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認知を疑え!「レアンドロ・エルリッヒ展 見ることのリアル」

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2017年12月1日


認知を疑え!「レアンドロ・エルリッヒ展 見ることのリアル」


認知を疑え!「レアンドロ・エルリッヒ展 見ることのリアル」

 

 

アルゼンチン・ブレノスアイレス出身のアーティスト、レアンドロ・エルリッヒの展覧会が東京・六本木の森美術館で、11月18日から開催中です。

 

 

 

 

《美容院》(2008/2017)

美容院を再現した部屋には、自分が映る鏡と映らない鏡が…。

 

 

森美術館の南條史生館長はレアンドロ・エルリッヒについてこう語ります。

「昔、ヨーロッパでは魔術と科学と錬金術は同じカテゴリーで、時代と共に分化が進みました。アーティストの中には魔術師的な魅力を持った作家がいます。感動は驚きの先にあるもの。彼(エルリッヒ)は驚きに満ちた不思議な体験をさせてくれる」

 

会場には視覚的な錯覚を用いて見慣れた風景を非日常のものに変容させる作品が並んでいます。また、鑑賞者が中に入り体験できる大型の作品が多いのも特徴です。同館が「エルリッヒの全てを見せる」意気込みで企画をしたという本展は、彼の44点の作品を一堂に集め、初期の作品から近作まで楽しめる構成となっています。

 

 

《The Psychoanalyst’s Office》2005

Installation view: Fundación PROA, Buenos Aires, 2013

Photo: Clara Cullen

*Referential image

 

実像と虚像を混在させて映す仕掛けを使ったインスタレーション。写真に映っているのはエルリッヒさんの家族だそうです。建築一家に育った彼は、部屋、窓、階段などの建造物の構造自体にメスを入れました。機能性や目的と違う切り口で展開することで、鑑賞者に新しい物語を提示してくれるのです。

 

金沢21世紀美術館の常設展示の中も人気の高い作品の一つ《スイミング・プール》。実際に訪れた方は、水面を見上げる体験に驚きと、ときめきを感じたのではないでしょうか?

 

 

スイミング・プール[模型](1999)

 

 

スイミング・プール[記録写真](2014)

 

会場には模型や記録写真の展示もあり、彼のユニークな発想力を俯瞰して見ることができます。

 

  • 社会構造を批判する作品から、感じ取れること

 

エルリッヒさんの作品の一番の魅力といえば、鑑賞者に驚きに満ちた体験をさせてくれる点に他なりません。ですが、彼の作品に込められた批評的なメッセージを読み解けば、もっと深い感動を覚えるはずです。

 

 

《雲》(2016)

 

 

フランス、ドイツ、イギリスのブリテン島、日本の国の形を雲に見立てた作品《雲》。空を見上げて形を変え続ける雲に、ひとは様々な想像を反映させてきました。一見すると幻想的な美しい作品ですが、国土の大きさや形、国境は人間が勝手に線引きしたものなのだということを改めて気付かされます。

 

 

左から、根こそぎ引っ張られて[記録写真]、根こそぎ引っ張られて[模型]

 

 

2015年にドイツのカールスルーエ・アート・アンド・メディアセンターで展示された《根こそぎ引っ張られて》の記録写真と模型。根の生えた家は、建築物が有機的な活動を行う地中の上に建っているものであることを再認識させ、都市と環境問題は切り離せないことを示唆しています。家をクレーンで吊るダイナミックな見せ方には驚かされますね。

 

  • なぜ今の時代に疑う視点を持つことが重要なのか

 

同展の副題には「見ることのリアル」とあります。エルリッヒさんは展示に向けて「習慣や既成概念は恐ろしいほどの耐久性で、私たちがおそらく気付かないくらいに、私たちのリアル、現実認識をコントロールしている」と語ったそうです。今、ネットという仮想空間が多くの情報を与えてくれますが、虚実の入り混じる情報の中から私たちは毅然とした態度で取捨選択をしなくてはなりません。だからこそ自分なりの価値基準を持つ重要性を伝えたいといいます。

 

この常識を疑う観点を持つという点で、彼の作品は仕掛け自体を見せていることも大きなポイントだといいます。

 

 

《建物》(2004/2017)

危険な状況にも見えますが…。

 

 

《建物》(2004/2017)

アクロバティックに見える格好も、寝転んでいるだけ。浮かんで見える風船も床に置いてあります。

 

 

エルリッヒが扱うモチーフはどれも、日常で見る場所や建築、窓、階段などです。私たちが当たり前のように過ごす世界のあらゆるものは全て、人為的に作られたものに過ぎません。過去100年においてテクノロジーの進歩が進み、ここ20年でSNSやIT技術の進化は著しく、人の感じるリアリティも急速に変化しました。
それをただ享受しているだけでいいのでしょうか? 彼はネット社会の危うさにも目を向けるきっかけになって欲しいというのです。

 

 

《反射する港》(2014)

 

 

会場に入ると初めに、船出の意味も込めたという《反射する港》が待っています。エルリッヒさんがマジックをかけた驚きに満ちた作品の世界へ飛び込んでみてください。インスタレーション作品を通したアナログな体験は身体の感覚を呼び起こし、常識が反転した空間が新しい価値観や視点を与えてくれるはずです。

 

 

文・写真:石水典子

写真:新井まる

 

 

【概要】

「レアントドロ・エルリッヒ展:見ることのリアル」

会期:2017年11月18日(土)―2018年4月1日(日)

会期中無休

会場:森美術館

住所:東京都港区六本木6-10-1 六本木ヒルスズ森タワー53階

開館時間:10:00-22:00|火 10:00-17:00 (いずれも入館は閉館時間の30分前まで)

入館料:一般1,800円、学生(高校・大学生)1,200円、子供(4歳〜中学生)600円、シニア(65歳以上)1,500円 ※本展のチケットで展望台・東京シティヒビューにも入館可(スカイテデッキへは別途料金がかかります)

公式ホームページ:http://www.mori.art.museum/jp/

 

 

【森美術館の過去の展示のレポートはこちらからどうぞ!】

「宇宙」を想う、感じる、考える! 森美術館「宇宙と芸術展」~かぐや姫、ダ・ヴィンチ、チームラボ~

世界のムラカミ!14年ぶりの大規模個展! 村上隆の五百羅漢図展 @ 六本木 森美術館



Writer

石水 典子

石水 典子 - Noriko Ishimizu -

ライターです。

元々は作家志望でしたが、藝大受験で4浪し断念。予備校生時代に周囲にいた、アーティストの卵たちの言葉に影響を受けた10代でした。

今は、取材することで言語化されていない言葉を引き出し文章化するインタビュアーとして、アートの現場に関わりたいと思っています。

そして今、興味があることは場の活性化です。

 

好きなアーティストは、ヨーゼフ・ボイス、アンゼルム・キーファー、ダムタイプ、ナムジュンパイクなど。日本根付研究会の会員で、江戸時代から続く細密彫刻、根付(ねつけ)の普及に努めています。






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