタン(ルドンの下絵に基づく)《ひじ掛け椅子》 1911-1913年 ゴブラン織(ウール、絹)、シカモア モビリエ・ナショナル蔵

 

 

 


《タピスリー用下絵(ひじ掛け部分》 1910年 油彩/カンヴァス モビリエ・ナショナル蔵

 

 

 

画家の秘密の花園をのぞいてみよう!

 

 

 

ここで紹介した以外にも、予想外の作品がたくさん。ルドンの想像力の豊かさに圧倒される展覧会です。

 

しかも会場の三菱一号館美術館は、都心にありながら緑溢れる場所。本当に花園に遊びに来たつもりで、ゆっくり過ごしてみてくださいね。

 

 

 

文:稲葉 詩音
写真:新井まる、丸山順一郎
画像提供:三菱一号館美術館

 

 

 

参考文献: 池辺一郎訳『私自身に』みすず書房、1983
藤田尊潮訳編『オディロン ルドンのオディロン・ルドン―自作を語る画文集 夢のなかで』八坂書房、2008

 

 

 

【展覧会概要】
ルドン−秘密の花園
会期:2018年2月8日(木)~5月20日(日)
会場:三菱一号館美術館
住所:〒100-0005 東京都千代田区丸の内2-6-2 Tel:03-5777-8600(ハローダイヤル)
開館時間:10:00~18:00(祝日を除く金曜、第2水曜、会期最終週平日は21:00まで)
※入館は閉館の30分前まで 休館日:月曜日(但し、4/30、5/14とトークフリーデーの2/26、3/26は開館)
 観覧料:一般1,700円、大高生1000円、中小生500円他
展覧会公式HP:http://mimt.jp/redon/
三菱一号館美術館公式HP:http://mimt.jp/

 

 

 

【稲葉詩音の他の記事はこちら♪】
「君の名は。」はどうやって生まれた? 新海誠展 ―「ほしのこえ」から「君の名は。」まで―

「うら」から浮かび上がる世界「宮廻正明展 行間のよみ」

イケメンと行く!妄想アートデート〜谷中お散歩編〜

 

 

 

 

【花が好きな人はこちらもおススメ!】
アート女子のアートな目線 「知っておきたい美しい花」

伝統 「生花」 × 最新 テクノロジー 交わることのなかった世界が融合!



Writer

稲葉 詩音

稲葉 詩音 - Shion Inaba -

イタリア留学を経て、東京大学で表象文化論修士号取得。得意分野はヨーロッパ近代絵画。
10ヶ国語以上学んだ語学オタクでもあり、現在は海外映画・ドラマの字幕翻訳ディレクターを務める。

好きなものはアートと言葉。
好奇心を大切に、旅するように暮らしたい。
特別な思い入れのある芸術家は、美術ではセガンティーニ、文学では安部公房、音楽ではきのこ帝国。






トップへ