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旅と芸術 〜発見・驚異・夢想〜

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2015年12月8日


旅と芸術 〜発見・驚異・夢想〜


この展覧会が開催されている会場は埼玉県立近代美術館。

ライフワークの中心が都内の方にとってはあまりなじみがないかもしれないが、素敵な展覧会を数多く開催している。

黒川紀章氏が設計したこの美術館は、北浦和公園の中に建てられている。

 

美術館遠景写真<美術館遠景>挿入 撮影:松本和幸

 

公園には、音楽に合わせて水しぶきの鼓動が楽しい噴水、立体作品が展示されている彫刻広場、
そして四季折々を感じることができる豊かな自然。
公園内で私たちを見守ってくれるのは、しだれ桜、ケヤキ、クスノキ、プラタナス、ヒマヤラスギ…。

音楽噴水を楽しめるベンチや、秋には落ち葉の絨毯、そして、初夏にはまぶしい緑の芝生を一望できる
スペースなど、美術館の中を旅した余韻を味わうのは何て素敵だろうか。

 

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さて、今回の展示では、これまであるようでなかった旅と芸術。
歴史の古いものから順番に全部で第6室に分かれている。
まだ異国がどんなものか知らずに想像で描かれていた時代、少数の旅人からグランドツアーが盛んになった時代、
植民地化した国への旅が可能となった時代、交通や産業の発達により観光や小旅行が身近になった時代…といった
歴史的に旅のあり方をたどることができる。
それに加えて、ゴーギャンのように実際に放浪した旅から、不思議の国のアリスのような空想の旅、
その他、冒険の旅、巡礼の旅、亡命の旅などといった、様々な旅の種類を取り上げているため、
時代を経て移り変わる旅への概念も考えさせられる。
こうした旅に関する線をたどるために、1度は聞いたことがある有名が芸術家たちの、
旅に携わる作品が少しずつ集められていて、何とも贅沢な空間になっている。

 

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さらに今回の展覧会で私が魅力と感じた要素の1つは、
芸術家たちのそれぞれの旅を追体験しているような気分になることだった。

 

第2室にある次の作品は、芸術家たちがインドやエジプトなどオリエントに想いをはせていた時代のもの。
西欧の芸術家たちにとって、オリエント文明はエキゾチックで魅惑的だったらしい。

この時代の写真の技術は撮影するまでに時間を要していたため、一定時間ポーズをとる、
いわゆる「やらせ」だった可能性が濃厚だそうだ。

 

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撮影者不詳《砂漠の祈り》19世紀後半 個人蔵

撮影者不詳《砂漠の風景》m
撮影者不詳《砂漠の風景》19世紀後半 個人蔵

 

ドラクロワの作品では、アフリカの強い陽光を表現するために、色彩表現が工夫されたらしい。
未知なる「発見」によって絵画の技法もまた変わっていくということがまた面白い。

 

ウジェーヌ・ドラクロワ《墓地のアラブ人》m
ウジェーヌ・ドラクロワ《墓地のアラブ人》1838年 公益財団法人ひろしま美術館蔵

 

こうしたやらせや技法の変化は、その土地らしさやそこで感じた「驚異」に対するこだわりぬかれた姿勢とも言える。

 

第3室では、自然豊かなフランス・ノルマンディー地方や、その他西欧各地に気軽に訪れることができ、
印象派の芸術家が現れた頃の作品を見ることができる。
私たちがよく知っている、モネ、モネの師匠のブーダン、ルソー、たちがこんなにも各地を旅していたのかと驚き、
旅と芸術が切り離せないものだと感じるかもしれない。

ブーダンとモネの次の作品はほぼ同じ場所で描いたと思われる。

 

ウジェーヌ・ブーダン《ノルマンディーの風景》m
ウジェーヌ・ブーダン《ノルマンディーの風景》1854-57年 丸沼芸術の森蔵 (埼玉県立近代美術館寄託)

クロード・モネ《ルエルの眺め》m
クロード・モネ《ルエルの眺め》1858年 丸沼芸術の森蔵(埼玉県立近代美術館寄託)

 

牧歌的という言葉がぴったりくるブーダンの作品も、澄んだ
自然の空気を肌で感じさせるようなモネ作品もどちらも素敵だ。

ブータンがモネに風景画を描くことをすすめ、モネはこの絵を書いた頃、画家になることを決めたという。
彼にとってこの情景は、新たな自分の発見とか確信とか決意だったのでは。そんなこともふと思う。

芸術家それぞれの発見や驚異を絵に描き、写真におさめていく。

その旅でどんな風に感じて、どんなことに驚き、何を考えて、何を知りたいと熱望し、
何に夢中になり、どんなものを発見して、どんな自分と出会えたのか。

芸術家たちの旅アルバム、旅日記を垣間みているような、そんな気持ちになっていく。
この情景をとどめておきたい、そう思って普段と異なる場所で感じた
それぞれの大切なものをこっそり見させてもらっている気分だ。

さらに、この展覧会の魅力の2つ目は、空想の旅や
それぞれの抱える心象風景の大切さを思い出させてくれる点である。

なぜなら私にとって、旅と空想が切り離せない事象だからである。

第5室では、海底2万マイルや不思議の国のアリスといった空想物語の挿絵や、
シュルレアリズムといったそれぞれのもつ無意識な世界を表現した作品が並ぶ。

 

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テオフィル・ゴーティエ(子)著、ギュスターヴ・ドレ画『ミュンヒハウゼン男爵の冒険』m
テオフィル・ゴーティエ(子)著『ミュンヒハウゼン男爵の冒険』
(ギュスターヴ・ドレ画「われわれが丸く輝く巨大な地球を発見したとき」)刊行年不詳(1862年初版) 
明治学院大学図書館蔵

 

私は生まれてこのかた「森の妖精」も「森を歩くロバ」も「空高く飛ぶ船」も見たことはない。
しかし、そういった作品を眺めると、よく知っているような気持ちになれる。
子ども特有のファンタジー体験や読書体験からなのか…そういえば、小さい頃、私の空想の旅では、
猫の仲間ができたり、お喋りをする木や花に出会ったり、どこかの国の王族になったりしたものだ。

 

旅に出ると、五感すべてで日常とは違う新しい刺激を得ることができる。
温度、湿度、匂い、色の見え方、光の強さも変化して感じる。
日常と違う身体の感覚を味わうことで、いつもより思いもよらぬことを考察してみたり、
ファンタジーや心象風景が広がったり、異国の地なのになぜかふと幼少時の懐かしい記憶が蘇えったりする。
それは、旅での「発見・驚異・夢想」につながるプリミティブな感覚は、
幼き頃のに体験したものと、とてもよく似ているからではないだろうか。

幼き日の未知に溢れた世界は、私にとっては十分に冒険であり、空想としての旅でもあった。

 

大人になった今でも、旅を通してこうした感覚を取り戻すと、日常をより豊かに生きていくことができる。
反対に、日常にいても例えばこのような作品に触れることで、「旅」をすることは可能なのである。

美術館の外を出たらすっかり日が落ちて真っ暗だった。
寒い冬の訪れを感じる日だったが、なんだか身体の中心は暖かかった。
何だかズンズンズンと、どこまでも歩いていけそう気がした。
旅をした後だからだろうか。公園内はすっかり秋の装い。落ち葉を踏みしめる音だけが響いていた。

 

文 ・写真 / Yoshiko

 

【情報】

旅と芸術 〜発見・驚異・夢想〜

 

会場:埼玉県立近代美術館
会期:2015年11月14日 – 2016年1月31日 ※会期中に一部展示替えがあります。
   前期は11月14日~12月20日、後期は1月5日~31日
開館時間:10:00 ~ 17:30(入場は17:00まで)
休館日:月曜日(1月11日は開館)、および年末年始(12月21日~1月4日)
観覧料一般1200円、大高生960円
HP:http://www.pref.spec.ed.jp/momas/

 

 



Writer

Yoshiko

Yoshiko - Yoshiko -

東京都出身。中高は演劇部に所属。大学、大学院と心理学を専攻し、現在は臨床心理士(カウンセラー)として、「こころ」に向き合い、寄り添っている。専門は、子どもへの心理療法と家族療法、トラウマや発達に関することなど教育相談全般。

子どもの頃から読書や空想、考えることが大好きで、その頃から目に見えない「こころ」に関心があり、アートや哲学にも興味をもつ。

内的エネルギーをアウトプットしているアートと沢山携わりたいとgirlsartalkに参加した。昨年はゴッホ終焉の地であったオーベルシュルオワーズを訪れるため、パリに一人旅をし、様々なアートを見てまわる。






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