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「写真とは何か?」のその先へ “しつらえ”の日本芸術〜中目黒の現代陶芸店で写真家の作品を展示販売〜

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2017年8月5日

「写真とは何か?」のその先へ  “しつらえ”の日本芸術〜中目黒の現代陶芸店で写真家の作品を展示販売〜


「写真とは何か?」のその先へ“しつらえ”の日本芸術
〜中目黒の現代陶芸店で写真家の作品を展示販売〜

 

東京・中目黒の現代陶芸店「Pond Gallery」にて写真家・隼田大輔の作品を8月末まで展示販売している。暑さの盛りに開催される同企画に、奇しくも同い年の同じ写真家である店主が意図したのは“夏のしつらえ”としての写真展示であった。うつわと写真とが調和し、清浄な雰囲気をかもし出している空間をgirls Artalk編集部が訪ねた。

 

 

美意識が結んだ両者の縁

 

 

Pond Gallery店主・池田裕一(写真左)と写真家・隼田大輔(写真右)

 

 

今回、写真家・隼田大輔が作品を展示販売するのは、美術ギャラリーではなく、東京・中目黒と祐天寺の中間に佇む現代陶芸店「Pond Gallery」。隼田と同じく、写真家の肩書きを持つ池田裕一が、今年の2月に本格開業させたお店だ。

 

 

隼田と同店の出会いは今年の初夏、“お客”としての訪問であった。この数年、陶芸への関心を強めていた隼田。全国の窯元巡りをしながら、陶芸の消費地として一番大きい東京の小売店のレベルの高さも再認識した。そして、東京中の陶芸屋巡りを始めた頃に出会ったのがこのお店だったという。

 

 

隼田は言う。「初めてこちらを訪れたとき、取り扱われているうつわのセレクトが僕の美意識と非常に近いと感じ、驚きました。後で話してみたら、池田さんは僕の以前出した写真集(編集部註:「うばたま」)のことも知ってくれていて、同い年の写真家ということも分かり、すぐに意気投合しました」

 

 

それから一気呵成に話が進んだという今回の企画。なんだか、“写真”と“うつわ”に強く共鳴するところがあるように思える話だ。写真家でありうつわ屋でもある池田は言う。「個人的には、写真もうつわもただ自分の好きなものという感じです。ただ、どちらもドラマチックにみせようとしていないものに惹かれます。隼田さんの作品も、ものすごい瞬間を切り取ったような写真は1枚もない」

 

 

店内には3枚の写真作品が展示されているが、店主に希望すれば他2枚も鑑賞可能。今回の展示に合わせ、限定100枚のインクジェットプリントも販売する

 

 

写真を「どこで撮ったか」は重要ではない

 

 

隼田大輔「GOLDEN SHEEP #001」(2012)

 

 

そもそも隼田が陶芸に興味を持つようになったきっかけは、自分の作品と日本の芸術が表現してきた「幽玄」に共通した意識を感じ取るようになったことだという。そうして、日本の古美術を学び始めたのが30歳頃。それから、古美術といえば茶道、茶道といえばうつわという変遷で関心を広げてきた。

 

 

隼田のそのような日本芸術への志向は、彼の作品群を見てみると少し意外に感じる人もいるかもしれない。彼の作品は、月の光だけで撮影し、人工照明のない真の暗闇というものを模索した初期の代表作「うばたま」や、今回の羊をモチーフに美の起源を求めた「GOLDEN SHEEP」といったシリーズをはじめ、日本芸術への志向があるにも関わらず、一体どこで撮られたかわからないような光景だという印象を受ける鑑賞者も多い。

 

 

北海道で撮影したという「GOLDEN SHEEP」にはまったく地域性や日本的なイメージを感じないと伝えると、「作品をどこで撮ったかというのは重要ではありません。どこでも有り得るかもしれないし、どこでも有り得ないかもしれない、もしかしたらあなたの脳内映像かもしれない、といった光景の方が面白い」と隼田は答える。

 

 

隼田大輔「GOLDEN SHEEP #002」(2012)

 

 

草花を配するように、写真を展示する

 

青年期を通じて、写真と日本文化への造詣を深めていった隼田。“夏のしつらえ”がテーマとなった今回のコラボレーションについてこう話す。

 

 

「テーマは池田さんから提案してもらいましたが、写真をどのようにつかってもらうかはその人にお任せしたいと思っています。僕としては、自分が心地よいと感じる空間で展示できて嬉しいし、陶芸好きの人たちが写真をどのように受け取ってくれるかということにも興味が湧きました」

 

 

 

 

今後も、お店の空間やうつわを魅力的にみせるために、季節の草花を配するように、写真を展示することを考えているという同店。初の試みとなった今回の写真展示についての手応えを店主の池田は次のように述べた。

 

 

「どんな感じになるのか、僕も飾ってみるまでわからなかったのですが、実際やってみるとお店と良い按配で調和しました。最近暑い日が続きましたが、そういう時にこういう写真があると涼しげです。

 

 

写真好きな人は季節に合わせて飾る写真を変えたりします。器もそういう楽しみ方があって、夏になると染付やガラスなどに器も衣替えをするんです。食器棚の中で使わないものは奥に、使うものは手前にと入れ替えたりするんですよ」

 

 

 

 

“生活の匂いがする場所”で展示すること

 

 

ところで、ギャラリーや美術館で目にする、作品を展示するための白い壁で囲まれた“ホワイトキューブ”。空間が作品に影響を与えない環境をつくることを意図したものであるが、それ自体を作品化する作家も現れるほど、それは相対的なものとなってきた。

 

 

「自分にとって心地いい空間で展示できることが嬉しい」と語っていた隼田。あらためてホワイトキューブではない空間において作品を展示するということは、作家の体験としてはどのような意味があるのだろうか?

 

 

「今回うつわというある種の生活感が漂っているところで作品を展示することに面白みを感じました。ホワイトキューブで展示するのも、毎回だと僕も飽きてしまいます(笑)。

 

 

日本の芸術とは、伝統的に生活芸術として成立してきました。陶芸も日本においては芸術の一つのジャンルであり、それと僕の写真が並んでいるということは、僕の考える日本的な芸術のあり方に近いものがあります」

 

 

茶道の他に、江戸指物の勉強もしている隼田。今回の作品の額縁も希少な天然の秋田杉で自作した

 

 

写真は目的ではなく、あくまで手段

 

 

隼田は自分の作家活動を「日本の芸術の延長に位置づけたい」と言う。その視点は、彼のフランス留学などの海外経験から生じた“反動”なのだろうか?

 

 

「確かに、現代アートというものが、西洋の制度の上でしかやっていないのではないかという反発心はあります。しかし、それだけでなく、近代という時代において芸術は『絵画とは何か』『写真とは何か』というような問いかけが中心であったことに対する問題意識の方が強い。

 

 

森山大道さんが「写真とは何か」を徹底的に突き詰めた「写真よさようなら」をみて、圧倒的にすごいと打ちのめされました。ですが、それとはまったく別のところで、本当に正直なところ「結局、答えなんてないよな」という感覚もあります(笑)。写真を目的化したらその瞬間に終わるというか、写真を使って何ができるかを考える方が、僕には意味があると思うんです。そこに、生活芸術としての日本志向が重なってくる部分はありますね」

 

 

 

 

「girls Artalk編集部」の編集後記

 

 

今回の展示を初めて訪れたとき、お店全体が自分をもてなしてくれているような感覚をおぼえた。うつわを中心に、アンティークの家具、音楽、アロマの香りが調和した店内。そこに、隼田の写真が添えられることで、さらに静謐さが際立った空間で、久しぶりに心鎮まる時間を味わった。

 

 

今回、同企画がテーマとして提示した“しつらえ”という言葉。「設え」と表し、準備することを意味する。隼田が現在学んでいる茶道においても、大成者・千利休が「おもてなし」という言葉と並べて重視したものだ。お客様をもてなすために、掃除に始まり、香り、お花と花器、料理と器……を用意する一連がしつらえである。

 

 

その意味で、今回私は美意識に基づく丁寧なしつらえから、芸術的な体験を得たと感じている。「うつわとは何か、写真とは何か、そして芸術とは何か」について考えを巡らせるのももちろん楽しい。しかし、四季おりおりの暮らしが楽しい土地に暮らす私たち。ときには、季節や生活の延長としてのアプローチから芸術を味わうのも一興だ。

 

 

 

《profile》
はやた・だいすけ
1981年兵庫県生まれ。2005年横浜市立大学商学部社会学専攻卒業。
主な展示に、TRANS ARTS TOKYO(2015)、「隼田大輔 2006-2013」FARO Creative Space(2013)、「いさなとり」ギャラリー雅景錐(2012)、「うばたま」(ALLOTMENT TRAVEL AWARD 授賞展) 長久手町文化の家(2011)など多数。2012年に私家版写真集『うばたま』出版。STEIDL BOOK AWARD JAPAN (2016 )入選。PDN EXPOSURE AWARD(2016)入選。ウェブサイトhttp://www.hayatadaisuke.com

 

 

 

《information》
7月15日(土)~8月31日(木)
Pond Gallery
〒153-0051 東京都目黒区上目黒2-30-8
Tel&Fax : 03-5794-4355
東急東横線 中目黒駅、祐天寺駅より徒歩10分
営業時間:12:00 – 19:00
定休日 :月曜・火曜
店舗詳細や、出張などによる臨時休業などのお知らせは
Instagram https://www.instagram.com/pond_gallery/?hl=ja

 

 

 

《作品情報》
「GOLDEN SHEEP」
画像サイズ900x1150mm ラムダプリント ed.5 270,000円+税(額縁付き)
画像サイズ461x590mm ラムダプリント ed.5 90,000円+税(額縁付き)
画像サイズ279x345mm インクジェットプリント ed.100 9,000円+税(額縁なし)