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~500年の時を超え人々を魅了し続ける ブリューゲルの驚異の想像力に迫る~

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2017年5月3日

~500年の時を超え人々を魅了し続ける ブリューゲルの驚異の想像力に迫る~


~500年の時を超え人々を魅了し続ける ブリューゲルの驚異の想像力に迫る~

 

 

 

 

『ボイマンス美術館所蔵 ブリューゲル「バベルの塔」展 16世紀ネーデルラントの至宝―ボスを超えて―』が、東京都美術館で2017年4月18日(火)から7月2日(日)まで開催される。

 

目玉はもちろんブリューゲルの「バベルの塔」だが、本展の魅力はそれだけではない。

 

ピーテル・ブリューゲル1世、彫版:ピーテル・ファン・デル・ヘイデン
《大きな魚は小さな魚を食う》1557年 Museum BVB, Rotterdam, the Netherlands

 

あなたはこの展覧会で、今まで見たことののない、いや、想像すらしたことのないミステリアスな絵画世界に出逢うことになる。

 

それは画家の空想の世界であると同時に、現実よりもリアルな内的世界である。

 

16世紀ネーデルラント(現在のオランダ・ベルギー)では、画家個人から大衆へその不思議な精神世界が共有された。彼らの空想は芸術という名目で市民権を勝ち取り、現実よりも強く人々の心に住みついた。

 

じつはこの空想世界、芸術家に魅せられたファンの心のなかで密かに細胞分裂を繰り返すように増殖し、現代にも脈々と受け継がれている。
それは一体どんな世界なのか?

 

さっそく見どころをご紹介しよう。

 


ヨハネス・ウィーリクス(版刻)
《ピーテルブリューゲル1世の肖像》(部分)1600年出版 Museum BVB, Rotterdam, the Netherlands

 

今から約500年前に活躍したフランドル絵画の巨匠ピーテル・ブリューゲル1世。

 

聖書の物語や風景、農民の暮らしなどを描いているが、現存する油彩画はわずか40点ほど。

 

その中のでも傑作と名高いのが本展の目玉となる「バベルの塔」である。

 

ピーテル・ブリューゲル1世 《バベルの塔》1568年頃  Museum BVB, Rotterdam, the Netherlands

 

17日に行われた内覧会でボイマンス美術館 シャーレル・エックス館長は、「バベルの塔」は「人類の勇敢な挑戦を描いた、想像力と真実の物語」であると解説した。

 

さらに「文化の素晴らしさとは答えのない問いかけができること、そしてその答えはまた別の世界、ファンタジーの世界にあるのかもしれない」と優れた作品が持つ力を語った。

 

ボイマンス美術館館長シャーレル・エックス氏
「この作品について3週間語ることができる」と会場を沸かせた

 

◇壮大なスケールと圧倒的な想像力

 

「バベルの塔」の逸話はそれまでも他の画家が題材にしてきたが、ブリューゲルは圧倒的な想像力と卓抜した技術によって、かつて誰も思いつかなかった壮大なスケールで描いている。

 

彼をこの壮大な塔に向かわせたものとは一体なんだったのか?

 

「バベルの塔」物語は、人間の高慢と神の戒めの物語として知られている。
もし教訓として描くのであれば、神の怒りが塔を破壊させる様子や、人々が共通言語をなくし混乱する様子を描くだろう。その方がドラマチックな画面になるし、インパクトも出る。
しかしブリューゲルは敢えて「建設中の塔」を描いた。

 

なぜか?

 

シャーレル・エックス館長によると、それはブリューゲルが「神の怒りよりも人間が挑戦する場面を選んだ」からだという。

 

ピーテル・ブリューゲル1世 、彫版:フランス・ハイス
《アントウェルペンのシント・ヨーリス門前のスケート滑り》1558年頃  Museum BVB, Rotterdam, the Netherlands

 

ブリューゲルは、日常生活のささやかな娯楽や祭りに興じる町民、働く農民の姿を好んで描いた。

 

画家にとって「バベルの塔」は、神に支配されるものではなく、名もない人々の大いなる挑戦の物語だったのかもしれない。

 

もしもこの塔が廃墟であったなら、私たちはこれほどまでに執拗にこの塔を研究したりしないだろう。
この塔に生命力を与えているのは無名の人々の様々な営みであり、彼らがその手で造った(という設定)だからこそ興味が尽きないのである。

 

◇驚異の写実

 

作品の大きさは59.9✖74.6cm。
20号サイズ(新聞紙見開き1枚分くらい)の中に描きこまれた人物は、なんと約1400人!
しかも、それぞれの人物は建設材料を運ぶ人や馬にまたがる人、行列をなす人など場所ごとに書き分けられている。
コメ粒よりも小さい描写で人物を描き分けるとは、まさに神業である。

 

展示会場2階 「バベルの塔」を拡大した巨大な壁。人物が描き分けられているのがよく分かる。

 

◇舞台設定は自分が生きている「今」

 

ブリューゲルは絵の舞台を自分が生きた16世紀のネーデルラント(現在のオランダ・ベルギー)に移し替えた。
建設の重機を正確に描写したり、窓には洗濯物を描きこんだりと、当時のリアルな生活の様子を表現している。

 

◇ブリューゲルを虜にした画家 
ヒエロニムス・ボス

 

ヘンドリック・ホンディウス1世《ヒエロニムス・ボスの肖像》(部分)1610年  Museum BVB, Rotterdam, the Netherlands

 

さて、ここでいま一度、本展の副題に注目してほしい。

 

「16世紀ネーデルラントの至宝−ボスを超えて−」

 

そう、もう一人のキーパーソンは、奇想天外で独創的な世界を描いたヒエロニムス・ボス 。
ボスの強烈な個性は多くの画家に影響を与えており、ブリューゲルもそのうちの一人である。
本展では、世界に約25点というボスの希少な油彩画のうち2点が初来日する。

 

  

一度見たら忘れられないボスの怪物モチーフ。

ヒエロニムス・ボス 彫版師不詳《樹木人間》

1590-1610年頃

 

それでは、ヒエロニムス・ボスの初来日作品「放浪者(行商人)」と「聖クリストフォロス」をご紹介しよう。

 

ヒエロニムス・ボス《放浪者(行商人)》
1500年頃   Museum BVB, Rotterdam, the Netherlands

 

「放浪者(行商人)」は、行商人の男を描いた油彩画。

 

背負った籠には木のひしゃくと猫の皮(一体何使うんだろう?)が結わいてある。
背後のボロ家には抱き合う男女や、訝しげにこちらを伺う女が描かれている。
今まさに宿から出てきたところか、後戻りしようとしているところか。
旅人の格好はいかにもみずぼらしく、その表情は見ている私たちまでも情けない気分にする。
誘惑、怠惰、色事…。
つい眉をひそめてしまうのは、鏡のような形のこの絵に、自分自身の後ろめたい部分がなんとなく写し出されてしまうように感じるからかもしれない。


ヒエロニムス・ボス《聖クリストフォロス》
1500年頃   Museum BVB, Rotterdam, the Netherlands(Koenigs Collection)

 

「聖クリストフォロス」は旅人に扮したキリストを背に乗せて川を渡ったという聖人、聖クリストフォロスの物語を描いた作品。中央に赤い衣をまとった巨人レプロブス(のちに聖クリストフォロス=キリストを背負うもの に改名)が大きく描かれ、その背には十字架を持ったキリストが少年の姿で乗っている。

 

展示解説

 

背景には、木に吊るされた水差し(なかに誰か住んでいる!)、猟師に吊された熊、廃虚と怪物など、ボスならではの謎めいたモチーフが散りばめられている。

 

対岸に目を転じると、廃墟から這い出そうとする怪物と命からがら逃げ出す裸の男の姿。さらに奥の森では火が燃えており、なんとも不穏な雰囲気である。

 

展示風景

 

 

ボスとブリューゲルが生きた時代の絵画、版画、彫刻、全89点を通して、16世紀ネーデルラント美術の魅力に迫っている。
500年前の巨匠たちの驚異の想像力を体感していただきたい。

 

  

★関連展示も見逃せない!
2017年に蘇る 大友克洋さん流「バベルの塔」

 

 

企画展示室入口横ホワイエには、「AKIRA」「童夢」などで知られる漫画家・映画監督の大友克洋氏が「バベルの塔」を独自の解釈で描いた「INSIDE BABEL」が展示されている。

 

ブリューゲルの原画をつぶさに観察し、なんと「塔の中に川が流れているのではないか」と発見したそうだ。塔の中央部分にざっくりと切り込みを入れ、内部の構造を緻密に描き出している。

 

新たな発見に溢れた意欲作をぜひご覧いただきたい。

 

グッズも充実。ボスのモンスター達がプリントされたお皿は食欲を抑えるのにピッタリ…!?

 

 

◇ガールズアートーク  おすすめコース!

「バベルの塔」展 だけじゃもったいない!

トビカンの後はArts&Science LAB.「Study of BABEL」(東京藝術大学)へ!

 

 

 

 

東京都美術館(通称トビカン)に程近い東京藝術大学のArts&Science LAB.では東京藝術大学、東京藝術大学COI拠点主催で「Study of BABEL」と題し、精巧な複製画やプロジェクションマッピングを公開している。

 

芸術と科学技術の融合による新しい芸術表現を体感しよう。

 

 

バベルの塔の高さはどのくらい?
答えは、510mくらい。
もしも東京にあったら、東京タワー(333m)より高くてスカイツリー(634m)より低い(あら意外!)

 

 

◉3メートルを超えた大きさで立体化したバベルの塔。塔の中で実際に動いている人も見えておもしろい!

 

◉科学分析結果をもとに「バベルの塔」のクローン文化財を制作。
色味や質感、筆のタッチや凹凸だけでなく、材料や組成分布までもオリジナルに近づける新たな試みによるクローン文化財(高精細複製画)だ。
デジタル技術とアナログ技術の融合に注目したい。

 

 

 

同会場の4階では半ドーム型のスクリーンで「バベルの塔」を様々な角度から眺めるプロジェクション映像も楽しめる。

 

 

 

「Study of BABEL」は東京藝術大学Arts & Science LAB.1Fエントランスギャラリー
(東京都台東区上野公園12-8  JR上野駅・鶯谷駅より徒歩10分)で7月2日(日)まで。
http://www.geidai.ac.jp/news/2017041456149.html

 

 

 

文:五十嵐 絵里子

写真:丸山 順一郎

 

 

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開催概要
[展覧会名]ボイマンス美術館所蔵 ブリューゲル「バベルの塔」展  16世紀ネーデルラントの至宝― ボスを超えて ―[会期]2017年4月18日(火)~7月2日 (日)
[会場]東京都美術館 企画展示室
〒110-0007 東京都台東区上野公園8-36
http://www.tobikan.jp
[開室時間]9:30~17:30、金曜日は20:00まで(入室は閉室の30分前まで)
[休室日]月曜日(ただし5月1日は開室)
[主催]東京都美術館(公益財団法人東京都歴史文化財団)、朝日新聞社、TBS、BS朝日
[後援]オランダ王国大使館、オランダ政府観光局、ベルギー・フランダース政府観光局
[公式サイト]http://babel2017.jp
[お問合わせ]03-5777-8600(ハローダイヤル)



Writer

五十嵐 絵里子

五十嵐 絵里子 - Eriko Igarashi -

大阪藝術大学芸術学部文芸学科卒業。
2015年に美術検定1級取得。都内で会社員をしながら、現在アートナビゲーターとして活動中。
山形県出身、東京都在住。