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美女たちの謎かけの世界 橋爪彩『Girls Start the Riot』展

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2017年11月9日


美女たちの謎かけの世界 橋爪彩『Girls Start the Riot』展


 

美女たちの謎かけの世界 橋爪彩『Girls Start the Riot』展

 

 

現在、箱根・仙石原のポーラ美術館では、橋爪彩『Girls Start the Riot』展が開催されています。

 

 

©Sadao Hotta

 

ポーラ美術館は、公益財団法人ポーラ美術振興財団が助成した若手現代作家を紹介する為に現代美術ギャラリー『アトリウムギャラリー』を新設しました。

 

ポーラ美術振興財団は、約18年前から毎年17、18名の若手アーティストの海外研修を支援しています。これまで東京・銀座の本社ビルのポーラ・アネックスで作品を発表していましたが、アーティストたちの成果を見せる場として、はじめて美術館内に展示スペースを作り、約3ヶ月周期で展示を変え紹介していく予定です。

 

今回、華々しくアトリウムギャラリーオープニング展示のアーティストに選ばれたのが、橋爪彩さんです。ポーラ財団の支援で在外研修員としてベルリンに滞在し、ドイツなど欧州の国々にて制作、受賞歴もあり、国内美術館に作品が収蔵されるなど、輝かしい経歴を持つのアーティストです。

 

橋爪彩さんの作品の世界と、プレスツアーの際に行われたアーティストトーク・レポートをお楽しみください。

 


展示作品

 


「Girls Start the Riot」2011-2012年 油彩/パネルにエマルジョン地 高橋コレクション
©Sai HASHIZUME

 

個展のメインヴィジュアルでもある本作は、橋爪さんが2010年にヨーロッパ滞在を終えて帰国後に描いた最初の作品。テーブルの上に置かれたオレンジや林檎、水差し、グラスは、ポール・セザンヌの代表作や、西洋の古典絵画の静物画を彷彿とさせるモチーフです。美術史の有名作品に存在するような画面の静けさは、絵画に入り込んだ少女達によって破壊されています。テーブルの上で四つん這いになる少女は前髪で目元は隠れ、桃を踏もうとする少女は上半身が見えず、右側に腰掛ける少女は背中のみ見せています。特定の誰かではない、匿名性が与えられた少女たちは橋爪さんの作品の特徴の一つ。不特定の少女たちによる「西洋絵画」に対するRiot=暴動。何ともワクワクさせられる、美しい暴動が始まりました。

 

右「Toilettes des Filles」2011-2012年 油彩/パネルにエマルジョン地 個人蔵

左 「RED SESSION」2013-2014年 油彩/パネルにエマルジョン地 株式会社ポーラ

©Sai HASHIZUME

 

 

「Toilettes des Filles」では、左の少女は右の手鏡を手にした少女の髪をとかそうとしています。一方、黒髪の少女の手はリボンをつけた少女の首元に手をかけるところです。どうして片方の少女だけ上半身が裸なのでしょうか。化粧をしあったり、髪をアレンジし合ったり、女性たちの間ではよくある日常的な光景ですが、本作では謎めいた物語へと昇華しています。

「RED SESSION」では、黒髪の少女の目元が扇情的な赤のレースで故意に隠されています。そして、もう一人の少女の左手の薬指に指輪をはめようとしています。二人の少女たちは、西洋古典画において豊穣を象徴する柘榴(ざくろ)、現代の女の子が大好きなマカロン、いつの時代も女性が夢中になるパールのネックレスが置かれた閉ざされた紅い部屋で、秘密の約束を交わしているようです。

 

上記の2点はどちらも、フォンテーヌブロー派が描いた姉妹の絵を彷彿とさせます。作品が美術史上の、どの絵画と繋がっているのか、知識をたぐり寄せながら鑑賞できるのも橋爪さんの作品の面白さです。

 

 

「Les amies」油彩/パネルにエマルジョン地 高松市美術館
©Sai HASHIZUME

 

 

布で顔を完全に覆った二人の女性。真っ暗な背景に浮かび上がった姿は、ほとんどの部分が隠れているからこそ、少しだけ覗く肌の輝きや、手の美しさが際立っています。タイトルはフランス語で「女友達」という意味ですが、二人は、囁きあっているのか、それとも口づけをしているのか。画面の前の私たちは想像するしかありません。この作品の下敷きになっているのは、ルネ・マグリットの油彩画です。マグリットはベールに包まれた恋人たちを、男女の姿で描いていました。同性同士の恋愛も広がっていく今の時代に求められるのは、もはや同じ表現ではないでしょう。

 


アーティストトーク・レポート

 

橋爪彩さんと個展の担当学芸員、工藤弘二さんによるインタビュー形式のアーティストトークでは、作品制作の背景や、作品に込められた意味などのお話がありました。

 

工藤弘二さん:(以下、工藤さん)「個展名の『Girls Start the Riot』は、どのような思いでつけられましたか」

 

橋爪彩さん:(以下、橋爪さん)「個展のタイトルでもあり、絵のタイトルでもあります。『Girls Start the Riot』は、ヨーロッパでの長期滞在後、帰国してから初めて描いた絵です。ヨーロッパで感じた違和感が作品になっています。ポーラ美術振興財団にいただいた機会で学んだ成果である象徴的な作品です。

ギャラリーのオープニングを祝うため、なにか景気付けになるようなタイトルを探している中で、Riotとは暴動という意味の強烈なメッセージですが、前に進めていく力、躍進力を込めた作品なので、今回の個展のタイトルにもふさわしい言葉、作品であると思い選びました」

 

工藤さん:「今回は、橋爪さんの近作と最新作を展示していますが、帰国してから今日まで7年間取り組んでいる”After Image”シリーズについて教えてください」

 

橋爪さん「日本では聞き慣れない言葉ですが、”After Image”とは、残像という意味です。ヨーロッパはアートが始まった場所、アートが花開いた場所、アートの本場ではありますが、住んでいると過去の時代の亡霊を引きずるような、そこからしがみついて離れられない、過去の美術を大事にしすぎているような感覚を覚えました。また、そこから新しいものを生み出す力が足りないと思いました。そこで、このシリーズでは名画をベースに、誰もが知っている、既視感のあるような作品をテーマにしました。例えば、ゴッホのひまわり、マグリットの青林檎、セザンヌの林檎とオレンジに、自分で新しい要素を付け足しました。大事にしているのは、ほとんどの人が知っている西洋画の名作を、現代美術の中でアップデートすること。

今回の企画展(ポーラ美術館『100点の名画でめぐる100年の旅』展)のコレクションでも見られるように、連綿とつながってきた美術史の中で現代美術はどうアプローチするのか。現代美術だからといって、完全に新しいことをするのでは必ずしもなく、現代美術も積み重なった歴史の上で生み出されるもの。企画展を見ていただいた後、こちらの個展を見ていただき、美術を専門にしない方にもつながりを理解していただける構成にしています」

 

 


「This isn’t Happiness」2017年 油彩/パネルにエマルジョン地 個人蔵
©Sai HASHIZUME

 

工藤さん:「作品のモチーフとして女性像が多いですが、ただ女性像を描くだけでなく現代的にアップデートされた女性像を描かれています。アクセサリーなどの描写が特徴的ですが、こだわりをお聞かせください」

 

橋爪さん:「絵に描かれている女の子たちは、元の絵の雰囲気を伝えるような、ヨーロッパ的なアクセサリーや、高級そうに見える服を着ていますが、実はファストファッションのブランドのものです。そういったブランドは、同時代性が高くて、その一瞬をよく示した現代的なアイテムです。古いテーマをアップデートするという意味では作品の意図に合っていて、描かれたものが絵の中ではいいものに見えるというトリックもある。誰もが手にできる安価なものなので、同時代を生きる若い女性なら共感できたり、既視感があったり、美術作品でも距離を遠く感じさせないような仕掛けを試みています」

 

工藤さん:「作品では非常に細やかな描きこみが目立ちます。時間をかけて丁寧に制作されていて、写真のようだと言われることもありますが、絵肌へのこだわりを教えてください」

 

橋爪さん:「絵肌作りは女性ならお馴染みの、ファンデーションで下地を作ってから線を引いたり塗っていったりすることと非常に近いです。私の場合は買ってきたキャンバスに描くのではなく下地材を塗り、研磨するところから始めています。エマルジョン地という下地で、乳化されたもののことですが、例えば化粧品で言えばリキッドファンデーションのことです。ルネサンスからある古典技法です。白い綺麗なエマルジョン地という下地を綺麗に塗り、研磨して、つるつるにしたところで、ようやく準備ができます。ほとんど、それが絵肌を決定していて、丹念に作り込んで磨き込んだ下地が、最終的な滑らかな質感に結びつきます。

例えば唇も、絵の具でこの色を作るのではなく、色味のないナチュラルな唇の色を塗って、グロスのようなオイルに、赤色の透明色を溶いたような色を指で載せていて、本当にお化粧をしているような感覚があります。男性にはこんなアイディアはないと思うので、私が女性だからこそ、こんな質感の絵が描けるのだと思います」

 

工藤さん:「”After Image”シリーズ最新作、今回の個展の為に描いていただいた『Princess at Work』の制作の意図などをご紹介ください」

 

新作「Princess at Work」と橋爪さん
©Sai HASHIZUME

 

 

橋爪さん:「こちらは、ポーラ美術館の所蔵人気作、黒田清輝の『野辺』を現代にアップデートする形で制作した作品です。

新しいスペースでの個展の依頼をいただいて、何か新しいものを、どのように表現しようか考えました。実はポーラ美術館ができてすぐ、大学院生の頃に個人的に来た時に、黒田のこの作品の前で強烈な体験をしました。男性のシニアの多くのお客さんがこの作品を眺めながら、『綺麗だね~』と言いながらも、口元を緩める感じでご覧になっていました。もちろん、作品は若くてはじける肉体で、エステティックという意味でも美しいのですが、花や美術品をみて綺麗と言うより、何か含みを感じる言い方でした。当時、22歳の自分にとってはショックな光景でした。描かれている女性も当時の自分の年齢に近いだろうし、この女性の側に立ったような感覚にもなり、この作品の鑑賞体験が大きく残りました。

この場所で個展となった時に、美術館にある作品をアップデートしたものを作りたいと思ったときに、何か新しいものを、この作品で作らなければいけないと思いました。

タイトルは『仕事中のプリンセス』と訳せますが、プリンセスは今の時代の女性が好きな言葉で現代的です。私の作品では個人を特定させないために目を隠した女性像を描きますが、たまたま制作のため購入したアイマスクにプリンセスと書いてあり、今らしく楽しい言葉だなと思いました。

女性はいろんな意味で見られる対象であり、見る側より、見られる側という思いがあります。

見られることも仕事、眠っている姿や、黒田の作品でもくつろいでいるような一瞬さえも、見られる対象である、それは女性の身体性によるものです。でも、私たち女性は、好奇な目線でじろじろと思うがままに見られていいとは思っていない。そのメッセージが、この作品の中指を立てた左手のジェスチャーに現れています。黒田の作品で女性は花を摘んでいますが、そのままにしても意味がないので、見られることに対して一言、言っておきたいという気持ちがあって、中指を立てた女性が横たわっている絵に描き変えました。

 

アーティストトーク終了後、特別に作品の前で橋爪さんご本人の写真を撮らせていただきました。

まさに、ご自身の描く女性たちが画面から出てきたような容姿の橋爪さん。

 

 

©Sai HASHIZUME

 

同じ女性として社会に感じていること、西洋美術史を重視する風潮、一人の日本人女性として外国に暮らして感じた違和感。橋爪さんが作品を通して発するメッセージは個人的に共感する部分が非常に多くありました。何よりも、一目見ただけでは写真に見えるような、卓越した画力、目を離さずにはいられない美しい艶やかな女性たちの姿には驚かれるでしょう。美しいだけではなく、多くの疑問を投げかけてくれる絵画、目にすれば、考えずにはいられなくなってしまう絵画。是非、展覧会に足を運び、実物を見ていただきたいです。今後の活躍にも目が離せないアーティストです。

 

同時開催の『ポーラ美術館開館15周年記念展、100点の名画でめぐる100年の旅』もお見逃しなく!黒田清輝の『野辺』も公開されています

 

 

 

文・Foujii Ryoco

画像提供・ポーラ美術館

写真・Foujii Ryoco、丸山順一郎

 

展覧会概要橋爪彩『Girls Start the Riot』展

会場:ポーラ美術館 

TEL:0460-84-2111

住所:神奈川県足柄下郡箱根町仙石原小塚山1285 

(小田原、箱根湯本からポーラ美術館まで直行のバスが出ています。詳しくはHPで。)

会期:2017年10月1日(日)~2018年1月8日(月・祝) ※会期中無休

開館時間:9:00~17:00 ※入館は閉館の30分前まで

ホームページ:http://www.polamuseum.or.jp/hiraku_project/01/

橋爪彩アーティストホームページ:http://saihashizume.com

 

 

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Writer

Foujii Ryoco

Foujii Ryoco - Foujii Ryoco  -

生まれも育ちも東京。初めて歩いたのはフランスのアヴィニョンの橋。

海外に親戚の多い家系で育つ中で、日本美術に魅了され、 学習院大学文学部哲学科にて、浮世絵、ジャポニスムを研究、学芸員資格を取得。 その後、百貨店にてファッションアドバイザー、マネージャーを経験するも、 芸術の国・フランス留学への道が諦められず渡仏。
レンヌ第2大学大学院にて美術史を専攻、博物館でのインターン、ワークショップの参加、各地方の美術館、ギャラリー訪問、アーティストとの交流を通し、 芸術が日常生活に溶け込んでいる環境に感銘を受ける。

絵画のある空間は、芸術家たちが、私が私自身の心と向き合わせてくれる、大切な場所。 美術館や博物館は、未来のために存在する、なくてはならない場所、温故知新のための場所。

2016年9月よりパリへ。日仏の架け橋になることを目指し、日々精進。 狂乱の時代のパリで成功を収めた画家、藤田嗣治に憧れている。

blog: ryocofoujii.blogspot.jp
instagram: coco.r.f






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