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坂本龍一 with 高谷史郎|設置音楽2  IS YOUR TIME

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2018年2月16日


坂本龍一 with 高谷史郎|設置音楽2  IS YOUR TIME


 

坂本龍一 with 高谷史郎|設置音楽2 
IS YOUR TIME

 

 

 

近年「アートと音楽-新たな共感覚をもとめて(MOT/2012)」や「ART – ENVIRONMENT – LIFE(YCAM/2013)」など、ダムタイプの高谷史郎と共にインスタレーションという形で制作・発表を行ってきた坂本龍一。2017年には、8年ぶりのアルバム「async」を発表し、それに連動して展示「坂本龍一|設置音楽展」がワタリウム美術館で開催された。3月11日(日)まで開催される今回の「設置音楽2 IS YOUR TIME」の見どころとはなにか。

 

 

 

展示空間を辿る

 

 

 

「坂本龍一 with 高谷史郎|設置音楽2 IS YOUR TIME」は、その名の通り、音楽を設置したインスタレーション形式の展示だ。記事ではその場で流れる音を伝えることができない。そのため、まずは写真とともに展示空間での筆者の体験を共有したい。

 

展示空間に入ると、奥行きがあり真っ黒な室内には、左右にモニターとスピーカーが設置され、最奥にはピアノが置かれている。空間に流れるアンビエントな音と、モニターの砂嵐のような映像や光は連動しているようだ。モニターをしばらく眺めていると、音とともに光が明滅していることがわかる。

 

 

 

 

 

 

正面奥に設置されたピアノに辿り着くと、それがただのピアノではないことに気がつく。

 

 

 

 

 

 

土埃のような汚れがついているピアノには、鍵盤の上に鍵盤を抑えるための装置がついていて、不規則にピアノを鳴らしている。その音は響きが弱く、とても美しい音色とは言えない。

 

 

 

 

 

 

断続的な音に包まれた空間を背にしばらくピアノと対峙していると、背後を漂う音や映像がこのピアノを鳴らしているのではないかと思える。しかし一方で、全く関係なくピアノが鳴っているような時間もある。

 

設置された音楽空間の中で、自分の身体が回遊したり、立ち止まって映像を眺めたり、目を瞑って音に集中したりしながら、部分と全体に注意を向ける。その時間を一通り楽しんで、体験を終えた。

 

 

 

 被災したピアノと「CODA」と「async」との関係

 

 

 

 

 

 

 

坂本龍一を5年間追ったドキュメンタリー映画「CODA(2017)」をご覧になった方は、展示空間に置かれているピアノを目にした瞬間に、どのようなものであるか容易に想像がついただろう。そう、このピアノこそ坂本が東日本大震災の被災地で出会ったピアノなのだ。

 

2011年に起こった地震による津波で、宮城県名取市にある宮城県農業高等学校は被災し、ピアノは海水や泥を浴びて修復不能となった。弦は錆びて、音の鳴らない鍵盤もあり、もはや楽譜通りの音色を奏でられなくなったピアノと対峙した時、坂本は自然がピアノという楽器を“もの”に還したのだと感じたそうだ。

 

2017年にワタリウム美術館で開催された「坂本龍一|設置音楽展」から始まり、2つ目のシリーズとなる「設置音楽2 IS YOUR TIME」も、1つ目と同様に、アルバム「async(2017)」の楽曲が空間内に設置されている。展示空間で聴こえたアンビエントな音は、もちろん「async」の楽曲だ。(筆者も30分ほど滞在したが、「ZURE」や「garden」が流れていた時が印象に残っている。)

 

「async」は被災したピアノの音も用いて制作されており、完成された楽曲を空間に響かせると同時に、空間に設置しているピアノの音も空間に響かせている。そして、ピアノに取り付けられた装置が演奏するのは、世界各地の地震発生データなのだという。自然がこのピアノを新たなものとして調律し、さらには演奏する。坂本が様々な音を子供のような好奇心で採取して作り上げた「async」と混ざりあいながら、時にはピアノが「async」の音と光を切り取り、時には「async」がピアノの音を飲み込む。そして、断続的に続く音と光の関係の変化を切り取るのは、紛れもなくその空間に存在する、自分の身体なのだ。

 

ここで思い出すのは、坂本が病からの復帰後、2016年に開催された「健康音楽」というイベントだ。マッサージを受けながらアンビエントミュージックの演奏が聴けるといった、音と、音を響かせる空間や環境、音を聴く身体との関係のあり方について実験を試みてきたことが、より一層表現に直結してきているように感じた。

 

 

 

今後の展開への期待と共に、展示を体感しよう

 

 

 

 

 

 

前回の「設置音楽展」でも、コラボレーターの一人として、長年共同制作を行ってきた高谷を採用していたが、そちらは「async」の音源を試聴するためのインスタレーションという、あくまでもアルバムが主体の位置付けだった。今回の展示では「被災したピアノをただ展示するだけでは面白くない。」と、ピアノそのものを主体としてスタートし、地震のデータによって被災したピアノを演奏するという計画に至ったのだそうだ。

 

さらに今回の展示は、地震のデータを組み込まれた装置がピアノを演奏するというメディアインスタレーションの表現のみに留まらない。コンピューターで制御された音と、演奏家による生演奏との対比を体験できる、ライブパフォーマンスも組み込まれており、そちらも見逃せないだろう。

 

今後計画しているという大規模な展示に向けて、実験としての要素を持っているという今回の展示。音と空間と身体、そして我々が置かれている自然環境との関係をどのように捉え、次に展開していくのか。「設置音楽2」はその前章として観る価値がある。

 

 

 

テキスト:宇治田エリ
写真は全て提供:NTTインターコミュニケーション・センター [ICC]
撮影:丸尾隆一

 

 

 

展示概要
会期:2017年12月9日(土)〜2018年3月11日(日)
会場:NTTインターコミュニケーション・センター [ICC] ギャラリーA
開館時間:午前11時〜午後6時(入館は閉館の30分前まで)
 * 2018年3月2日(金),3日(土),4日(日),9日(金),10日(土),11日(日)は午後8時まで。
入場料:一般・大学生 500円(400円)
*( )内は15名様以上の団体料金
* 身体障害者手帳をお持ちの方および付添1名,65歳以上の方と高校生以下は無料
主催:NTTインターコミュニケーション・センター [ICC]

 

ライヴ・パフォーマンス概要はこちら
http://www.ntticc.or.jp/ja/exhibitions/2017/is-your-time-live-performance/

 

 

 

坂本龍一

 

1952年東京生まれ。1978年『千のナイフ』でソロデビュー。同年「イエロー・マジック・オーケストラ(YMO)」に参加。YMO散開後も音楽を中心に海外に拠点を移し多方面で活動。映画『戦場のメリークリスマス』の音楽で英国アカデミー賞を、映画『ラストエンペラー』の音楽ではアカデミー作曲賞、グラミー賞最優秀オリジナル映画音楽アルバム賞ほかを受賞。数々の映画音楽を手がけるなど、作曲家としても世界的な評価を得ている。常に革新的なサウンドを追求し、2007年に山口情報芸術センター[YCAM]で委嘱制作された高谷史郎との《LIFE – fluid, invisible, inaudible …》など、インスタレーションの発表を数多く行なっている。社会的な問題へも強い関心を持ち、森林保全と植林活動を行なう「more trees」、脱原発チャリティ・イヴェント「NO NUKES」、東日本大震災の被災地支援のための「こどもの音楽再生基金」「東北ユースオーケストラ」など、さまざまな活動を続けている。2014年には、札幌国際芸術祭(SIAF)のゲスト・ディレクターを務めた。2015年、映画『母と暮せば』と『レヴェナント:蘇えりし者』の音楽を制作。2017年、8年ぶりのオリジナル・アルバム『async』を発表。ワタリウム美術館で「設置音楽展」を行なった。
http://www.ntticc.or.jp/ja/archive/participants/sakamoto-ryuichi/

 


 

高谷史郎

 

1963年生まれ。1984年からアーティスト・グループ「ダムタイプ」の活動に参加。様々なメディアを用いたパフォーマンスやインスタレーション作品の制作に携わり、世界各地の劇場や美術館、アートセンター等で公演/展示を行う。1998年から「ダムタイプ」の活動と並行して個人の制作活動を開始。舞台作品《明るい部屋》(2008年初演、世界演劇祭/ドイツ)、《CHROMA》(2012年初演、滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール)、《ST/LL》(2015年初演、ル・ヴォルカン国立舞台/フランス)を制作。マルセイユ・フェスティヴァル、國家兩廳院・國家戲劇院(台湾)での公演や、山口情報芸術センター[YCAM]、ZKM(ドイツ)、パリ科学産業会館、シャルジャ・ビエンナーレ(UAE)などでの作品展示、また、中谷芙二子、野村萬斎、樂吉左衞門らとのコラボレーション作品も多数。坂本龍一による音楽の最新パフォーマンス《ST/LL》は、2018年2月24日、25日に東京・新国立劇場で上演予定。
http://shiro.dumbtype.com
http://dumbtype.com

 

 

 

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Writer

宇治田 エリ

宇治田 エリ - ERI UJITA -

フリーランスライター

美術大学・大学院にてビジュアル・コミュニケーション・デザインを学ぶ。大学職員、グラフィックデザイナーを経て、ライターに転向。現在は、ライフスタイルやカルチャーを中心に、さまざまなWebメディアで執筆中。

 

アート情報や、作家の思いを伝えることで、若手作家がより活動しやすい環境を作ることができればと、 girls Artalkに参加した。

 

インスタレーション作品や庭園など、感覚の指向性が変化する瞬間を捉えられる作品が特に好き。

 

photo by NANAKO.Murayama






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